過去の記憶(1)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋の始まりの物語。
平成17年11月6日午後7時半頃。学級生活を送りながら、殺し屋として日夜働いている死獣神メンバーはこの時、雲雀の店で夕食を食べていた。
「雲雀ちゃん。俺にモダン焼き1つ」
「あいよー。待っといてな、翔馬」
活気に満ち、まるで部活の打ち上げのような空気感の店内を雲雀は動き続け、注文を聞いたり、調理をしたりしていた。
元気に忙しそうに働く雲雀だったが、ふと、龍の席が視界に入ると、仕事モードから私情モードに切り替わった。
弱視の澪のために、龍がお好み焼きを切り、冷まして食べさせていたのである。
あまりにラブラブな光景に腹が立った雲雀は、2人の間に割り込み、澪の口に運ぼうとするお好み焼きを横取りした。
「あ」
「んー! めっちゃうまいわー! やっぱ龍の愛情とうちのお好み焼きへの情熱があるからやろなー♡」
「赤羽さん。それ、澪さんの……」
龍の指摘はごもっともで、お好み焼きを取られた澪は激怒した。
「そうです! ひど過ぎます!」
「じゃかましいわ、デコデコ。あんたに食わせるお好み焼きはあらへん。とっとと帰ってデコでも磨いとれ。そういうわけやから、龍ぅ」
そう言って雲雀は、口を開けて食べさせてもらうのを待った。
彼女の押しの強さに負けた龍は、仕方無く食べさせてあげようとした。
が、そんなことを澪が黙って許すわけがなかった。あらかじめ雲雀対策用に熱していたヘラを、
「意地汚いですよ。丸顔朱雀」
と、言って雲雀の項に押し当てた。
高熱のヘラを当てられた雲雀は熱さで跳び上がり、澪を恨めしそうに睨んだ。
「このアホデコがぁ。うちに喧嘩売るとはえぇ根性しとんな」
「先に売ってきたのはそっちじゃないですか。食べ物と恋の恨みは恐ろしいんですよ」
「その恨みを持っとんのがあんたやったら、痛くも痒くもないわ。なんなら、バトってわからしたろか?」
「望むところです」
そう言って雲雀と澪は激しく火花を散らした。
2人に仲良くいてほしい龍や店で暴れられたら困る大牙や紫乃は仲裁に入り、武文はいつものことだと他人事のように茶をすすった。
残る翔馬はというと、
「雲雀ちゃーん。どうでもいいから、早くモダン焼き作ってくれー」
と、空腹でテーブルに突っ伏しながらぼやいていた。
『死獣神~誕の書~』スタートしました。
『誕』の意味は前書きでも書きましたが、文字通り始まりの物語という意味です。