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元の世界に帰るための、魔法

 二週間ほどたった頃、アイリーンと俺たちは再会していた。

 アイリーンは夢の中で咫独に問いかけたらしい。どこに奇跡の雫はあるか? と。すると、咫独の骸骨(がいこつ)のその下にあるというのだ。それなら、骸骨はどこにあるのか? と訊くと、由布梨たちが知っている、と答えたらしい。

 咫独は、川を変化させることのできる全てのアイテムを、アイリーンの手によって、まとめて地中で保管して欲しい、とも頼んだらしい。


「私達、認知されてるんだよ~」

 由布梨が半ば怯えたように言った。

「そうだな。やっぱりアイテムを使って元の世界に戻るわけにはいかないみたいだな」

 俺は言った。

「いかないわ」

 アイリーンが笑って付け加えた。

「それじゃ、お片付けに参りますかね」

 俺たちは飛行船を使って、遺跡へ二回目の探索に行った。ほとんどこの前の状態で、遺跡はあった。咫独の指示通り、骸骨の下を掘り返した。


(言う通りにしてるんだから、呪ったりはしないでくださいよ……!)


 俺は心の中で唱えながら掘った。そもそも、骸骨の下を掘るなんて、それだけで罰が当たりそうな気がする。しかし、咫独が望んでいるのだから仕方がない。

 俺は手を深く突っ込んだ。


「本当に、あった」

 引き抜いた俺の手の中には、一つの瓶が握られていた。

 金色の液体がなみなみ入っている、見事な装飾の施された瓶だった。

「それが奇跡の雫で、こっちが氷の錘、かなあ」 

 由布梨が言った。由布梨の方を見てみると、彼女も何かを手にしていた。

 木の棒のようなものに、青くて細長いものがぐるぐる巻きついている。

「あとは歯車ね」

 アイリーンが言った。歯車は一番大変だった。遺跡の色々な位置に散在していて、全部集めたかと思って、遺跡から出ようとすると、アイリーンが気絶する。そしてうわごとで言うのだ。

「まだ歯車残ってるから~」

 少しくらいいいじゃないか、と俺は内心毒づきながら、懸命に残りの歯車を探した。

 気絶、歯車探し、それを何回か繰り返したのち、ようやく俺たちは遺跡から脱出することが出来た。


「良かった、出れたよお」

 由布梨が涙目で言った。もしかすると、歯車のせいで一生遺跡にいる羽目になると思ったのだろう。

「良かった良かった」

 俺たちは歯車を抱えて、飛行船へと乗り込んだ。そして、アイリーンの家がある、安住の地までひとっ飛びをした。

「埋めるー?」

 アイリーンの家の庭、そこに歯車やら奇跡の雫の瓶やらを並べると、由布梨は訊いた。

「それは私がやるから、いいわ」

「おっけー」

「まだ、いたんですね」

 庭の方からアイリーンの家の中が見えた。俺はその時、まだ家の中に手紙モンスターがいることに気付き、驚愕の声を出した。

「そうね、もう少しいてもいいかなって」

 アイリーンが言った。

「多分、そう思いたいだけかもしれないけど、手紙モンスター、幸せそうに見える」

 由布梨が言った。

「俺も、そう見えるかな」

 頷いて、まじまじと手紙モンスターを見つめる。無表情ではあるのだが、何故か満足げにも見えた。それを見ると、俺たちの顔も、自然と綻んでしまうのだった。


「ありがとう。疲れたから後で埋めるわ。二人とも、今度こそ泊まってく?」

 アイリーンが訊いた。

「どうしよっか、色取君」

「俺たち、元の世界に帰る方法、探さないと」

「それはそうだけど……心当たりがあるの?」

「ある」

 俺はきっぱりと答えた。自信があったのだ。

 モンスター討伐にみんなで出向いた日の朝、俺は占い師と久々に会った。そして、運命を蹴り飛ばせだの、由布梨に振られるだの、かなり好き勝手言われた。


 しかし、良い方向に来ている気がする。

 アイリーンとの出会いにヒントがあるはずなのだ。

 魔法を封入した物は、境界の壁を越えても、魔力が消えない、という点だ。

「ある」

「色取君、二回言ったね」

「それなら、引き留めることはできないわね」

 残念、と言いつつも、アイリーンは楽しそうに笑った。その表情には、期待しているわ、と書いてある気がした。

「さよなら、また!」

 俺と由布梨は、アイリーンの家を後にして、江瑠戸西へと戻った。


「どうやって帰るの?」

「由布梨、俺達が言葉を交わした一番最初のときに、もう答えが出てたんだよ!」

「図書館、本取ってあげようか、って話したけど」

「そう、本がね。本がありさえすれば良かったんだよ」

「色取君、本が無くても生きていけそうじゃない?」

 由布梨がくすりと笑った。

「あ、そういう意味じゃなくて。こっちの世界の図書館と本を探せばいいんだ。始まりと終わりは同じなんだから」

「図書館なんか、あったかなあ」

 由布梨が可愛らしく首を傾げた。

 

 占い師の言ったこと、始まりと終わりは同じ場所。

 由布梨と出会った時のことを、思い出すだけで良い。

 この世界に栞を挟んで閉じる、元の世界に戻る。

 例えば本を読むとき、本の世界にトリップしてる。戻る方法は本を閉じることだ。

 栞をつけておけば、読みかけたところから本の世界に戻ることができる。

 栞を挟まなければ、どこまで読み進めていたのかを見失っていく。

 それじゃあ、この魔法世界へのトリップを終わらせる方法、残されているのは、たった一つしかないはずだ。

 

 ――閉じるための本を作る。

 

 俺たちは、江瑠戸西の魔道具店へと足を運んだ。

 この魔法世界において、本がたくさんある場所と言えば、ここしかない、と思った。図書館、と言えるかどうかは別として。


「いらっしゃいませ~」

 すべての商品を宙につっている店内、以前来た時と全く変わっていないように見える。

 店奥、こちらからは窺い見ることのできない位置から、店主の声が聞こえてくる。

「何をお探しでしょうか?」

「自分の望む通りの魔法を封じ込められる、そういう本を」

 俺は店主に告げた。すると、

「……かしこまりました~。それでは」

 店主が俺の前にいきなり現れた。

「うわっ」

 てっきりまた、前みたいに店内を進んできてください、と言われると思ったのに、急に目の前に出現したので、驚きで変な声が出た。


「こちら、お探しのものでは?」

 店主が俺の前に本を差し出した。俺が急いで本を開いてみると、それは全部のページが白紙になっていた。

「本当に何もない……」

「魔法を作れる本です。魔法の効果も書き込んでいけばその通りになる、と」

「凄い、面白そー。これバカ売れでしょ」

 由布梨が笑った。

「いえ、売れたことは記憶にないですね」

 店主が言った。

「何で売れないんですか?」

 俺は気になってストレートに質問した。

「誰もが、出来合いの魔呪文本を買ってきますよ。だって火とか水とか氷とか、人間が普通思いつく魔法なんて大体一緒なんだもん」

 微妙に気持ち悪い口調で店主の親父は言った。

 確かに、火とか水とか、そういう魔法があれば十分。

 それはそうだって話。

 

 でも俺は気付いた。

 俺達はこのトリップを終わらせる魔法を、作ることが出来る。

 この白紙の魔本さえあれば、簡単に出来たはずのことなんだ。


「思うままに、そうなって欲しいって、魔法を作ればいいんだよね」

 店の外に出て、由布梨が言った。

「あぁ、やってみてくれ」

 俺は少し緊張しながら頷いた。

 魔法使い、由布梨は白紙の本、一ページ目にこう書いた。


 ――この本の最後のページに栞を挟んで、閉じる。その時、鏑木由布梨と色取陸斗とルリは元の世界へ、戻る。魔法のシールドの指定領域はなし。この世界の全てに対して、魔法を適用するものとする。


 


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