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第十話


 バームはこれからも武器を提供してくれないか? という相談を持ち掛けていた。

 対するユーゴの答えは――保留だった。


「うむ、それで構わんよ。いつでも好きな時に来てくれていい。別に作ったものを売らなくても構わんし、売ってもいいと思ったものがあったら、それを提供してくれればええ」

 一度保留という答えを出したユーゴに対して、バームは気を悪くすることなく、こう続けた。

 これはユーゴにとって悪くない条件どころか、優遇されているといっていいほどのものである。


「それでいいなら、こちらとしてもありがたい。よろしく頼むよ」

 それゆえに断る理由はなかった。


 ユーゴにとって鍛冶場を使えるのは願ったりかなったりであったため、二人は強い握手を交わす。

 その後、店をあとにしたユーゴは自宅へと戻って行った。帰り道でテイクアウトできる食事を買っていき、それを夕飯にした。






 翌朝は早朝から出かけていく。

 ユーゴが向かったのは街ではなく、森の中にある、例の魔物が集まっている湖だった。


 今日も変わらずに多くの魔物や動物が湖の周囲に集まっている。


「ここは襲撃者がいないから、平穏だな」

 ユーゴの言葉のとおり、魔物も動物も穏やかな表情をしており、一度この場を訪れているユーゴのことも気にかけてない様子だった。


 ユーゴは前回、この場所で特薬草を手に入れた。

 珍しい素材である特薬草があれだけ群生しているとなると、よく調べれば他にも珍しい素材があるのではないかとユーゴは考えていた。


 ここには大した素材はない。魔物も珍しいものはいない。

 それがこの辺りに住む者の通説となっていたが、人が立ち入らない間に森は変化している。


 薬草などをたくさん採っていくのは人であるため、その人が立ち入らないとなれば手つかずの自然がたくさん残っているということである。


 ユーゴが湖を起点に周囲の散策を始めると、数体の魔物がそのあとをついてくる。


「……ん? ついてくるのか?」

「ピー!」

 そう鳴いたのはマリモを大きくしたかのような毛玉の魔物だった。

 見た目はもふもふとしていて愛らしく、陽気で、敵意もないため、気にせずについてこさせることにする。


 その他の魔物は声を出さずに、ただ黙ってついてくる。

 一体は小柄の犬のような魔物で、こちらは鋭い牙が生えている。

 一体は小柄の猪のような魔物、こちらは額の中央に角が生えている。


「まあ、俺の邪魔をしなければお前たちもついてきていいぞ」

 邪魔をしたとしても、特に危害を加えるつもりもなかったが、念のためそう声をかけておく。


 魔物の言葉ではなく人語ではあったが、三体とも頷いているのを見ると、なんとなくは理解している様子だった。


 お供の魔物を従えたユーゴは、ゆっくりとした足取りで湖周辺から徐々に範囲を広げて散策していく。

「何か面白いものでもと思ったんだけど……」

 特薬草の群生地は、この間ユーゴが採集したにも関わらず同じだけの量が復活していた。

 しかし、それ以外のめぼしいものがなかなか見つからない。


「ピーピー!」

 すると、いつの間にか別行動をとっていた毛玉の魔物がこっちを見てと言わんばかりに跳ねながら大きな声を出した。

 ユーゴは声がする方向へと草木をかき分けて進む。


「一体何が……おいおいこれはすごいな」

 案内された先に広がるその光景を見てユーゴは思わず口を開けて唖然とする。


 ユーゴの反応に満足げに跳ねている毛玉魔物が見つけたのは、生命の実と呼ばれる果物だった。

 この実を食べたものは身体に活力がみなぎり、三日三晩寝ずに働き続けられるとまで言われている。


「まあ、それはさすがに言いすぎだけどな。それでもこれがあれば、色々な薬を作ることができるぞ」

 しかし、この実の本来の効力を知っている。


 この実は食べたものの生命力をあげるものではなく、薬を作る際に加えることで効果を大幅にあげることができるというものである。

 ユーゴは賢者として生きていたころから、こういった研究に余念がなかった。


 ――だがただ一つ、ユーゴは知らないことがあった。

 いま、この世界においてその知識は既に失われたものであり、ユーゴくらいしか知る者がいないということである。


「とりあえず、いくつか持っていこう。全部採ったら枯渇するかもしれないからな……」

 慎重に数個だけとって空間魔法で格納していく。


「ピーピー!」

 遠慮がちに採集するユーゴを見た毛玉の魔物が再び大きな声をあげて跳ねる。


「……ん?」

 声の方へと視線を向けると、そこには生命の実がなっている木がたくさん並んでいた。


「これはすごいな……」

 先ほどと同じようなセリフを口にするユーゴ。

 賢者時代にもこれほど群生している生命の実を見たことはなかった。

 珍しいものを見た時のように目を細め、木に見入っていた。


「これだけあればなんでも作れるぞ!」

 そう言うと、ユーゴはすぐに実を回収していく。一つの木から数個ずつ。

 しかし、結果として大量の生命の実を回収することができる。


 全ての木から回収を終えたユーゴはほくほく顔で魔物たちへと振り返る。


「いやあ、助かったよ。俺一人だったら見つけることができなかった。感謝する」

 一番活躍したのは毛玉の魔物だったが、他の二体も道中で何かないかと一緒に探してくれていた。

 それゆえにユーゴは平等に三体に感謝の言葉を述べる。


「ピーピピー!」

「ガウ!」

「ブルル!」

 すると三体がユーゴの前に並ぶ。


「なんだ? 何か欲しいのか? さっきの生命の実でも……」

 何が欲しいのかと首を傾げつつユーゴが採取したばかりの実を取り出そうとすると、三体が一斉に首を横に振る。


「ち、違うのか。じゃあなんだ?」

 ユーゴの質問に対して言葉で答えられない魔物たちが顔を見合わせて考え込む。


 考えたのち、毛玉の魔物は一歩前に出るともふもふを揺らして力を蓄えたかと思うと、身体から魔力を放出し始めた。

 その光は小さくもしっかりと魔力の内包された淡いものだ。


「……魔力が欲しいのか?」

 その予想は的中したらしく、三体が嬉しそうな雰囲気で大きく頷いていた。


「別にそれくらいならいいけど……」

 三体の頭上に手をかざすと、ユーゴは彼らに魔力を流し込んでいく。

 時間にして数秒程度、ユーゴの魔力の全体量の極一部。


 それでも十分だったらしく、三体とも身体の毛や皮膚がツヤツヤしており、元気にその場で飛び跳ねていた。


お読みいただきありがとうございます。

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