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浩介さんとの遊園地デートから一週間以上経ち、クラスの中でも仲の良い人や、グループ分けがはっきりとしてきました。
私は元々友達が少ないので、あまり気にしていなかったのですが、気が付けば一番大きな力を持つグループにいました。そうです。完璧超人の一ノ瀬穂香さんがいるグループです。
少し前までは、穂香さんは私の中では超絶美人って感じだったのですが、更に運動神経がすごい事がわかり、日々のお弁当も自分で作ってきています。少し食べさせてもらいましたが、これがまた美味しいのです。そんなこともあって、超絶美人から完璧超人へとランクアップしました。
ついでに言うと、胸も私より大きかったです。ここまでいくと、悔しさも何もありません。
そんな中で一番嬉しかったのは、穂香さん達が私の毒舌を普通に受け入れてくれていることです。これは驚きました。最初言ってしまったときは、やってしまったと思いましたが、大丈夫でした。
私の今までの学生生活の中でも、一番友達に恵まれていると思います。
「なーつーみー!」
名前を呼ばれると同時に背後から抱き着かれました。
「ふふふふふ……捕まえた。可愛いな~やはり、一日一回は菜摘成分を補給しないと」
そんな怪しいことを言ってきた言葉の主は、更に私の頭を撫で回し、胸までまさぐってきました。いくら制服の上からでも困ります、ここは教室です。
「んっ、玲さん、触りすぎです。やめてください」
「いいじゃないか、減るもんでもないし……私たちは女同士だ。何の問題もないだろう?」
こうやって、いつも滅茶苦茶なことを言いながら、私にわいせつな行為をしてくるのは三田村玲さん。
細身で背が高くて、中性的な顔をしています。髪も私より短くて、女顔の男子としてでも通用するかもしれません。女子高とかにいたら、同性にめちゃめちゃモテるタイプだと思います。
悪い人ではないのですが、私より癖のある性格をしています。
可愛いものを愛でるのが大好きだそうで、私みたいに小さくて子供っぽい生徒が真っ先にターゲットになりました。
正直、貞操の危機を感じます。女の子が好きじゃないかという噂も流れてますが、本人は全く否定していません。私の身体は浩介さんのものになる予定なのです。女の子同士の事も少しわかりますが、今は興味ありません。
「いえ、問題しかありません。私はそっちには興味ないですから」
「ん~つれないねぇ。私はこの時が一番至福の時間なのに……」
結局、しばらくの間、解放してもらえませんでした。後ろからがっしり捕まえられたら、なかなか抜け出せないのです。こういう時、もっと身長があったらと思います。
私と玲さんでは20センチくらい差があります。5センチくらい分けてくれてもいいのに。ちなみに、胸は私の方が大きいです。玲さんは薄いですからね。
「なっちゃん、朝から大変だね」
自分の席に着くと、穂香さんが声をかけてくれました。
最近になって、仲の良い女子は私をなっちゃんと呼ぶ人が多いです。最初は誰が言い出したのかわかりませんが、私は結構気に入ってます。あだ名を付けてくれた人に感謝です。
私も仲の良い女子は、みんなに倣って名前呼びする人が多くなりました。友達が増えるのは嬉しいです。
「はい、何か逃げる方法を考えないといけません。私が可愛そうです。一番被害が出やすい昼休みだけでも、回避出来たらいいんですけど……」
「まぁ、そこは玲の気分次第ね……」
「それが一番問題なんですけどね……あれ?またラブレターですか?」
穂香さんが困った顔をしながら、ラブレターを読んでいます。
「うん……前よりは減ってきたけど……」
「それでも、全部丁寧に対応しているのはすごいです。私なんて適当ですから」
「あの断り方は、私には真似できないかな。教室まで来て、みんながいる中で告白してきたのに、興味ないです。って、一言でバッサリとかすごいなぁって思うよ」
「あ~、そんなこともありましたね。私の貴重な昼食の時間を邪魔されたので……それに、興味ないのは事実なので嘘はついてません」
「みんな見てたから結構可愛そうな感じだったけどね……今日はなっちゃんはないの?」
「はい、今日は……」
その時、私の携帯にメッセージが届いたのでチラッと確認しました。
「いえ……一件だけ……放課後に屋上に行ってきます」
私は届いたメッセージに返信すると、そっと携帯をしまいました。
放課後。
私を呼び出した人に会うために、屋上へ向かいました。屋上は私達以外には誰もいないようです。スカートを少し揺らす程度の風があって涼しく感じます。
「……わざわざこんなところへ呼び出すなんて……何かあったんですか?浩介さん」
そうです。私を屋上へ呼び出したのは浩介さんなのです。
私達はお互いの手がギリギリ届かないくらいの距離で向かい合って立っています。
「すまねぇ……次の時にって思ってたんだけど、我慢できなかったんだ。この前の遊園地で言おうとして言えなかったんだけどさ……清浦さん……好きだ!俺と……付き合ってくれないか?」
予想していた言葉。言ってほしかった言葉。だけど、実際に面と向かって言われると、私は嬉しさのあまり、すぐに動けませんでした。
浩介さんは目を瞑ったまま頭を下げています。
「浩介さん……そのままだと届かないので、膝立ちになって目を瞑ってもらえますか?」
「え?あ、ああ……」
浩介さんは不安げな表情で、ちょっとビクビクしています。可愛いです。そんな浩介さんを見て、私の方には余裕が出てきました。
私は浩介さんに近付くと、両手で浩介さんの頬を包み……そっと口付けをしました。
遊園地の時にホントはここまでしてほしかったんですよ。と、念を送りながら。
「あ……」
浩介さんがキスに気付いて目を開けました。ひどく驚いた表情をしています。顔も赤いです。もちろん、私も赤くなっているはずです。
「浩介さん……これが私の返事です。大好きです。こちらこそよろしくお願いします」
こうして、私達のお付き合いは始まりました。
これから先、絶対に離しませんから覚悟してくださいね、浩介さん。