変わらない物
祖父の生きていた時代よりも少し未来。
私は仕事に忙しい父親や母親よりも、祖父に育てられた、おじいちゃん子の人物です。
だから、年老いた彼の話を多く聞きました。
今は携帯端末機と呼ばれる、携帯電話すらない時代。
待ち合わせの場所や時間を決め、相手に不都合が起こっても連絡困難な、ずっと待っていた犬の前。
異性から自宅にかかってきた電話を、二歳年上の姉に、ちゃかせられながらも代わった固定電話。
早くに亡くなった若かれし頃の、祖母のセピア色した色あせた写真。
それは誇らしげに語った、夫婦岩なる場所で撮った一枚も見せてくれた。結婚を決めた一枚でもあるらしい。
告白する時は緊張して、変なことを言ったと、祖父は、老人では見られない、少しはにかんだしぐさで、そう語っていた。
今の時代は、そんな不便が解消されて、何でも想いの叶う時代なはずだ。
携帯端末で場所や時間を言えば待つ必要もなく、それを持っていれば、自宅に電話がかかることも、家族にプライバシーを聞かれることもなく、色褪せることの無い写真を、データとして持ち歩くことができる。
宇宙には、祖父が知りたかった、宇宙を知るための施設、今まで以上に広大な素粒子の加速器が地球を覆ってる。
そんなことが当たり前の時代なのに、祖父は言った。
「あの時代と、ちっとも変わらんな」
変わってるよ、時代は。
進んでいるよ、時代は。
祖父が想い描いた時代よりも進んだ、便利で何もかもが手に入る時代。
個人のプライバシーが持てて、昔よりも宇宙が解った時代。
なのに、祖父は本当に楽しそうに笑って言ってた。
「あの時代と、ちっとも変わらんな」
最初はバカバカしくて、ただ聞き流していて台詞。
今から考えると、全くその通りだった。
「………」
私は自分の台詞を言うのに、胸が痛くて、怖くて、ただプラットホームから、遠くを見て立ちつくしていた。
いつもは一緒にかまっている、ノラ猫にもさわりに行けない。
簡単な、たった一言が出てこない。
こんなに進んで、何でも手に入る時代なのに、自分の気持ちが伝えられない。
そんなさなか、アナウンスが流れ電車の姿が見えた。
もう時間が無い。
「あ、あのね………」
私は勇気を奮い立たせ、あの時の祖父の台詞を思い出す。
昔と同じで、告白にも勇気のいる時代。
そして、緊張しすぎて、変なことを口走ってしまったのも、同じでした。
二話目もショートショートと呼ぶには短すぎる、詩です。
近未来の話です。
オトノツバサはSFが好きな、科学フリークです。
ちなみにニュートンという科学雑誌の、読者の感想ページに二度も載ったほどのつわものです。
しかも、その科学雑誌のモニターを五年ほどやっていた、本気な科学フリークです。
だから、近未来大好き。
軌道エレベーター、素粒子の加速器大好きです。
詩やショートショートなら、特にその色が強くなります。
今回も、その近未来のお話。
えっ?
恋愛色の方が強いって?
そう、それも好きです。
特に音と羽と。の方では恋愛色が強くなるかも。
しばらくは詩のようなものが続きますがご勘弁を。
べっ、別に、甘酸っぱい恋愛になんかに、飢えてなんかいないんだからね!
勘違いしないでよ!