初めての殺人(4)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋の始まりの物語。
しかし、龍は一切動じること無く、影にエルボーをくらわせてから踵落としで地に這いつくばらせ、その頭を踏みにじった。
「こっちは影踏みしに来たんじゃないんですよ。わかったら、今すぐ未来さんの居場所を教えて下さい」
殺気を放ちながらそう言う龍に、鴉は気圧されたが臆さず、
「断る。そんなに教えてほしければ、私を見つけ出してみろ。この……物量を突破して、な」
そう言うと同時に、正門付近にいた部隊と待機していた影の集団が集結し、迎撃態勢を整えた。
数ではブラック・ナイトが勝る。それでも龍は負けるつもりなど無く、
「言いたいことはそれだけですか?」
「何?」
「今すぐそこに行くので、首を洗って待ってて下さい」
と、言って、グラウンドへ飛び出した。
当然、鴉の狙撃や影の攻撃があったが、龍はそれらを全部かわし、迷うことなく南側の校舎に入って階段を駆け上がり、獲物を見失って戸惑う鴉がいる屋上の扉を開けた。
「な!? どうしてわかった?」
「はぁ、はぁ……弾の角度と方向ですよ……それらが一致するのは、ここしかありません」
真っ暗闇の中、たった数発の銃弾で狙撃地点を割り出した龍に、鴉は脱帽し、拍手を送った。
「ブラボー。子供だと思って甘く見ていた。いいだろう。叶未来の居場所を教えてやる。彼女は体育館にいる」
「そんな所に……わかりました。ありがとうございます」
「礼などいい。あぁ。ついでといってはなんだが、もう1つ君に褒美をやろう」
そう言いながら、鴉は腰に隠している物に手をかけ、
「鉛玉を、な!」
と、言い、素早く銃を抜いて撃った。
油断させてからの驚異の早撃ち。普通の子供なら当たっていたが、彼を信用してなかった龍は、それをコンマ1秒早く避け、拳銃を蹴飛ばした。
「……あなたは本当に鴉の名にピッタリだ。ずる賢くて、余計な事まで鴉がカーカー鳴くように喋る。いい加減鬱陶しいので、これでダウンして下さい!」
そう言って龍は拳を握り締め、鴉の顔面を全力で殴り飛ばした。
この時彼は、失神させるつもりで鴉を殴った。それだけで十分だったから。
だが、その1発のパンチが予想外の結末を招いた。
紋章の力で身体能力が強化され、力加減ができなかったせいで、鴉は殴られた勢いに押されてフェンスを突き破り、そのまま転落死してしまった。皮肉なことに、鴉の名に最も相応しくない最期を彼は迎えたのである。
この結果に影達は動揺していたが、一番取り乱していたのは彼らではなく、落とした本人である龍だった。
「嘘……僕……人を、殺しちゃった……殺すつもりなんて……殺すつもりなんてなかったのにぃっ!」
小学2年生が背負うには重すぎる罪の十字架。それに直面した龍は激しく後悔し、号泣した。
その後、一頻り泣いた彼だったが、現実はその猶予すら与えなかった。
「行かなきゃ……未来さんを助けに……警察に自首するのは、それからだ」
龍は涙を拭いながらそう言い、ふらふらと歩いて体育館に向かった。
龍の初めての殺人。それはお世辞にも後味がいいものとは言えず、心に深い傷を残すものだった………………
作者として言わせてもらえれば、鴉ほど小悪党で三流のスナイパーはいません。スナイパーや幹部が驕り、ベラベラ喋るなんて本末転倒ですから。
そんな彼を手にかけたのが、龍にとっての最初の殺しです。




