国王様はご機嫌ナナメ(短編版) 上
僕、勇二・デルマルッサ・フォン・篠禾はハーフである。
ある意味では恵まれた家系に産まれたかもしれない。別の意味では両親の家系により、苦労しているのだが……。現在17歳、父方の日出国で暮らしている。最初は気付きもしなかったが、どうやら父・母には色々な過去があったらしい。
父は篠禾家の次男で、勇次郎。自身で会社を設立して、いろいろ頑張っているんだと思う。れっきとした黒目黒髪の日出国人の見た目。
母の名前はシャルワーサ・リリアー・篠禾。父方に嫁入りしたのだけど、はなっからの外国人だというのはわかる。蒼目に金髪だもの。
普通の日出国の高校生だった僕が、なぜか欧州エステレッサ王国の国王をやることになりました。
でも国王に権力はあるのだけど、立場は非常に弱い。
「国王様、今夜の添寝係はどなたをご指名されますか?」
日出国でいう宮内庁のお役人さんがこんな言葉を投げかけてくるんだよ?
しかも、高校を卒業したての国王付きとなっている金髪蒼目のスリム体系である生粋のエステレッサ人さんだ。
ちょっと前まで普通の高校生だった僕としては、その言葉に非常に困るわけで・・・。
「・・・・」
彼女をじっくり見つめて、なんて言葉を返そうかと考える。
「承知いたしました、今夜はこの私、リリファが添寝係を努めさせて頂きます」
なんてこったい。
「違う。僕は添寝係なんて人権侵害な事を望んでないから!」
慌てて断わりを入れるも、彼女から発せられた言葉で悩まされてしまう。
「まぁ!我が国では、どんな女性も偉大なる国王陛下と添寝をしたがります。むしろ、国王陛下には、率先して添寝係を選んで・・・」
「必要ない。そういう事は、結婚した夫婦がするものであろう?」
国王付きになっているリリファさん。スラっとした体系で、毎朝ジョギングをしているらしい。日出国の言葉で彼女を表現するのであれば、「残念系の天才女」だと思う。
「はて。私めは、添寝係の話をしております。偉大なる国王陛下におかれましては何をお考えなのでしょうか。主君の意思を察せない、下賤な私めにご教授頂けませぬでしょうか。私としては、添寝中にやんごとなき事が起こっても、一生胸にしまう一存でありますが」
あれだよね。僕の言葉に対して様々な隙をつついてくるし。もう、日常の感覚の概念が違うのだと思う。僕の言葉に対して、一瞬のうちの反論なのだから、頭の回転は速いと思うのだけど。
でもさ、その頭の回転の矛先が間違ってないかい?
どうしても口では勝てない。いつもの通り、黙秘を執行してダンマリを決め込むよ。
「国王陛下の、本日のご意思は承知いたしました。是非とも、明日は添寝係をお決めくださいますよう、お願い申し上げます。もしよろしければ、今から私を指名されても・・・」
本日じゃなくて、ずっとなんだけどな。でもこの言葉を発すると、スキをつかれる。僕は不貞腐れた様子を示しながら、就寝につくのであった。
ね、国王の立場って弱いでしょ?
ベッドに入った僕は、国王に就任した経緯を思い返す。
僕が住んでいた日出国は東亜路亜にある立憲民主主義の皇帝陛下がおられる国だ。今日は10月某日。日出国の国民の祝日である。その国民の祝日の行事に、母と「その家族」が呼ばれている。
母の旧姓は、シャルワーサ・リリアー・フォン・エステレッサ。北海道程度の国土を持つ、現在僕の住む日出国と同じ立憲民主主義の国王制をとなえるエステレッサ国王の姉なのだ。事実的なエステレッサ外交官扱いなのと同時に、日出国に嫁入りしているのですよ。いや本当の外交官の方はあっちでひっそりとしてるけど。
息子の自分から見ても、母は相当なコンプレックスである。
「ユージちゃんがね~」
なんで国の祝日の行事で、偉そうな?人達に息子自慢をしているのだろうか。これが俗にいう、サンコンなのだろう。こんな行事に参加する事が日常茶飯事な我が家は、ある意味特別なのかもしれない。僕としては、普通の高校生なのだけど。
僕は気苦労を負いながらも、祝日の行事を終えたのだった。
我が家にはメイドさん達がいる。エステレッサ本国から来ており、日出国でいう宮内庁の人達なんですよ。れっきとした公務員の方々。そんでもって、母に変わる僕の教育係でもある。
こうやってお茶を飲んでいる時でも・・・
「ユージ様、今のお茶の飲み方でございますが・・・」
ほらね、こうやってエステレッサ語で教育されるんです。しかも、しっかりしたマナーを行わないと、何度もリトライされる。
後に国王に就任してから、こういった教育がなされた事で助かってはいるのだけど。当時はあまり感謝できなかったな。
そんな、ある日。日出国の我が家で、メイドさん達と母がバタバタと忙しない。
「あのね・・・、エステレッサ王国から召集がかかったの」
「僕も一緒にいくの?」
首を振るマイマザー。
「ううん、私だけ招集がかかってる。ユージちゃんと勇次郎さんは日出国で待ってて。メイドの子達がいるから大丈夫だと思うけど・・・」
心配そうに悩む蒼目が僕を見つめる。僕はニッコリ笑った。
「わかった、いってらっしゃい母さん」
この時僕は、まさかエステレッサ王国の王位を継ぐとは思っても見なかったのだ。
それから数日後のエステレッサ王国内にて。
「ユージ・デルマッサ・フォン・エステレッサが玉座に着く事が望ましいと満場一致となった。よって王室会議では、ユージ・デルマッサ・フォン・エステレッサを次期国王として推薦する事に決定した」
そう発言したのは、僕からみて、祖父の弟であるじーちゃんだ。物事に威厳があるのだろけど、むかつくじーちゃんだ。頭剥げてるし、ハゲオヤジと名付けてやろう。
母さんがエステレッサ王国に戻って数日後。僕は日出国とエステレッサ王国の役所の人々に拉致された。よくテレビで総理大臣が車に乗っている様子を目に浮かべて欲しいのだけど。総理大臣が乗る車の前後に黒塗りの車が護衛してるじゃない?あれを身をもって体験したんだよ。
母さんの弟であり、僕から見てギスタール叔父さんが身罷れた。よくキャッチボールとかで遊んでくれた叔父さんなんだけどな。そのせいか、僕は王位継承権1位の超重要人物になったらしい。
学校の中まで日出国と、我が家のメイドさん達を中心とした護衛の人等が乗り込んできて、あれよあれよとエステレッサ王国まで運ばれた。
そうしたら、いきなり次期国王を決めるための王室会議に参加させられ、僕の反論も言えないまま満場一致で決定したのだ。僕、エステレッサ国と日出国のハーフなんだけど、良いのか?
そう質問をしたら、今は国際社会。人種なんて関係ないんだと。ハゲオヤジ曰く、「何よりも、先祖から伝っている長子が王位に着く事」が望ましいのだと。
本来であれば、長子である我が母が王位を継ぐはずであったが、外国人である親父と結婚する事に時代が追いついていなく、親父との結婚に一悶着あったらしい。我が母がそれにブチキレ、エステレッサ国民の前で王位継承権の放棄を宣言して、親父と結婚したとの事。
国王に就いたギスタール叔父さんではあるが、次子であった為、色々反論が出ていたらしい。やはり長子が王位につくという事が一番だという世論となり、王位継承放棄した我が母をスルーして、僕が指名されたのだと。
なぜ国王が重用なのか。日出国では、衆議院と参議院の2つの国会がある。衆議院で法令が可決しても、参議院で否決されれば、衆議院で再度3分の2の可決が必要となる。エステレッサ王国は、議会が1つしかない。国会が可決し、国王が追承すれば、法律は可決するのである。大きな権力を持つのが国王。
また国王は、法令可決の否決権を持っている。国王は法令を立案する事はできないが、国会から通された法案をNOと言える立場なのだ。つまり、日出国の参議院=エステレッサ国王個人なのだ。ゆえに、エステレッサ王国において、国王は政治的にも重要人物なのである。
王室会議が終わった頃、僕に従事の人が付けられる事となった。
「この度、ユージ殿下の元で働く事となる者共をご紹介したいのですが」
そう言葉を発したのは、エステレッサ王国の宮殿長長官さん。所謂、宮内庁のボスである。この宮殿庁というのは、国王直訴権を持っている。
エステレッサ王国には、国王へ政治的な直訴をしてはならないという憲法が定められている。国王の律令決断は憲法に守られているわけだ。そして国王から意見を求められた場合に限り、国王の律令決定のに関わる発言をする事ができるらしい。
しかしながら、国王から意見を求められていない時でも、直訴権を持つ者もいる。
王国議会、総理大臣、宮殿長長官である。
王国議会は、議会内で可決された法案を国王へ立案という、直訴する権限を持つ。
総理大臣は、内閣で閣議決定された案件を、直訴する事ができる。急を有する場合には、事後承諾でもOKという強い立場だ。
そして最後の宮殿長。王族や国家の安全や名誉を守る場合に限り、直訴する権限を持つ。
国王ってすごい優遇されているよね。
「わかった、お願いするよ」
宮殿庁長官の声によって、ぞろぞろと人が入ってくる。え、こんなに居るの?
一人は見知った顔であった。日出国の実家で、僕の教育係でもあったメイド長(40代後半女性)だ。
そして50台後半位の男性が一人、その他10台後半~20代位の女性達20人位だった。
「「ユージ殿下、よろしくお願いいたします」」
20人位居る女性達からの挨拶であった。
「……、色々面倒かけるかもしれないが、よろしく頼むよ」
僕の言葉にそっと頷く教育係のメイド長。あれでよかったらしい。
「身近な事で何かありましたら、彼女達に申し伝え下さい。彼女達は、宮殿庁に所属する者達ですので」
そうして三人と教育係のメイド長が残り、部屋を出ていった。
「従者として、私めを筆頭にこの3人が主だってお仕えいたします」
3人がそれぞれ自己紹介をした。なんとなく気になったのが、真ん中に居たこの子である。
「リリファ・エル・ボルアージです」
何故か視線が厳しい。探られているというか、分析されているというか、僕の一挙一動を見られている気がする。
「現時点で、何かお困りの事はございませんでしょうか」
貴女の視線が怖いです、とも言えず。
「この部屋ってWI-FIとかは通っているのかな?エステレッサ王国に到着した時は、スマホの電波が使えてたはずなのだけど、ここだと何故か電波通じなくて・・・」
目の前の3人がそれぞれ視線を交わしている。真ん中にいるリリファさんが2人にむかって頷いた後、教育係りのメイド長に話しかけたのだ。
え、本当に視線で意思疎通していたの?
「ユージ殿下の身の安全を守る観点から、新たなスマートフォンをご用意する必要があるかと存じます」
「貴女方はユージ殿下付きです。都度私めの許可を得るのでなく、ユージ殿下へ最善となるよう活動しなさい」
教育係りメイド長からのお叱り。これって僕にじゃないよね。
うーむ、いつも注意されていたからなぁ。
「ユージ殿下、ご説明を申し上げます。こちらは国王が住む王宮であり、警備の観点から、一般的な電波は使用できないようになっております」
あー、なるほどね。通常のスマホは、使えないのね。
「わかった。この部屋だけでも良いのだけど、ネットの環境を整えてもらう事はできるかい?」
禁断症状とまでは言わないけど、ネット見たい。というか、王室会議で次期国王として推薦された僕のエステレッサ国内での評判を確認したい。
「承知いたしました、近衛兵部隊とも相談し、最善を尽くさせて頂きます」
リリファさんがそう言って、3人はお辞儀をして部屋を出て行った。
「無理難題を言ったかな?」
教育係りメイド長に問いかけると、彼女はニコリと微笑む。
「彼女等の初の仕事としては良い塩梅です」
あー、つまり面倒な事を振ってしまったのね。
その日の夕方、僕の執務室にWI-FIが設置され、スマホを渡された。
「防犯上の理由により、全ての通信は監視しておりますので、何卒ご理解頂けますようお願い申し上げます」
ありゃ、それはまた不便な…。
こうして僕とメイドの子達との顔合わせが終わった。しかしその後、メイドの子達の凄まじい意気込みを感じるのだった。
王室会議から半年後。明日は国王即位の戴冠式だ。
王室会議での推薦された僕の国王就任が、エステレッサ王国の議会で全議員一致で可決された。
あれから、なんというか凄く疲れた。
ギスタール叔父さんの葬儀を行い、国王としての心構えをハゲオヤジから指導され、メイドの子達の鬼気迫る意気込みに圧倒された。
いやさ、お風呂が準備できたよって言われて脱衣室に入ると、水着のメイドの子が3人も控えてるんだよ?
もう、全力で断ったさ。そうしたら、今夜の添寝係りは?とか言われても、ね。
マイマザーに相談したら、お嫁さん候補がより取り見取りの選びたい放題で素敵じゃない!とか言われるし。
そんな男ならではの悩みに答えてくれたのが、ハゲオヤジとその息子であるガラハッド親王(母さんの従弟)だった。
「メイドの子達のアピールが疲れるのですが・・・」
「それは仕方ない。彼女達の役目は、君の気を引く事だからな。あの手、この手を使って君へ色仕掛けを行うのだよ」
従弟違いである、ガラハッド親王からの言葉であった。しかもハゲオヤジすら頷いている。
「君だけじゃない。ワシもこのガラハッドも、同じ事を体験しているのだから」
どういう事であろうか。
「ワシ等は王位継承権を持つ者だ。王位に就く可能性が零ではない。そして国王は、国家の意思決定に左右しかねない立場なのは承知であろう?」
それについては、散々説明を受けたよ。エステレッサ王国における国王及び王族の重要性を。
「確かに王位継承権を有する者は、国家の意思決定を左右するのはわかるのですが、なぜそこに色仕掛けが関係するのですか?」
素朴な疑問だが、彼女達は国から派遣されている。国家が自国の国王になるかもしれない人間を色仕掛けする理由とは何だろ?
「大抵男というのは、惚れた異性に弱い。王位継承権を有する者が、とある異性に好意を抱いたとする。しかし、その異性が実は他国に強い忠誠心を持つ者だったらどうするか。その人物は王位継承権を有する者を通して、エステレッサ王国の国益を度外視し、他国に益する事を勧めるかもしれない」
そうか、つまりは・・・
「他国に益する虫がつかないようにする為ですか」
ガラハッド親王は苦笑いをし、ハゲオヤジはウンウンと頷いている。
「有体に言ってしまえばな。彼女等は、我が国の中でも家柄、心構えなどを審査されて集められた娘達だ。彼女達は本人の意思で、次期国王陛下である君を篭絡するため、仕えているのだよ」
これがエステレッサ王国の独自性なのだろう。詳しく説明されれば、国家としても必要な事なのだろうが。
「事情の理解はしましたが・・・、だからと言って手を出すのは気が引けます」
理解はしたが、納得できない。何より対象が僕なのが気にくわない。
「それでも次期皇帝陛下には、あの子等の誰かに手を出して貰わねばならん」
このハゲオヤジ、本当にむかつくわ。立場を利用した行為なんか好かないぞ。
「ワシも、このガラハッドも、その中の一人を選んだ事で今に至る。今まで王位継承権を持つ者全員がな。いや、ワガママ娘・・・もとい貴殿の母君以外はな」
ワガママ娘か。ハゲオヤジは苦々しく思っているのか。
恐らく、親父とマイマザーの結婚の一悶着とはこの事だったのなのだろう。
僕と同じように、いずれ即位するであろう母にも、異性の従事者が集められた。しかし選んだのは、たまたま異国から来ていた親父。
エステレッサ王国内では国王の律令決定権に関して、王配になるかもしれない親父の意思が関わるのでないかと懸念したのだろう。
それでマイマザーは、王位継承権の放棄を決行。永年長子継続が続いてきのに、途絶えてしまったのだ。
ハゲオヤジからすれば、結婚したい為に王位を放棄した母を、ワガママ娘と捉えるわけか。
長子継続に戻すためにでも、例えハーフで、日出国で育った僕でも妥協せざるをえないのだろう。
「もし気に入る娘子が居なければ、従事長に申すが良い。入れ替えをせねばいかぬからな」
このハゲオヤジめ!ヒトを物扱いかよっ。
ハゲオヤジに嫌悪感を抱いたが、ここは話ができて良かったと思おう。
18歳の誕生日当日。僕の戴冠式が行われた。式典中の我が身としてみれば、本当に国王になるのか?という思いもある。
招待客も華やかに呼び寄せ、連合ヨーロッパの各国と日出国、国王を初め、各国大使等が参加してくれた。
その中でも日出国からも、そうぞうたる顔ぶれが来訪した。僕が日出国とのハーフだからか?
アラビア諸国からも著名人も参加している。某大国の大統領は来なかったが、長官が参加した。
某所を聖地として争いのニュースが耐えない3カ国の大使も参加してくれた。
東亜路亜出身でありながら、欧州ど真ん中に位置するのに連合ヨーロッパに加盟していない国、エステレッサ。新な国王ってどんなやつ?と皆思ったのだろう。
欧州中央に位置し、欧州諸国に影響を与えるエステレッサ王国。某大国には勝てないまでも、国家の動きはよく観察されているのだな。
TVで観た事のある様々な国家元首や大使達と会談しながらも、慎ましく戴冠式が終わった。日出国のSNSを見る限りでは、応援の声が多かったかな。
エステレッサ王国内では、期待してるよ!という意見が多いようだ。
さて戴冠式含めた式典が終わり、初職務である。日出国でいう衆議院そのものの役割を行わなければならない。何気にプレッシャーあるね。
国王が判断すべき法令が渡された。主だった内容としては、ギスタール前国王が亡くなられた後の、閣議決定の事後承諾だ。
まぁ、これは否定できないよな。
次に出てくるは、新な新規法案。
飲酒運転に関する罰則強化か……。追承だな。
次は……、エステレッサ王国の連合ヨーロッパへ加盟する法案?
エステレッサ国内でこんな重要そうな案件を議論していたのか?
慌ててテレビやSNSを閲覧するも、僕の戴冠式のニュースばかりだ。SNSには連合ヨーロッパに加盟した方が良いと発言している人もいるが、あくまで個人意見を述べてるに過ぎない。メリット、デメリットに関して論議すらしてないように思える。
うーん。。。国会では、253対252の可決か。
これは国王として試されてるのだろうか? 意見を募ってみるか。
意見1。 頭の回転の早そうな、残念系従事者リリファのコメント。
「国王陛下の仰られる通り、多々なる議論はされてないかと推察されます。必要な事柄をお命じ下さいませ。それと、私ことリリファとユージ国王陛下のカップリング調査を……。それは必要ない?左様でございますか」
意見2。我が母君。シャルワーサ・リリアー・篠木のコメント
「ユージちゃんがこれに疑問を持ったって?流石ねユージちゃん。私は全て賛成するわ! 」
以下略。
意見を聞くのは当てにならなそうだ。
色々悩んだり資料を取り寄せてもらったりした。資料は珍しく宮殿庁長官が持って来てくれた。
うーん、駄目だ。決めれない。
「国王様、よろしければお茶をお入れ致しましょうか」
そんな僕の様子を見かねたのか、リリファが提案してくれる。気分転換も大事だね。
「うん、お願いするよ」
一礼して「かしこまりました」と去って行く彼女。こうして見ると品があるね。リリファだけでなく、他の子達の動作も整っている。
執務席を外れ、テーブルに着いて暫くすると良い香りが漂ってくる。
準備が整ったのだろう。リリファがやってきてお茶を注いでくれた。そういえば彼女達と普通の話ってした事ないよな。
「君達も一緒にどうだい?」
そう声をかけると視線をかわす3人。やっぱりこの3人、視線で意志疎通できるのね。
「一人で飲んでもつまらないからさ、気分転換に付き合ってよ」
「ご招待ありがとうございます、ルーシー、ナサリー、準備を」
そういえばリリファが他の子達に指示する事が多い気がする。僕と大して年齢が変わらないのに、偉い立場なのか?明らかに年上っぽい人にも指示してるようだし。
3人が向かい側に席についてくれた。
「3人はどこ出身なの?」
言葉のイントネーションから、二人が首都出身でないのは予想できていた。日出国の関西弁と東京弁の違いみたいなもんだ。その点、リリファはぶっちぎりの王室特有語。
それぞれエステレッサの故郷の話をしてくれた。チーズが有名らしく、山羊の乳を使っているだとか、茶畑が一面に広がっているだとか。
「リリファの故郷は?なんとなく首都のような気がするけど」
僕の発言のせいだろうか。メイド二人の口が止まった。そんな二人の様子を知ってか、知らずか、リリファが口開く。
「ご推察の通り、私の故郷はこの首都そのものでございます。そして、私めは王族ではございませんが、父が王族の一端を担っております」
そうか、リリファは僕の遠縁の親族だったのか。
この王国では、王位に就いた者の直系子三代までが王族を名乗り、王室会議に参加するのだ。そして、直径四代目は一般国民となる。
「成る程、それでリリファの言葉は聞き取りやすかったのだね」
彼女のイントネーションは、聞きやすい。僕の話すような、日出国なまりのエステレッサ語ではない。
「そうですよね、リリファさんの言葉は完璧な王室語ですもの」
メイド二人の子達もフォローしてくれる。
「恐縮です、これ位しか取り柄の無い女でございます」
それから僕が住んでいた日出国の話をしたり、休憩を終えた。
リリファが声をかけてきた。
「国王陛下、そろそろお夕食のお時間でございますが・・・」
「わかった、こっちは必要な部署へまわしてもらえるかい?」
僕がOKだと判断できる、飲酒運転の罰則強化と事後承諾の書類を渡した。
「承知いたしました、そちらの法案は?」
エステレッサ王国の連合ヨーロッパへ加盟する法案。
色々考えをしたが、ちょっと前まで高校に通っていたような人間がすぐに判断できるものでない。
というか、僕ごときが判断して良いものなのだろうか。
「保留だ」
夕飯を食べて、お風呂入って、それからじっくり考えよう。
「承知致しました」
僕は湯船を向かう事とした。
さっきの発言で、大事になっている事に気づかぬままに。
下巻に続きます。