第十九話
ユーゴが使った魔法は、最小の傷で核を撃ち抜いていた。
「よし、これなら上手くバラせそうだな」
メタルロックデーモンの素材は装備を作るのにうってつけのものであり、強力な武器防具を作ることができる。買取価格も高い。
それゆえに、存在が確認されれば素材を狙う者はあとを絶たない。
しかし、今回のように最小限の傷だけで倒せる者はほとんど存在しない。
それを知ってか知らずか、ユーゴは慎重に素材を採集する。
まずは、表面を覆っている堅い岩をナイフで慎重に剥がしていく。
メタルロックデーモンの魔力が常時流れていたため、変性しているソレ。
表皮は一番ダメージを受けやすいため、これだけでも希少な素材だった。
表皮を一通り剥がし終えると、次は通常の魔物でいう肉にあたる部分を解体していく。
金属が含有されている肉は硬く、骨から引きはがすのにも一苦労する。
解体のしづらさと、慎重さゆえに一体の処理を行うだけで、一時間近く時間がかかってしまうほどだった。
「ふう、なんとか一体の解体終了だ」
解体した素材を空間魔法で格納すると、ユーゴは周囲を見渡す。そこには、無数のメタルロックデーモンの死体が転がっている。
「手順は先ほどのとおりで、記録も完了している。それじゃあ一気に……素材格納!」
ユーゴが右手をかざして、そう口にするとメタルロックデーモンの死体が次々に消えていく。
それら全てを格納し終えたところでユーゴは格納した素材を一つだけ取り出す。
もちろん最初に格納した一体ではなく、それ以外のものを。
「うんうん、ちゃんと解体されているな」
取り出したのは数体目のメタルロックデーモンの皮膚。
ユーゴは一度自分で解体した魔物の情報を空間魔法にフィードバックして、格納した魔物を自動で解体して格納する仕様にしていた。
しかしユーゴはまだ満足していない。
今のままでは取り出したいものを取り出すことはできるが、何が入っているかを確認することができない。
ここで役にたつのが地球での知識。
「フォルダ分けして、ジャンル別に確認できるようにして、それから自動振り分け機能もあったら便利だな……」
座り込み空間魔法に新たな機能を追加していくユーゴ。
これがあったら、あれもいれたい、それもできたらいいな。
そんなことをしていると、いつの間にか時間が経過する。
「よし、これでいいぞ」
解体にかかったのと同じ一時間経過したところで、ユーゴは魔改造を完了する。
ユーゴが行った改造は以下になる。
・自分だけに見られるスクリーンにアイテムの一覧が表示される。
・アイテムは武器、防具、魔道具、家具などそれぞれに種別がつく。
・種別ごとにフォルダわけされる。
・一度手に入れたことのあるアイテムは格納時に自動的に、種別のフォルダに入る。
・一覧からすぐにアイテムを取り出すことができる。
・出したい対象がわかっていれば、瞬時に取り出すことができる。
・名称を『魔倉庫』とする
基本的には、魔倉庫内を確認しやすく整理したことになる。
「これでかなり便利になったはずだ。先に入っていたものも自動振り分けされてるはずだから……」
過去の自分が何を入れていたか、全てを把握しているわけではないため一覧を見ることで思い出すものがいくつもある。
「こんなものまで入ってるのか……【ランプベーカリーの丸パン】」
それを一覧から取り出してみるユーゴ。
手のひらに現れた丸パン。
当時焼きたてを買ったユーゴ。そのぬくもりが今も手を温めている。
「時間停止機能もちゃんと働いているみたいだな」
この機能は数百年前に追加していた。
同じく数百年前に購入したパンが焼きたてのまま食べられるとあっては、確認は十分だといえる。
過去の機能が正常なことを確認し、アップデートを終えたユーゴは満足そうに笑い、下山する。
大半の魔物をここに来るまでに倒しておいたため、登った時よりも格段に早くおりることとなった。
その足で真っすぐ街まで向かうユーゴ。
と、思われたが街には向かわずに一度家に帰ることにする。
今回の魔倉庫のアップデートの結果、思っていた以上に色々なものが格納されていることを知ったユーゴは、落ち着いてそれを確認するのが優先であると考えていた。
いつもの小屋に戻ったユーゴはベッドに座り込むと早速アイテム一覧を確認する。
そこには昔の貨幣、仲間の武器、自分の武器、防具、魔道具などたくさんのアイテムが格納されている。
さすがに仲間のアイテムをどうこうするのは気が引けるため、それらは過去フォルダに全て突っ込んでいく。
自分が使っていたものはいつでも使えるように自分フォルダにいれる。
確認していくなかでユーゴが気になったのは魔力放出器だった。
お遊びで作ったアイテムであり、魔力をこめておくとその魔力を周囲に散布するという魔道具。
最初は魔法をこめて、それを任意のタイミングで放つというものを作ろうとしていた。
しかし、それだと魔法を使えないと使用できないため、魔力をこめるものに変更していた。
これがなんの役にたつかというと、当時のユーゴも首をひねっていた。
完成した時には、喜びいさんで仲間に報告していたが、結局なんの役にも立たないとお蔵入りになった。
しかし、ユーゴには使い道にあてがあった。
「放出量を微量にして……」
設定を変えると、小屋を出て森の奥に向かって行く。
ユーゴが湖の近くへとたどり着くと、魔物が集まってくる。それは、以前素材採集に来た際に案内を買って出てくれた魔物三体だった。
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