第二十八話
翌日
「ふわあ、やっぱり魔力枯渇でぶっ倒れると早くは起きられないもんだなあ」
ユーゴが目を覚ました頃には既に日が高く昇っていた。
顔を洗ってから簡単な食事の準備をする。
「といっても、魔倉庫から適当に食べ物を出すだけだけど……」
前回とは別の店のパンを取り出してモシャモシャと食べるユーゴ。寝起きで完全に油断していたため、小屋に近づくものの気配に気づいていなかった。
コンコンと玄関の扉がノックされる音にユーゴは振り返る。
「……誰だ? はーい、どうぞ」
誰が来たとしても対処はできるため、パンの最後の一口を適当に頬張って飲み込み、中へ入るよう声をかける。
しかし、扉はいっこうに開く気配がない。
そして、再度コンコンとノックされる。
「入っていいのにな……はーい、今あけます」
扉をあけるとそこにいたのは、昨日寝てしまった三体の魔物だった。
扉の中央あたりをノックするために、一番下に猪、中段に毛玉、一番上に狼の順で器用に重なっていた。
「なるほど、それで普通にノックができていたのか。それでなんの用事で来たんだ?」
タワーを解除した三体にユーゴが質問する。
「ピーピピ」
「ガウガウ」
「ブルル」
何を言っているのか聞き取れてはいないが、恐らく名前のことを言っているのだろうことがユーゴには伝わる。
「名前な、昨日考えついた頃には暗くなってたからなあ。そうそう、あれから色々考えたんだけど、お前たちさえよければただ名前をつけるだけじゃなく、名前に俺の力を乗せる契約にするのはどうかと思ったんだよ」
それを聞いて具体的なことが伝わっていない三体は首を傾げている。
「あー、つまりだな。俺の力の一部をお前たちに分け与えるんだよ。メリットとしては、俺の魔力の一部を自分のものにすることで強くなれる。デメリットとしては、俺の眷属というか契約魔獣というかになるので、俺の強い命令には逆らえないこともある」
しゃがみこんで彼らと目線を合わせてユーゴは真剣な表情で語り掛ける。
実際にはそんな命令をするつもりはなかったが、彼らの覚悟を試すつもりで説明していた。
「ピー!」
「ガウ!」
「ブル!」
だがしっかりと気合の入った雰囲気の三体は元気よく即答する。
返事をしたと思うと、大きく頷き、早くやってくれとユーゴの足にまとわりつく三体。
「わ、わかった。今、契約のための魔石を用意するから待ってくれ」
三体の勢いに押され気味になりながらも、ユーゴは魔倉庫から昨日の空の魔石を三つ取り出すと、それぞれにあった魔力をイメージして魔宝石を作っていく。
作るのに時間はかからず、一つあたり一分程度でできあがる。
「――よし、できたぞ。それじゃあ順番にやっていくから並んでくれ」
ユーゴが指示を出すと、そわそわと待ちきれない様子ながらも三匹は素早く一列に並ぶ。
「お前から行くぞ。――”名はポム。汝に名を授け、我が眷属とする”」
最初に名前をつけたのは毛玉の魔物。命名『ポム』。使った魔宝石の色は青。
「ピー!」
返事と共に身体が光を放つ。モフモフの身体を元気良く揺らして跳ねている。
徐々にその光が収まると、一回り大きくなり毛が青みがかった毛玉の魔物ことポムの姿がそこにはあった。
「ピ、ピー」
自身に内包される力が強くなっているのを感じたポムは、じっと静かに自分を見ていた。
「さあ、続けて行こう。次はお前だな。”名はヴォル。汝に名を授け、我が眷属とする”」
次に名前をつけたのは狼の魔物。命名『ヴォル』。使った魔宝石の色は緑。
「ガウ!」
こちらも返事とともに身体が光を放っていく。
ヴォルもサイズが一回り大きくなり、目も鋭く精悍な顔つきになっている。
ベースの毛の色が銀色で、毛先が鮮やかな黄緑色になっていた。
「さあ、最後はお前だ。”名はワルボ。汝に名を授け、我が眷属とする”」
最後は猪の魔物。命名『ワルボ』。使った魔宝石の色は赤。
「ブル!」
ここの流れは同じで、ワルボのサイズも一回り大きく、牙が鋭くなり毛先がところどころ赤く染まっていた。
「ふう、これで終わりだな。というわけで、ポム、ヴォル、ワルボ。契約完了だ。よろしく頼む」
「ピーピピー!」
「ガウガーウ!」
「ブルブルー!」
『三人』の鳴き声は変わらずだったが、以前よりも言葉の意味がユーゴに伝わるようになっていた。
「喜んでくれたみたいでよかったよ……それじゃあ、以前も頼んだが森の素材探しは頼んだぞ」
任せろと言わんばかりに大きく頷く三人を見て、ユーゴは満足そうに微笑む。
しかし、次の瞬間ユーゴは眉をひそめた。
「……誰か、森に入って来たな。一人、二人……三人が馬車でやってきてる」
この結界はユーゴが結界内にいる限り、外からの侵入はおおよそ把握できるようになっている。
「お前たちは姿を見せるなよ。温厚だといっても、人から見たら怖い魔物かもしれないからな。森に戻るか、小屋の陰にでも隠れていろ」
真剣な表情で言ったユーゴの命令に、これまた神妙な表情で頷くと三人はすぐに小屋の陰へと移動していった。
結界が森全体を覆っているため、馬車が小屋に到着するまでしばらく時間がかかる。
その間、ユーゴは来訪者の気配を探っていた。三つの気配のうち、一つには覚えがある。
ゆったりとした速度でやってくる馬車の姿が遠目に見えたところで、気配の正体が当たっていたことを確認できた。
「やっぱりか」
その呟きは誰にも聞こえないものであり、ユーゴは表情を硬くしていた。
馬車がユーゴの近くまで到着すると三人が降りてくる。
「あ、ユーゴ。その、こんにちは」
挨拶したのはミリエル。老婆の口調ではなく、本来の口調であり、その表情はとても気まずそうなものだった。
「初めまして、私の名前はガンズドロー。近くの街の領主の息子です。こっちは御者を担当してくれた、領主の騎士団の小隊長のマックです」
ガンズドローは丁寧な口調で挨拶をする。三十歳まで少しはありそうな、美しい金髪の男性だった。身長はユーゴより少し低い。
顔立ちも口調と同じく、優しそうである。
うってかわって、マックと呼ばれた騎士は気難しそうであり、ユーゴのことを警戒するように睨みつけていた。
口をきゅっと一文字に結んでおり、もちろん挨拶を口にすることもない。
「……よろしく。はあ、これがどういうことなのか。説明してくれるんだよな?」
ユーゴが目を細めながら声をかけた相手はミリエルだった。
「――うぅ、ごめんなさい……」
泣きそうな彼女の口から、最初に出てきたのは謝罪の言葉だった。
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