プロローグ
意識が浮上する感覚。
夢から覚めるようなこの感覚をなんと名付ければ良いのだろうか。
思い返すと社会人となり早5年、入った会社が実はブラック企業だったなんてこの時代はよく聞く話だ。
まさか自分の会社もそうだと思ってなかったが、同期が次々と辞める中おかしいと思いながらも
「お前は出来る奴だ」
と上司に呪文のように毎日囁かれ洗脳されていた俺は気付かずここまで来た。
そんな上司が過労で死んだのはつい先月の話。
俺の洗脳が解けたのもその瞬間。
このままでは俺もヤバイと思い上司の葬式が終わった次の日辞表を新しい上司に出したが、怒鳴られながら突き返された。
その時に引き継ぎも無しに死んだ上司の分の仕事を押し付けられてしまい。
それが終わったのが昨日の深夜だった。
この仕事を終わらせるために19連勤していたがさすがに体が限界だったのか睡魔に襲われそこから記憶がない。
連日家に帰ることも出来ず唯一会社から出たのはいつだったかも思い出せない。
色々考えているとやっと目を開けれるようになった。
「やばいな。今何時だ?!寝過ごした!!」
意識が鮮明になると残りの仕事を思いだし慌てて身を起こす。
「……?どこだ?ここ。俺会社にいたよな?」
見渡す限り白、白、白。
上も下も右も左も全部白かった。
「これは、下手に動くとまずいよ……な?」
とりあえず現状が把握できるように待機しよう。
会社じゃないってことはどこかしら病院にでも運ばれたのかもしれないし、そのうち誰か様子を見に来るか。
待つこと2時間……
「なんもこねぇ!!!誰もこねえ!!!どうなってんの!!」
落ち着いて考えてみたら病院じゃないよなぁ。
どこなのここ。
「おや?どちら様ですか?何故こちらに?今日はもうどなたもいらっしゃらないと思っていたのですが。」
さっきまで誰もいなかった筈の目の前から声が聞こえて驚きのあまり固まってしまう。
「あぁ、申し訳ない。見えなかったですねこれでどうですか?」
そういって指を鳴らすような音が聞こえてきた瞬間人影が現れた。
「は!?誰?へ?!」
目の前の男性?女性?すごく中性的な顔に体つきをした人が申し訳なさそうな顔をして口を開く。
「あぁ。わかりました。申し訳ありません。あなたはお亡くなりになりました。御愁傷様です。」
「……へ?どういうことでしょうか」
いきなり言ってきて変な人だと思ったが自分の口からは何故か敬語が出てきた。
「変な人ですみません。でも私は残念ながら人じゃないんですよ。」
また、変なこと……じゃないのか。
急に目の前に現れたりこの見た目なんて。
「ご理解いただけたようでありがとうございます。さて、このまま話を進めてもよろしいですか?」
「は、はい。大丈夫です」
「まずはもう一度、あなたはお亡くなりになりました。理由はご自覚頂けてると思いますが。過労、ですね」
「過労……ですか。やはりそうかぁ……」
「おや?思ったよりも取り乱しませんね?ちょっと理由を覗かせていただきますね」
そういうと目が合った。
グッ……!目が離せない!
目も顔も体も動かせないまま2,3秒がたった。体感的にはもっと長い感じがしたが。
「あなたのその落ち着きようの理由がわかりました。このような環境に居たのであればある程度察しはついていたのですね。認めたくなかったのでしょうが。」
「まぁ、こんな話はここまでにしましょう。なぜ、あなたがここに居るのか、これからどうなるかという建設的な話をしましょう」
こちらにお掛けくださいという声と共にテーブルと椅子が現れる。
起きてから立ちっぱなしだったのを思いだし感謝の言葉を伝えて腰かける。
不思議と何故目の前にこんなのが出てきたのかも気にならなかった。