現実は小説より奇なり
私はみんなの様に、何のとりえもありません。
だから、今まで、ただ、本の虫となる毎日を過してきました。
そして、この本に出合いました。
本屋の片隅にあって、作者も聞いたことも無いような、ヒットの兆しすれ見えない物語。
しかし、自分の中では久しぶりの当たりで、面白くって直ぐにのめり込みました。
だけど、もうすぐ、この物語が終わってしまいます。
まだ結末は解りませんが、状況からいっても流れからいっても、多分、悲しい結末です。
だから、いま、すごく迷っています。
このまま、最後まで読んでしまって良いのかと。
私も、もうすぐ卒業です。しかし、家庭環境の問題から進学は諦めました。
だから、こうやって、ゆっくりと本にのめり込む時間も最後になるかも知れません。
なのに、最後は悲しい話。
「私もいつか」と、心の中では考えていますが、この物語の主人公のように悲しい結末を変えることなく、終わっていくのかと思うと、自分まで悲しくなってしまいます。
多分、こうやって、自分の想いも伝えられないまま、すべて終っていくのでしょう。
埋もれていく日常。
好きだった人にも、何も伝えれないまま、その人が知らぬままに、勝手に自分に駄目な答えを見つけては、諦めてしまうのでしょう。
でも、後悔はしません。
だって、私がその人を好きだったて真実に変わり無いから。
この物語は悲しい終わりで、私も悲しい終わり。
それで良い………。
私は最後のページをめくりました。
思った通りの結末。
やはり、主人公を待ち受けていたのは悲しい現実。
「やっぱりそうなんだ。これが現実なんだね………」
物語でさえ、変えることの出来ない結末。
「だけど………」
少しだけ淡い期待は沸いていました。
それは一番憧れていた景色。
もちろん、私は友達も少なく根暗だし、彼とは釣り合わないのは解っています。それに何より、彼に迷惑が掛かるのも。
フィクションですら変えられない現実。
「こんなとこで読書か?」
そんな私に声がかかった。私はあわてて本を閉じる。
「もう、五時を回っているぞ。読書ならもう少し暖かい場所でしろよ」
「夢中になってて気が付きませんでした。だけど、私、この場所が好きなんです」
「そうか、………確かにこの場所はいいよな。春には桜が咲いて」
その人はそう言って辺りを見渡す。それからしばらくは黙り込んでいたが、一つ付け加えた。
「俺もその本、読んだんだ」
「………そうですか」
「その話の、結末なんて嘘だぞ」
私はなぜか、そのセリフに腹が立った。
この人は、私の感情も、想いも、何も知らないくせにと。
本を読んで感情的になっていたからかも知れない。
「私はそうとは思いません。現実なんてこんなものです」
「そんな事は無い。キミらの未来は、輝きに包まれているんだ。必死に努力すれば、どんな事も出来るし、どんな者にもなれるよ」
「嘘です! そっちの方が信じられません!」
「嘘じゃない。こんな俺だって、教師になれたんだからな。だから、キミも家庭環境とかに縛られず、やりたいようにやればいい。奨学金制度とかもあるし、願えば必ず叶うはずさ」
そう言って胸を張る彼に言ってやった。
「じゃぁ! いま、私があなたを好きって言っも、その願い叶いますか?」
叶わないはずだ、だって未来はある程度、決まっているから。
さすがに彼は驚き黙り込んだ。
「叶わないでしょ? 私だって解っています!」
そう、現実とは儚いものだって。
だって、色々な物語を読んで、私は現実をわかっているから。
夢物語なんで無いと解っているから。
「………」
彼は思わず息を飲み込んだ。
ほらみろ、これが現実なんだ。
長い沈黙の後、彼はようやく言葉を発した。
「いや、すまない」
私は目を閉じる。
勢いがついたとは言え、何と言うことをしでかしたのだろうか。
彼を困らせてしまった。
「実を言うと、その本はキミが読んでるのを知って、内容が知りたくって読みだしたんだ」
私は、ゆっくりと目を開ける。
それはどういう意味?
「しかし、読んでいる途中に何度も読むのを辞めようと思った。悲しい結末と思ったからね」
それは私と同じ思い。
「まるで主人公は俺だ。本当の願いはかくして、悲しい結末を受け入れている。答えは決まっていると思い込んでいる」
そこも同じだ。
「結果は思った通り、バットエンドだ。しかし、これはあくまでも物語の話だ。だから、現実とは違う。俺はキミの進学したい想いを諦めさせたくなくて、声をかけたんだが、まさか、こんな所で諦めていた自分の願いが叶うとは、思わなかったな」
「え?」
「しかし、これ以上は、何も言えない。出来れば卒業してからにしてくれ。これでも、必死に手に入れた夢なんだ。職を失うわけにはいかん」
現実は小説より奇なり。
卒業式わずかのある日。私は本よりもありえない想いが叶うかもしれません。
今回はショートショートの小説というよりは、詩に近いものかもしれません。
このお話は、以前、別のところで載せていた話です。
画像で一行小説と言った、その画像に対して物語を書くと言ったサイトでした。
残念ながら、今は閉鎖したサイトです。
画像はフリー素材と思いますが、違ったらいけないので載せません。
気になる方は、オトノツバサのブログに載っているので確認ください。
ただし、見たらこれからその作品も少し載せるので、同じの載せているとバレるので、あまり直視しないでください。
薄目でお願いします。
さてさて、何話か詩のようなものが入り、過去の作品を上げたりしたり、新しいショートショートを、現在進めてる作品の邪魔にならない程度に載せていきます。
うん。
本当は、息抜きの画像で一行小説が閉鎖したから、その場所を作っただけです。
二、三話載せたら、不定期になります。
息抜き程度にゆっくり行きますので、更新が無くても、また来るつもりなのでご安心を。
では、そんなこんなで始めます。
気に入ったら、連載の方も読んでね。