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はい、漠然とした不安さん、こんにちは!

 この世界に来て、一番初めに手を差し伸べてくれた友達、由布梨にとって柚葉は本当に頼もしい、という印象だった。


「うちはもう人手が足りちゃって」

 柚葉に相談すると、こう言われてしまった。

「食堂で(やと)ってもらうのはムリ、ってことだよね」

 由布梨は確認した。

「まぁ、そういうことになるわね。……あ、そうだ。佳代(かよ)のとこに頼めばいいんだ!」

 柚葉は手をポンと叩いて、佳代と言う人物の名前を挙げた。

「佳代?」

 由布梨にとって耳慣れぬ名前だった。

「近くで茶店やってるから、今から聞きに行こう」


 柚葉はそう言って、由布梨たちを先導して歩いた。何軒かの店を通り過ぎ、古風な店構えの建物に入った。

 その中に入ると、

「佳代? 柚葉だけど、いる~?」

 店の奥に向かって柚葉が叫んだ。

 すると、店の奥から、男性が出て来た。

「ごめん、今佳代がいないんだけど……」

 その男性は由布梨達の姿をまじまじと見つめて、いきなり何事かというような表情をみせた。

「あのね、この子が住み込みで働けるところ探してて」

 柚葉が色取の腕を引っ張った。

「――俺、色取陸斗って言います! ここで働かせてもらえませんか」

「いいよ」

 その男性は即答した。

「い、いいんですか本当に……」


 色取が動揺(どうよう)しながら訊いた。

 まだ素性も何の素性も話していないのに二つ返事で承諾されると、逆にこっちが不安になる。動揺もするよね、と由布梨は思った。


「最近、佳代があまり店に出なくて、働き手が足りなかったんだ。俺は弥一郎(やいちろう)。今日からよろしく、色取君」

 その男性は優しそうに笑って、自己紹介をしてくれた。

「よろしくお願いします!」

 話が随分とんとん拍子(びょうし)に進むので、由布梨は驚いてそのやりとりを見ていた。

「佳代と弥一郎は兄妹なの」

 柚葉が言った。

「へえ」

「早速だけど色取君、今日からお願いしてもいいかな?」

「ぜひお願いします!」

「じゃあ私たちは……」


 色取のバイト講習が始まりそうだったので、邪魔にならないように由布梨と柚葉は自分の仕事場に戻った。

 食堂で、卓を拭きながら柚葉が訊く。

「色取君は由布梨と、元の世界だと仲が良かったの?」

「あー、どうなんだろう。話友達、みたいな感じだったのかな」

「そうなんだ。何話すの?」

「色取君が好きなサッカーの話、あと私の遺跡発掘のバイトの話とか……」

「ねぇ、ねぇ」柚葉が前のめりに訊く。「サッカーって何?」

「あ、柚葉がいつもやってるやつと、だいたい同じなんだけど……」

「いつも?」

(まり)を蹴ってるでしょ」

「! 蹴ってる! 一緒なんだ……」

「う、うん。まぁ」


 柚葉の反応を見ると、実にまずいような気がしてくる。

 なんだか、ただ向こうの世界から来たという理由で色取君のことが気になるというよりかは、彼に心が傾いているような口ぶりに思える。


 ――私の考えすぎかもしれないけれど。


 由布梨はまた自分がそわそわしてくるのを感じる。

「色取君、占い師に蹴人が向いてるって言われてたよ」

「そ、それも一緒なんだ……」

「今度、どうやって蹴鞠を使うのか見せてあげてくれる?」

「うん、うん。いいよぉ」

 柚葉がぽっと頬を赤らめた。

 

 ますますこれは、まずいような気がしてくる。

 漠然(ばくぜん)とした不安の嵐が、由布梨の胸を吹き過ぎていった。


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