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浩介さんと恋人同士になった次の日、私は朝からご機嫌でした。
気分がいいからでしょうか?身体が軽い感じがします。
「おはよう、なっちゃん」
「おはようございます。穂香さん」
「ん~?何かいいことあったの?」
いきなり穂香さんに聞かれました。やはり、表情とかに出てしまっているのでしょうか?
自分ではポーカーフェイスは、結構得意な方だと思ってましたが全然ですね。
「わかりますか?」
「うん、いつもよりいい笑顔になってるよ?」
「実はですね……」
昨日彼氏ができました。と言おうとした時、後ろから抱き着かれました。見なくてもわかります。玲さんですね。
「菜摘~!今日は一段と可愛いなぁ。なんだい?いい事でもあったのかい?機嫌良さそうじゃないか」
その通り、機嫌がいいのです。いつもみたいに玲さんに揉みくちゃにされてしまいました。
「玲さんですか……今日くらいは許してあげます」
「えっ……なっちゃんが嫌がらないなんて珍しい……そんなにいいことあったんだ……」
「はい、そうなんです。昨日の放課後……」
そこまで言ったとき、クラスの女子がたくさん寄ってきました。
「なっちゃんなっちゃん、昨日告白されてOKしたって本当?」
「もしかして、このクラスの男子だったりする?」
「長身のイケメンって聞いたけど、上級生だったりするの?」
「昨日、屋上から手を繋いで降りてきたって聞いたよ~」
あれ?なんで、もうそんなに広まってるんですかね?穂香さんに言う前にバラされました。
別に私は隠すつもりとか、全くないのでいいのですが……。
みんなの情報網と噂の広がる速さには脱帽ですね。
「……今、その話をしようとしていたところです」
「じゃあ、やっぱり本当なの?」
誰かがそう聞いてきて、急に周りが静かになりました。こういう時は、みんな足並みが揃うんですね。
「はい……昨日、告白されて……お付き合いすることになりました」
「おお~~!!おめでと~~」
「おめでとう、なっちゃん」
「なっちゃんを落とした人って誰なの?」
「あ、それ、気になる~」
みんなこういう話好きなんですね。すごい食い付きです。
穂香さんと玲さんは何も言わずに見守っている感じです。なんかちょっと大人ですね。
「一組の風間浩介さんです」
浩介さんとのことは広めてしまった方が、お互いに良いと判断しました。その方が私も浩介さんも告白されることも減りますし、学校でイチャイチャしても大丈夫なのです。
「え~っ!そうなの?私、中学一緒だった……」
なんですと?浩介さんと同じ中学?
「恵美さん、中学時代の浩介さんの話、聞かせてください!」
私は恵美さんの手を取って言いました。
「もちろんいいけど、なっちゃんの食いつきがすごい……」
恵美さんは栗色のショートボブで目が大きくて可愛い子です。今日の昼休みは恵美さんとの時間をたっぷりとります。
「なっちゃん、違う中学なら入学してから出会ったの?」
「一組の風間君って背が高いさわやかなイケメンの人だよね?」
「いいなぁ~私もイケメンの彼氏欲しい~」
「あんたは幼馴染の彼とよろしくやってればいいじゃない」
「なんてこった……清浦さんに彼氏だと?」
「神はいないのか……」
「俺達の希望は女神様だけになってしまった……」
途中から、全然関係ない話や、男子達のどうでもいい話も聞こえてきました。
周りを見渡せば、教室にはかなりの人数がいて、みんな盛り上がってきています。
私はいまだに玲さんに撫でられています。む~これは浩介さんにもしてほしいですね。今度、お願いしてみましょうか。
「ふふっ……今日はなっちゃんの日って言ってもいいくらい盛り上がってるね」
先ほどまで静観していた穂香さんが言ってきました。
「ねぇねぇ、なっちゃんは彼氏できて、一部男子が落ち込んでるけど、穂香ちゃんはどうなの?」
「あ、それ気になる~」
「毎日のように告白されてるんでしょ?そろそろ誰かいないの?」
「そうそう、でも、あれだけ多いと穂香さんが知らない人も多いんじゃない?」
「実際どうなの?」
あ、今度は穂香さんに矛先が向きました。やはりみんな気になるんですね。
周りの男子は急に静かになって聞き耳を立てています。
「え?いや、私は……誰から告白されても受けるつもりないよ?まぁ、告白してくる人も知らない人ばかりだけど……それに好きな人もいないし……」
そうですよね~穂香さんは全然男子に興味ないのです。と言っても、女子に興味があるわけでもないみたいです。まだ色恋沙汰はいらないって感じです。
「うわ~マジでそうなんだ。男子もせめて、名前と顔くらい覚えてもらってから突撃したらいいのに……」
「じゃあ、穂香ちゃんは、今のところ、誰とも付き合うつもりはないってこと?」
「うん、そうだよ。もしも、誰かと付き合うとしたら……自分から告白する……かな……だから、されてもOKしないよ」
「お~~そこら辺の男子達、聞いた?」
「そうそう、聞こえてたら無駄打ちはやめて、穂香ちゃんに迷惑かけないであげてよ」
「そうだよ。断るのだって手間と時間かかるんだからね」
「そんなこと言って、あんたは告白されたことなんてないでしょ?」
「くっ、痛いところを……その内されるから!」
このクラスの方は暖かい人たちばかりですね。みんな、実は穂香さんが困っているのを知っていますからね。
「ふふっ……みんな、ありがと」
「穂香さん、少しは減るといいですね」
「うん、そうね……出来れば私の事なんかほっといて、ゼロになってほしいんだけどね……」
「む~、それは無理というものですね……穂香さんの人気を考えたら、ありえません。それこそ、彼氏でも作って学校中に認知してもらわないと……」
「う~ん……それは難しいかな……その気がないのよね……」
そんな風に話す穂香さんはどこか寂しそうで……少し悔しそうな表情をしていました。