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第二話


 ユーゴが召喚した使い魔は、カラスと同サイズの鳥で上空から周囲を見渡している。

 視界を共有しているため、使い魔が見ている光景はユーゴにも伝わっていた。


「なるほど、そこの川を下って行った先に大きな街があるのか。距離にして……百キロってところか。これくらいなら大した距離じゃないな」


 馬車を失い、徒歩ともなれば通常では絶望的な距離である。

 しかし、ユーゴの力を使えばいかようにも向かう方法があった。


「とりあえず……川を下ってみるか」

 そう言うと、ユーゴは川の近くまで移動する。

 通常であれば川に沿って徒歩で移動するものだが、ユーゴは空間魔法で過去の自分が収納した小型の舟を取り出して川に浮かべる。


「さあ、出発だ!」

 ユーゴが川下を指さすと舟が動き出す。

 これは魔法で水流を操作しているためであり、水流を操作できるということは、尋常ではない速度で舟を進ませることができるということでもあった。


 速度を維持したままだが、岩などにぶつかることもなくあっという間に下流へと到着した。

 街まで、あと少しというところで舟を降りて移動方法を徒歩へと変更する。


 街の入場では、身分証を提示して通行許可を得ることになる。

 ユーゴは、鍛冶師ユーゴとしての身分証を持っているため問題なく通行することができた。


「さて、この街なら色々と情報を集められそうだな……――まずはっと」

 最初に向かうことにしたのは、冒険者ギルド。

 登録するつもりはなかったが、それでも今の冒険者のレベルがどれほどなのかを確認しておきたいという気持ちと、人が集まる場所であれば情報も集まるだろうというのがユーゴの考えだった。


 街の中心地へと向かっていくと、盾をバックに剣と槍がクロスしているマークが見えてくる。

 それは冒険者ギルドのマークであり、大きな建物に人々が出入りしている姿がある。


「ここか。大きな街だけあって、ギルドもでかいな」

 ユーゴのいた街にあるギルドは小さなもので、受付が二つあるこじんまりとしたものだった。しかし、この街のギルドは外観からもはるかにそれを上回るものであることがわかる。


 ギルドに足を踏み入れると、夜であるにも関わらず人が多く賑わっている様子だった。


「こんな時間でもこんなに人がいるのか……」

 思わずつぶやくユーゴ。


「兄さん、この街は初めてかい?」

 ユーゴの呟きにくいついてきた男が声をかけてくる。

 気さくな様子で話しかけてきた男は鎧を身に着け、腰には剣を帯びている――いわゆる一般的な冒険者といった風体だった。


「あぁ、さっきついたばかりで、とりあえずギルドに来てみたんだけど……まさか夜中にも関わらずこんなに活気があるとは思わなかったよ」

 情報を得るには好都合だと、人の良さそうな笑みを浮かべつつ、彼の言葉に答えることにする。


「そうかいそうかい。ここはデカいからなあ。ほら、あっちに酒場が併設されているんだよ。昼間依頼に出発して、帰ってきて報酬もらったら酒場で盛り上がるっていうのが鉄板なのさ。宿もギルドの近くに何軒かあるから余計に遅くまで盛り上がりやすいのもある」

 気を良くしたように男性冒険者は顎髭をいじりながら説明をしてくれる。


「なるほど、それでこんなに人がいるのか。街自体に人が多い気はしていたけど、それ以上にここには人が集まる理由があるんだな」

 ユーゴは感心したように、男に言葉を返す。


「そういうことだ。しかし、こんな時間にここにやってくるとは兄さんも物好きだな。依頼達成報告ってわけでもないんだろ?」

 夜間は依頼の更新がされないため、めぼしい依頼がない。

 更に、男の指摘通り報告に来たわけでもない――ゆえに珍しくみえていた。


「まあ、初めての街だから人が集まる場所なら情報が集まってくると思ってね。人がいなければ、宿に泊まって明日来てもいいしな。場所の確認だけでもしておけば、明日迷わずに来られる」

 旅慣れていそうなユーゴの言葉に男はなるほどと頷いていた。


「それじゃあ、思わず話しかけたのも何かの縁だ。兄さんが欲しい情報ってやつを俺が知る限り話してやるよ」

 男はベテランの冒険者で、世話好きであるとギルド内でも評判だった。

 だからだろうか、一人で、しかも初めて来たユーゴという青年の世話を焼いてやろうと自然と思っているようだった。


「えーっと、何から聞けばいいやら。とりあえず、この街について聞きたい。本当に到着したばかりで全くといっていいほど情報をもってないんだ」

 困ったものだと首を横に振りながら両手を横に開くユーゴ。


「ははっ、そいつは大変だな。それじゃあ、少しずつ街の話をしていくから気になることがあったらその都度聞いてくれ。俺は話好きだから長話はもってこいだ!」

 ユーゴに気を遣わせないためか、それとも地なのかわからなかったが、楽しそうにどんと胸を叩いた男は話を始めていく。


 街の作り、名物、冒険者ギルドについて、強い冒険者について、街の領主について、各店に対する男の評価などなど。

 聞いたことから聞いていないことまで次々に話してくれる男。


 全てを話し終えたところで、ジョッキを一度煽ると、思い出したように再度男が口を開く。


「言い忘れていたが、俺の名前はボッツ。この街で冒険者稼業を営んでいる」

「俺はユーゴ。あー、色々やってる旅人と言ったところだな。ここには情報集めに来ただけで、別段冒険者として活動しているわけじゃない」

 色々な情報を教えてもらっておいて、自己紹介をしていなかったことに気づいてボッツに対してユーゴは挨拶を返す。


「なるほどね。それで、一応この街に関連した情報は話したつもりだが、他に知りたい情報はあるか?」

 ユーゴが求めている情報とあっていたかわからないため、ボッツが確認してくる。


「街のことはおかげさまで色々わかったよ、ありがとう。他に聞きたいことがあるとしたらそうだなあ……街からそれほど離れていない場所で、人の出入りが少ない森とかってあるかな?」

 変わった質問をしていると理解しているため、ユーゴは少し言葉に迷いながらボッツに尋ねる。


「それなら、街を出て西に向かった森なんかがその条件に当てはまっているかもな。距離はそこまで遠くはないが、めぼしい素材がないから依頼もないし人も近寄らないという話だ」

 それを聞いたユーゴは満足そうに頷く。


「それはよかった。色々と話を聞かせてくれてありがとう。時間も遅いしそろそろ帰ることにするよ。それじゃあ」

「あぁ、気をつけて帰れよ」

 ボッツの言葉を背に受けてユーゴは冒険者ギルドを後にする。

 ――その足は、一路西の森へと向かっていた。






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