絵葉書
「僕には夢がある」
と、言ったところで、他人に誇れるようなものでも、野望が渦巻く様なたいしたものでも無い。
しかも、今まで忘れていたような夢だ。
だけど、面白味もないほど真面目で、世間に反抗などしたことなど一度しか無い僕に取ったら、それはきっと夢なんだと思う。
僕は駅のホームで電車を待ちながら、荷物を担ぎ直した。
「昔さ、親父が線路を歩いて隣町まで行ったんだってよ」
こどもの頃、そいつはそう楽しそうに話てた。
成績や素行がよくない、そいつと僕がよく一緒にいることを、他のみんなは不思議がっていた。
だけど、その当時は理由なんてなかったんだ。
「連れと2人で、とにかく何かしたくってさ。――――夜中に駅に集まって、誰もいない時間を見計らって、線路の上を歩いて行ったって。すっごく時間が掛かったのに、けっきょく、隣町のホームで駅員さんに見つかって、こっぴどく怒られたらしいけど………」
枕木を数えながら歩いている僕に、そいつは、まるで平均台から落ちないように、両手を飛行機のように伸ばして、振り向き笑い付け足した。
「その時は、ただそれだけの事なんだけど、すっごく楽しくって、そいつとなら、どこまででも行ける気がしてたんだってよ」
そう言って、遠くを眺めた。
僕は思わず苦笑いだ。
だって、その当時、僕もそう思っていたから。
隣町の駅じゃない。この線路はどこまでも続いているって。
そう、あの、空の上まで。
そしてその後、あいつの父親と同じように、僕たちは隣町の駅員さんと両親にこっぴどく怒られたものだ。
僕は自分の父親に良いのを二発もらって、一週間、食事が取り辛かった。
それからは進学もあり、あいつとはあまり会わなくなったが、ひょんな事からそれを思い出した。
メールやソーシャルネットワークで全てやり取りしている時代に、時代錯誤な紙の郵便物が届き、この線路を思い出したんだ。
しかも、どこで売っているのか、裏が写真になっている年代物だ。
文章は簡潔だった。
――――何してやがる! 早く来い!――――
何故だろうか。
22歳まで頑張って、ようやく手に入れた、将来を約束された安定。
周りは羨ましがり、両親は泣いていた。
それが、一枚の古臭い紙きれで、全て馬鹿らしくなった。
こんな単純な言葉で、人生を狂わせるのは間違っている。
だけど、誘ったのは僕だったんだ。
夢だったんだ。
子供の頃に、線路を歩いていた僕の細やかな夢。
子供の僕は、空を指差してあいつに言った。
「なぁ、だったら、あの軌道エレベータの上まで行かないか?」
子供の頃のあいつは、驚いた顔をしていたが、僕の顔を見ながら、確かにうなずいたんだ。
今も、一握りの選ばれた人間しか行けない、才能も能力も覚悟もいる場所。あいつがそこに行くなら、並大抵の努力では無理な話だ。
なのにあいつは、真剣な瞳でうなずいた。
線路は続き、歩いて行くには時間が掛かりすぎるだろう。
――――あいつが待ってる。
その日のうちに辞職願を書いた。
人生を狂わすのは、そんな単純な事かも知れない。
早くあいつに追いつき、教えなくっちゃ。
あいつはきっと知らないはずだ。
意外と辞職願って、書くのが難しいってことを。
大好物の、軌道エレベーターの話です。
この作品は《変わらないもの》と同じく、近未来の話です。
ちなみに、この話は実話で、親父が昔にやりました。
昔は暢気な時代なので。今は、その行動は犯罪になります。注意を。
補足です。
仲の良かった友人は、主人公の男の子が、学力の高い私立中学を受験することを知ります。
しかし彼には、そんな私立を受ける学力も無いです。
だから彼は思い出作りにと、昔、父親が線路を歩いて隣町まで言った話を思い出し、仲の良かった主人公の男の子を誘い、12歳ころに隣町まで線路を歩いた行きました。
その時に、その父親の昔話をします。
そうしたら、主人公の男の子が、あの軌道エレベーターの上まで行こうと言います。
そこに行くにはその主人公並みの学力が必要なのに、主人公はそんなことは関係なしに誘います。
友人は思わずうなずいていました。
そこから猛勉強して、彼はやっと軌道エレベーターのスタッフとしての資格が取れたのに、誘った主人公がそこに居なかったのです。
彼にも理由があると半年ほど待っちましたが、二次、三次募集にも彼は来ません。
とうとう業を煮やした友人は、絵葉書を出すといった内容です。
何故、それが絵葉書だったかと言うと、彼は主人公の言葉で軌道エレベーターのスタッフになる勉強を始めます。
それは本編に書いた様に、並大抵の努力ではない、大変厳しいものでした。なのに誘った本人は来ない。
そこで、メールや普通のはがきでは長々しく怒ってしまうと考え、書く内容を少なくするため、あえて絵葉書を使ったのです。
絵葉書は、何となく感じがよかったから使ったのではなく、実は友人の怒りの表れを表現していたのですね。
うん、これは誰も気づかないな。書いている本人も、伝わらないだろーな思いながら、それでもあえて使ったのですからね。
要約すると。
宇宙開発がすすみ、軌道エレベータが出来てる時代で、地方公務員を蹴り、子供のころからあこがれていた、軌道エレベーターで働く職員になろうとする話です。
ぶっちゃけると、ちょっとで収まるので寂しいですが。
話が過去と交差するので、ややこしかったのかもしれません。
最後の方で出て来た「なあ、だったら、あの軌道エレベータの上まで行かないか?」の台詞は、子供のころ主人公が言ったセリフで、伝わっているのかが不安です。
この辺りは、まだまだ伝える力の足りないところですね。
悩む。
今回は、大好きな恋愛要素が少なく、さらにもっと好きな夢の話です。
高校時代、皆で集まる遊びに、女子が加わりたいと言ったのを、「今回は男連れだけで集まるから」っと、断るほどのつわものです。
ちなみに、男連れから「どうして断った?」と非難を浴び、女子からは「うん、おホモ達、噛んだ………お友達は大切だよねー」っと、変な気を遣わせました。
うん、ノーマルですよ。
ユウジョウタイセツ。
ダイジョウブ、ニホンゴムズカシイダケ。






