頂上決戦
「欲しいものは、誰にも負けない格闘センスで良かったんじゃな?」
年の瀬の、真昼間から掛けられた声はそんなものだった。
私は振り向き、顔をしかめる。
「何っ? ってか、誰っ?」
「誰って、見て解らんか? サンタクロースじゃよ」
その人は不思議そうな顔で答えた。
赤と白の格好に帽子。口元には白い長いひげが蓄えられ、大きな袋をしょっている。
確かに、この季節には、ケーキ屋の呼び込みや、はしゃいだ大人など、街角でよく見る格好だし、誰が見てもその姿はサンタクロースだってわかる。
ただ、二日過ぎただけで、一気に怪しさが倍増する。
「おじいちゃん、クリスマスはもう、二日前に終わったよ」
私は優しく伝えると、その場を立ち去ろうとする。
もちろん、こんな変なのに関わりたくなかったからだ。
「おぬしのせいで、二日も遅れたんじゃ! しかも、おぬしの願いのせいで、協会はわし一人だけ、その他の子供たちの配達までさせてくれなんだ!」
「私のせい? 何で?」
「おぬしの願いを叶えるため、道場に弟子入りしたからじゃ!」
「道場に弟子入りって、おじいちゃん幾つよ?」
「70じゃ! だから、サンタクロース協会では一番若手で、可能性のあるわしが選ばれたんじゃ!」
そう言って自称サンタクロースは、背中に背負っていた荷物を下ろし、構えを取った。
小学校から空手をやっている私には解った。
このおじいさん出来る!!!
「しかし、25日を過ぎても道場の師匠が許可を出してくれず、今日、ようやく二日遅れで許可をいただいたんじゃ!」
「ちょっと待って、私のせいって、私の願いは、誰にも負けない格闘センスじゃないよ!」
「そんなはずはない、ちゃんと願いは協会に届いとる」
自信満々に自称サンタクロースは答えた。
「だから違うって! それに、何で高校生にもなった私に?」
「それは、おぬしがサンタクロースを信じとるからじゃよ」
私は焦る。
私達の周りには、何かのイベントかとギャラリーも増えて来たのに、何てこと言い出すのか。
「ばっ、バッカじゃない! そんなわけない! サンタさんなんて、居たらうれしいけど、居る訳ないじゃない!」
「現に目の前におる」
「コスプレでしょ!」
自称サンタクロースは不敵に笑った。
「それでもかまわん! かかってこい!」
「なんでそうなるのよ! 私の願いは、誰にも負けない格闘センスなんでしょ? 本当は違うけど」
「だから、まずはわしが、そのセンスを習得して、おぬしに指導してやろうと、本場中国の道場で修行したんじゃ。最初なんて言葉も通じず、トイレの場所も聞けんくらいひどいもんじゃったが、今じゃ広東語もペラペラじゃ」
少し頭が痛くなってきた。
どこか間違っているんではなく、どこもかしこも間違いだらけだ。
「そんな回りくどいことしないで、魔法とか、不思議な力で私の願いを叶えれなかったの? ほんとの願いは違うけど」
「………」
自称サンタクロースは、「あっ!」っという何かに気付いた顔をしてから、私を見ると、とぼけた顔をした。
「そんな事、もし出来たとしても、わしからクンフーを盗むめば同じことじゃ!」
クンフーとか言い出しちゃったし。
「同じじゃない!」
「もういい、細かいことは気にせず、かかってこい! 最終奥義、寸勁、千龍烈破!!!」
「私のやっているのは、中国拳法でも、少林寺拳法でもない! 空手だ!」
私の見事な、対の先が決まる。
自称サンタクロースはよろめきながらも、それに耐えた。
「なんじゃと? しかし、そんな事知るか―! 究極奥義、五式、朱雀落鳳!!!」
「知るかーってなに! それにそもそも、私の願いは違うって言ってるだろー!」
私の跳び蹴りが自称サンタクロースの顔面を捉えた。
彼は倒れこむと、鼻血をたらした顔をこちらに向けた。
「確かに、これほどまでのクンフー。二か月みっちりと精進したわしの技が通じないなど、最初っから格闘センスがおありじゃな」
二か月でこれって、自称サンタクロースもすごいけど。
「じゃったら、本当の願いはなんじゃったんじゃ! 教えてくれ!」
私は頬を染めたまま小さく言った。
「かっ、彼氏が欲しい………」
「あっ、わし、既婚者なんで」
私はもう一度、拳を握った。
なんだ、この話は? です。
最近、東京祓い屋奇譚が煮詰まって、軽い感じでブログに載せたの、そのまま載せます。
時期も違うのに大丈夫か、オトノツバサ?
一体どこへ行く?
なんて、自分でも分かってます。
絵がないので、「ん?」っと、思うかも知れませんが、有っても「ん?」っとなるのでご心配なく。
要するに、こっちを更新してたら煮詰まってるなー。と思って下さい。
さー、そろそろ始めなきゃな。