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浩介さんのクーポンのおかげで、かなり安くお昼が食べられました。
私たちの学校は基本的にバイト禁止なんですよね。親からのお小遣いに頼らないといけないので、出費は少ない方がありがたいのです。
経済的な理由などでやむを得ない場合は許可が出るそうですが……。
この後は遊園地の定番と言いますか、コーヒーカップに乗ったり、朝とは違う種類の絶叫マシンに乗ったり。
お化け屋敷では、浩介さんがガタガタ震えて怖がっていて面白かったです。ただ、浩介さん、少しくらい男らしいところを見せてほしかったです。
私が怖がって浩介さんに抱き着いて、頭を撫でてもらって慰めてもらう計画が台無しになってしまいました。
こうなるであろうことは、最初の絶叫マシンの時に何となく予想してましたけどね。
そして今、私も予想していなかったイベントが発生しています。
浩介さんがヘタレすぎて身も心もボロボロになってきたので、次に乗る乗り物が思いつかなかったのですが、他のカップルがベンチでひざまくらをしているのを見つけました。
これしかありません。私はすぐに空いているベンチを探します。
「浩介さん、あのベンチで少し休憩しませんか?」
「え?ああ、そうだな。そうするか」
「浩介さん、少し顔色が悪いですよ。あの人達みたいにここを使ってください」
私はそう言って太股をパンパンと叩きました。ちなみに顔色が悪いというのは嘘です。
「え、いや、それは……ダメだろ……」
予想通り遠慮しています。ですが、浩介さんの喉が「ゴクリ」と鳴ったのを聞きました。
ふふふ……興味あるんですよね?嫌がってませんよね?
「大丈夫です。はい、どうぞ……」
照れている浩介さんの腕を引っ張って、半ば強引に私の太股に浩介さんの顔を着地させました。
むむ、これは私も結構恥ずかしいですね。慣れたら大丈夫だと思いますが、こんなことするのは初めてですし、暗くなってきて少し人が減ってきましたが、まだ園内には多くの人がいます。
くっ、涼しい顔でひざまくらをしている周りのカップルとは、まだまだ差がありそうです。
浩介さんも顔を赤くして恥ずかしそうです。
「なぁ、清浦さん、重くないか?」
「大丈夫ですよ。私が色々連れまわしてしまったので、少し休んでください」
浩介さんの体温が直に伝わってきます。髪の毛はサラサラしていて気持ちいいですね。
私は太股はあまり自信がないのですが、浩介さん的にはどうなんでしょう?聞いてみたいですが、正直には言ってくれないでしょうね。
硬かったとしても正直にそんなこと言われたら、このまま身体をずらして、ベンチに頭を落としてあげるくらいの事はします。
いくら好きでも、デリカシーのないのはダメです。そこに関してはしっかりと身体に刻み込んでいかなければいけません。浩介さんは口で言っても、あまりきかなさそうなんですよね。
多分、近いうちにそんなことが起こりそう――なぜかそんな予感がしました。
再び周りのカップルを見まわしてみると……あっちではキスしてます。ううっ、あれはまだできません。別のカップルは……なんか胸を顔に押し付けてるように見えます。む~、あれくらいならできそうですが、いきなりやって浩介さんに引かれてしまったら大変です。
小柄で小さくて子供っぽい私ですが、胸はそこそこありますし、柔らかさには自信あります。でも、まだこの武器は使う時ではない気がするんですよね。
周りの破廉恥なカップルはほっといて、自分たちのペースでいきます。何と言っても、私達はまだ付き合ってませんから。
「よっ……と……ありがとな」
「ふふっ……顔色、良くなりましたね。私のひざまくらは役に立ちましたか?」
「ああ、そりゃ、もちろん。さすがにずっとしてもらうわけにはいかねえしな……」
「毎日はもちろん無理ですが……たまにならいいですよ。浩介さんには特別に許可します」
「え?ホントにいいのか?でも、それって……」
「はい、いいですよ」
浩介さんが何か言おうとしてましたが、聞き取れませんでした。
私達は今日最後の乗り物に向かっています。観覧車です。やはり、これは最後に乗っておきたいですね。観覧車の順番待ちはカップルばかりです。夕方という時間帯もあるかもしれません。
そして、私達の順番がきました。
向かい合わせに乗り込んで、ゆっくり回っていきます。しばらく無言の時間があって、浩介さんが話しだしました。
「今日は、ありがとな。わざわざ付き合ってもらって……色々、迷惑もかけちまったし……」
「いえ、そんなことないですよ。浩介さんと一緒に過ごすのは楽しかったですし、色んな浩介さんを見ることができました」
「あ~……なんか情けない姿ばっか見せた気がするけどな……」
「ふふっ……そんな浩介さんも可愛かったですし、そういう姿も嫌いじゃありませんから」
「そう言ってもらえると助かるけど……なぁ、また誘ってもいいか?」
「……はい、もちろんいいです。予定は空けて待ってますから……」
いい雰囲気になってきました。私は浩介さんをじっと見つめています。浩介さんは落ち着かないのか、私を見たり、外を見たりしてそわそわしている感じがします。
当然まだ確認したわけではないですが、浩介さんも私に好意を持っていてくれることは間違いないです。私からの好意は余程鈍感な人じゃない限り気付いてくれていると思います。
たっぷり時間をかけて、浩介さんの口が開きました。
「清浦さん……突然だけど、良かったら俺と……」
来た。来ました。これって間違いなく告白ですよね。
そう思った瞬間、ガチャッと観覧車の扉が開き、
「はい、お疲れさまでした~降りるときは足元に気を付けてくださいね~」
係員の人の声が私達の耳に入ってきました。
マジですか?観覧車ももう少し空気読んで、ゆっくり回ってくれたらと思いました。せっかくいい雰囲気だったのに。
二人して笑うしかなかった出来事ですが、帰りはお互いその話には触れずに帰りました。帰りの電車で私がすぐに寝てしまったんです。知らないうちに浩介さんにもたれ掛かっていました。起きた時はちょっと恥ずかしかったです。
それにしても、観覧車の中でたっぷり時間かけた結果、言いたいこと言う時間が無くなるなんて……浩介さんらしいですね。さっさと言えばよかったのに見事なヘタレっぷりです。
でも、そんな浩介さんが大好きです。