表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/16

1

 私の名前は清浦菜摘(きようら なつみ)。中学三年生。今日は高校受験に来ているのですが、このタイミングで人生最大のピンチが訪れました。


 ――消しゴムがありません。


 先ほど筆箱をひっくり返した時に、どこかへ行ってしまったのでしょうか。周りの床も探しましたが、見当たらないです。

 試験はあと一科目で終わりですが、消しゴム無しはキツイです。他の科目の手応え的に、合格は大丈夫だと思いますが、最後で失敗したらダメかもしれません。

 どうしましょう。友達に借りようにも、この教室は知らない人ばかりです。そして、試験開始まであと二分くらいしかありません。


「なぁ、何か探し物でもしてるのか?」


 そんな時、不意に声をかけられました。左隣に座っている男の子です。金髪でチャラい感じがしますが、すごく優しい目をしています。私もそうですが、ほぼ全員マスク着用しているので、顔全体はわかりません。

 こういう外見の人は苦手な場合が多いのですが、この人は直感的に悪い人ではないと思いました。


「……消しゴムを失くしてしまって……」

「なんだ、そうなのか……ちょっと待ってくれよ」


 そう言うと、男の子は自分の消しゴムとカッターナイフを取り出しました。消しゴムはこの入試のために新調したのでしょう。ほぼ新品です。そして、迷わずカッターナイフで消しゴムを半分に切り分けて、片方を私に差し出してきました。


「ほら、これ使えよ」

「え、いいんですか?ありがとう……ございます」

「いいってことよ。俺は頭悪いから、受かるかわかんないけど、受かったらまた学校で会おうぜ」

「はい、私はこれのおかげで大丈夫だと思います。あなたも頑張ってくださいね」

「お、おう……」


 マスクしてるのでわかりにくいと思いますが、私はニコっと微笑んで言えたと思います。男の子はちょっと顔が赤いですが熱でもあるのでしょうか。

 そして、消しゴムを受け取ると同時くらいに、試験官の人が入ってきました。


 消しゴムがあるという安心感もあって、試験は問題なく解けたと思います。ただ、試験を回収する時に、隣の男の子の解答用紙が少し見えましたが、空白が結構あった気がします。大丈夫ですかね……心配です。


「あ、あの……」

「お~い、浩介!帰ろうぜ~」


 消しゴムを返そうと声をかけようとしたのですが……彼の友達でしょうか。数人の男の子がやってきて、ワイワイ騒ぎながら行ってしまいました。

 結局、消しゴムは返せないまま受験は終わりましたが、彼の名前は知ることができました。


「浩介さん……か」 


 私はポツリと呟くと、先ほどの優しい目をした男の子を思い出していました。




 無事に合格して、入学式の日がやってきました。

 私は身長も低いですし、小柄で子供っぽいので、高校の制服を着ても高校生には見えませんね。

 ちなみに身長は()150センチです。これ以上の追及は認めません。


 私と同じ中学出身の人は少ないので、知らない人ばかりです。周りを見ていると、本当に同い年なのかと思うくらい大人っぽい人もいます。身長高くてスタイル良い人とか、普段から何を食べているのでしょう?世の中不公平ですね。


 入学式が終わって、クラス分けの通りに教室に入ると、先に教室にいた人達から注目されました。男子が騒いでるのがわかりましたが、私、何か変なのでしょうか?身だしなみなどはキチンとしてきたはずなんですが。


 とりあえず、自分の席に座って待っていると、一際大きな歓声が上がりました。一体何が?と思って教室の入り口を見てみると、とても綺麗な女の子がいました。


 長くて綺麗な黒髪に整った顔立ち。手足も長くてスラっとしていて、制服の上からでもスタイル良いのがわかります。顔も小さくて見ていて羨ましくなりますね。私に少しずつでいいので分けてもらいたいくらいです。


 周りの女子も私と同じように見惚れている人が多いです。その気持ちは良くわかります。こんな綺麗な人が同じクラスだなんて、毎日目の保養になります。

 ただ、男子はみんなガン見していて、正直気持ち悪いです。よく見れば、教室の外からも見ている人がたくさんいます。

 男の人はみんなこうなのでしょうか?


 同じクラスにあの浩介さんはいないようで少し残念ですが、たくさんいた野次馬の中にいなかったのはホッとしました。

 あれ?なぜホッとしているのでしょう。

 私はあの時のお礼を言いたいだけ――そう思っていました。

 どうやら、自分でも知らないうちに、浩介さんの事を気にするようになっていたようです。


 今日は授業がないので、午前中で終わりです。特にすることもないので、さっさと帰ろうと思って外に出ると、ずっと会いたかった人がいました。

 初めて見る素顔の浩介さんは、私が想像していた以上にイケメンでした。私はチャラい感じの人はちょっと苦手なので、特別顔が好みというわけではないです。背も高くて、近くに寄ると見上げないと顔が見えません。ただ、この人はモテそうだというのはわかります。


「あ……」

「ん?」

「あの……入試の時はありがとうございました。おかげで助かりました」

「えっ?俺?どこかで会った?」


 この場には私と浩介さんしかいないのです。あ、もしかしてマスクしてないからわからないのでしょうか。早速マスクを取り出してつけてみます。

 これでわかってもらえなかったら、私は浩介さんにとってその程度の存在だったのでしょう。


「これならどうですか?覚えてませんか?」

「あ~!思い出した!入試の時の隣の子だよなぁ?」

「はい、そうですよ。浩介さんのおかげで合格することができました」

「お~良かった良かった。俺は結構ギリギリだったと思うけど、何とか合格したぜ……って俺、名前言ったっけ?」

「いえ……あの、入試の終わった後、友人の方にそう呼ばれていたので……」

「あ~そうか。しっかし良く覚えてるなぁ。ちなみに俺は風間浩介かざま こうすけ。クラスは違うけど、良かったら……その……友達になってくれないか?」

「はい、よろしくお願いします。私は清浦菜摘です。あ、浩介さんは何組ですか?」

「清浦さんか……うん……俺は一組だな」

「そうですか……私は二組なんです」


 同じクラスじゃないのは残念ですが仕方ないですね。浩介さんは少し照れているのか、顔が真っ赤です。私も同じくらい赤くなってるかもしれませんが、気にしたら負けです。こんな風に男の子と話すのは初めてなのです。


「じゃあ、体育の時は一緒になるかもしれないな……なぁ、良かったら……連絡先、交換してもらってもいいか?」

「え?はい、いいですよ」


 良かったです。私もいつ言おうかとタイミングを計っていたことを、浩介さんが言ってくれました。浩介さんから言ってくれたという事は、私に悪い感情はもってないと思っていいですよね。

 連絡先を交換して、顔がにやけそうになるのを我慢していると、遠くから浩介さんを呼ぶ声が聞こえてきました。


「あ~、わりぃ。連れと一緒に帰る約束してたんだ」

「そうなんですね。わかりました。あとで、メッセージ送ってもいいですか?」

「え?もちろんいいぜ。じゃあ、またな」


 後で聞いた話ですが、浩介さんはこの後、奇声をあげてガッツポーズしていたらしいです。可愛いですがキモイです。その時、側にいなくて良かったです。直接見ていたら、好感度が少し下がっていたかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ