第二十四話
「えっと、グレイさん。その、査定をお願いできますか?」
レスティナはあまりの量の素材を見て、言いづらそうにグレイに質問する。
「……やります」
静かに、しかし力強い返事をするグレイ。その視線は周囲で働いていた素材担当職員を見ていた。
「みんな、やれますか?」
今度はグレイが問いかける。グレイは素材担当職員の中でもベテランにあたり、彼に仕事を仕込まれた職員も少なくない。
「もちろんです!」
「やります!」
「ほら、いそぐぞ!」
他の作業の手を止めて、わらわらと職員が集まってくる。
「ギルマス、ユーゴさん。少し時間がかかりますが、お任せ下さい。さあ、みんな取り掛かるぞ! まずは作業を説明します!」
グレイは真剣な表情で作業の説明を始めていく。
「ユーゴさん、ここは彼らに任せましょう。あれだけの量ですと、今日中にはちょっと……」
レスティナがそこまで言ったところで、グレイが話を止めて振り返る。
「明日までには全て終わらせます!」
その力強い宣言に職員全員の表情がさらに引き締まっていた。
「ということですので、明日寄って頂ければ査定額をお伝えできると思います。ちなみに購入額にご納得できない場合は、査定料としていくらか頂くことになりますのでご承知下さい」
これだけの量となれば、それくらいもらわれなければ見合わないだろうとユーゴは納得して頷く。
「それじゃあ、頼んだ」
ギルドを後にしたユーゴは、家に戻ることにする。
錬金術師のミリエル、鍛冶師のバームの店に寄ろうという考えもよぎったが、冒険者ギルドでのやりとりを誰かが見ていたかもしれないと考えると、街に残るのは得策ではないと帰宅を急ぐことにする。
冒険者ギルドを出るまでに探るような視線をいくつか感じるが、あえて人の多い場所を移動しながら徐々に気配を消すことで追跡を避けていく。
「中には勘のいいやつもいるみたいだな。それでも、俺を追跡するには実力不足だ」
ユーゴが街を出る頃には、全ての視線を振り払っておりいつもどおり誰にも気づかれることなく家に戻ることとなった。
家に戻ったユーゴは作業部屋に入って、残った素材の加工に取り掛かっていく。
素材の処理は綺麗に行ったものの、これをそのまま材料として使うことができるわけではないため 色々と処理が必要だった。
「まずはこれからだ」
メタルロックデーモンの皮膚。強固な素材であり、防具などにも使うことができるがさすがにそのまま使うのは難しい。
そのため、まずは使いやすいようにいくつかの小さなパーツに切り分けていく。
大きな一枚で使うことはほとんどしないので、こうやっておくことで必要な部位にだけ取り付けることができる。
黙々と切り分けの作業を行うユーゴ。
二体分だけだったので、作業は一時間もしない頃には終了する。
「続いて、こっちか……。あぁ、でもこっちをやるには炉が必要になるか」
簡易的に作った作業場では、小さな火をおこすくらいはできたが、高温の炉を用意するのはさすがに難しかった。
「仕方ない、明日バームに作業場を借りることにして今日は休むか」
明日は査定の結果を聞くという用事もあるため、もともと街には行く予定だった。そのことを考えると、もののついでにいいと思い片づけを始めていく。
切り分けた素材を魔倉庫に格納。使った道具の手入れをして、ひと通り片付け終わると簡単な食事をする。
それを終えたらいつもの通り、外に出て魔力の放出を行う。昨日作った結界の上に重ねて結界を張ることで厚くしていく。
魔力量の底上げは効果をあげており、結界を張ってもまだ余裕があった。
「こいつはすごいな」
ユーゴは改めて魔力増強の効果に驚いていた。
前回は結界を張って、温度を調節して完全に意識を失っていた。
だが、今はこのままひと戦闘しても十分戦えるほどの魔力が体内に存在しているのを感じる。
ユーゴは空気中の魔素を体内に取り込んで魔力を生成することができる。こちらの能力も効率化がなされていた。自分では意識していなかったが、魔力を枯渇させたことで身体が順応するようにと自然と魔力生成能力を高めていた。
「なんか、大したことしていないのに強くなれたな」
昔の記憶では、自分は世界でも最高峰の魔法の使い手であり。大賢者と呼ばれていた。自身でも、自分の力はこれ以上ないほどに鍛え上げられたと考えていた。
「井の中の蛙、大海を知らずとはこのことだな」
まだまだ自分の力には上限がないと知ったことで、そんな故事成語を思い出していた。
「されど空の深さを知る」
更にその続きを口にして、まさに今の自分だなと口元には笑みが浮かんでいた。
地力をあげるためにも、まだまだ魔法を使わないといけない。さて、どんな魔法を使う? 結界は張った。それを厚くもした。
「さあ、次はどうするか?」
あまり結界を強くしすぎても、もともと森に生息している生物にまで影響が出ても困る。かといって、強力な攻撃魔法を使うのも危険すぎる。
何か助けになるものがないかと、ユーゴは魔倉庫を起動して一覧を表示させる。
「魔力を消費するのにいいものは何かないものか……」
ジャンル別にしてあるため、確認しやすくなっているそれを順番に見ていくユーゴ。
スクロールさせていく中で、ふと指を止めた。
「魔石……」
呟いた言葉は、一覧に載っている昔手に入れた魔石を示していた。
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