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アイリーンの推理

 アイリーンはその次の調査で、ロープが切れるという災難に見舞われてしまう。

 咫独は、アイリーンが約束をしてくれたと思ったのだろうか。そのために、魔法世界へと、呼び寄せたのではないか、とアイリーンは邪推した。

 アイリーンのパートナーPは、彼女に頼まれたことをしっかりと憶えていた。

 手紙にだってしっかりと記載した。

 

 ――歯車を埋めておくように、と。

 

 そしてその手紙はおそらくPの手で境界の壁を透過し、変換によって、手紙モンスターに変化し、今に至る。

 

 アイリーンの話を聞き終えると、色取が訊いた。

「アイリーンさん、あの俺、マイスナー通路のあたりをカメラで撮っていたら、気絶させられたんです。何でですかね?」

「申し訳ないわ。多分、秘密結社の一員だと勘違いされたんだと思う。私達、敵が多くて、ごめんなさい」

 アイリーンは顔を曇らせた。

「あ、いや」色取は首を振る。「理由が知りたかっただけで、アイリーンさんたちに対して怒ったりとか全然ないですから」

「そう……それでも、いつか元の場所に戻ることが出来たら、秘密結社の規模は小さくしようと思うの。危険が多すぎるから」

 アイリーンが言った。

「詳しく教えてくれて、本当にありがとうございます。あの、私も聞きたいことがあるん

ですけど……」

 由布梨が質問しようとすると、

「敬語止めにしましょう。せっかく同じ世界の生まれ同士なんだから、仲良くしていくべきだわ」

「あ、そうですか? それじゃ、敬語止めます」由布梨はくすっと笑うと言う。「アイリーンは境界の壁を割ったことがある?」


「! あるわ、あれは凄かった……。それを訊くってことは由布梨、貴方もあるのね」

「そう。だけど、私の時は凄くも何ともなかった。気付いたらあの、船の上にちょこんと乗っかっていただけ」

 由布梨は上を向いて、思い出しながら話している。

「私の時は、亀裂が激しく入って、川の中にいくつもの壁の破片が落ちて行くのが見えた。まるで隕石がいくつも落下する現場に居合わせたようで恐ろしかったわ」

 色取と由布梨は目を見合わせた。

「なんか、凄いよねえ」

「確かにそれは怖い」


「どうして違うのかしら。それに壁が割れるのは、全員に対して発生することじゃなかった。秘密結社の中でも、私だけが体験したことだった」

「壁が割れるなんて、かなり珍しいらしくて。あの境界の場所を管理してる人と話したときも、よく分からないと言われたし」

「由布梨、貴方」アイリーンが目を見開く。「あの境界世界の人と交流があるなんて、随分顔が広いのね」

「いや、それほどでも」

 由布梨は顔の前で手を振った。


「由布梨、私は謎は解明しないと気がすまないんだけど……貴方、境界の壁に入る前はどんな行動をしていたか、教えてほしいの」

「あぁ、私は発掘のバイトです。壁の前のところを、スコップでざくざく」

「あそこを掘ったのね。縄文土器は出て来たの?」

「いや、それが境界世界で作られた瓶とか歯車が出てきちゃって、オーパーツだって騒ぎになってました」

「境界世界の物が……。なるほど、分かったかもしれないわ」

 アイリーンが満足げに笑った。

「本当に」

「私、実は境界の壁を割ってしまう直前に、オーパーツに触っていたのよ」

「それは、どんな物ですか?」

「紫と水色で彩色された丸い何か。秘密結社の本部の奥にある、極秘のものなんだけど、忍び込んで触って見ていたの。それは噂によると、境界世界、もしくはその向こうの世界から、何らかの理由で川を越えて来たものだろうと言われていたの」

「一緒だ」

 由布梨は頷いた。


「私が今考えたのは、そのオーパーツには、()()()()()()()()んじゃないかってこと」

「魔法が?」

「そう。例えば、私が境界の壁に入ると、魔法使いになる。そして境界の壁から元の場所に戻ってくると、普通の人になる。でも、例外があるのかも」

 アイリーンが言った。

「魔法が封入された物は、壁を越えても効力を失わない、ってことか」

 色取は相槌を打った。

「私と由布梨がそれぞれ触れたオーパーツには、魔法の名残があった。そしてオーパーツに触れた瞬間、魔法は私たちの体にも移った」

 アイリーンが由布梨をじっと見つめた。

「魔法の名残~……」

 由布梨は首を傾げた。

 まだ、そんなものがあるとはにわかに信じられない、そんな言葉が顔に書いてあるように見えた。

「魔法を少しオーパーツから吸い取ってしまった私たちは、境界の壁に入ってしまった。壁は、魔法に反応して割れたんじゃないかしら」

「ん~?」

 由布梨は頭を抱え込んだ。

「何が分からないの」

 アイリーンは親切でそう訊いたつもりなのだが、由布梨がびくっと震えたところを見ると、厳しい家庭教師のような声色で言っていたことに気付く。


「魔法世界や境界世界からやってきたオーパーツには魔法が宿ってた。それを触ったため、由布梨たちは若干魔法使いになってしまう。その状態で境界の壁に入ったら、壁は割れてしまった、と」

 由布梨のためを思ってか、色取が親切にまとめなおした。

「そう、そうね」

 出来るだけ穏やかな口調でアイリーンは言った。

「あー分かるような分からないような」

 由布梨が頭をぐるんぐるん回した。


「境界の壁は変換をしたいのに、由布梨も私も、すでに魔法を少し持っていたから、多分そこでエラーが起きて、壁が一部壊れた」

「そうかもしれませんね」

 色取が言った。

「ほー……」

 由布梨は視線を泳がせた。

「問題は、どうして由布梨の時は壁が少しだけ壊れて、私の時は大破壊が発生したのか」

 ようやく本題に入れた、とほっとしながらアイリーンは言った。二人を交互に見ると、由布梨よりも色取の方が興味深そうに話を聞いている。


「さあ、由布梨。貴方の仮説を聞かせて」

 アイリーンは前のめりに訊いた。

「えっ、ん~分からないなあ」

「駄目よ、由布梨。ちゃんと考えてから答えて。今考えようとすらしなかったでしょ」

「補習でも受けてる気分……いや、やっぱり分かりません」

 由布梨は両手を挙げた。お手上げ、とそう示したいのだろうか。

 アイリーンは目を光らせて追及した。

「発掘をしてオーパーツを見つけるまでを、本当に、とても詳しく説明して欲しいのだけれど」

「まぁそれなら出来そうです。まず現場の更衣室で着替えて、バイトの説明を受けて、軍手をはめて、スコップを持つ。掘る。オーパーツ出てくる。うわあーって。それで、色取君からのメッセが来る。上司が来て、こんなの掘れましたーって、見せる」

 由布梨は途切れ途切れに、本当に詳しく説明した。

 アイリーンはふう、と息をついた。見つけた。


 そして謎が解けたわ、とアイリーンはニコニコと笑った。

「え? 今ので分かったんですか」

「由布梨は軍手を付けてオーパーツを触った。私は素手でオーパーツを触ったわ」

 それを訊いて、色取がああ、と納得した。由布梨は頭に疑問符を浮かべて、

「それで、それで?」

 と先を促した。

「私と由布梨は、魔法を受け取る量が違ったのよ。貴方の場合は、軍手、そう軍手を付けていたことで、魔法が全て移りきれなかった」

「ふーん、ん」

 由布梨は二段階に分けて頷いていた。浅く頷き、深く頷き。必死に理解しようとしているようだった。その様子を見ていると、まるで本当に自分が家庭教師にでもなって、素直な生徒に勉強を教えているかのように、アイリーンには錯覚した。


「試すことが出来たのなら、一番分かりやすいのだけれどね」

「百聞は一見にしかずっていいますもんね」

 色取が楽しそうに笑った。

「そうね」

「……難しい話だった。それにしても、朔真に教えてもらった境界昔話で、歯車使って帰れるって、聞いてたは聞いてたけど、今だ信じられないというか」


「私が一度にたくさんの情報を得た、あの変換の記憶……それが正しいとすれば、歯車を数百枚入れれば、川は逆向きになるわ。具体的な枚数は定まっていないようね」

「それ、簡単すぎて、結構拍子抜けかも。じゃああの遺跡の歯車モンスターを川に連れて行って、漬けたら逆向きになるってことだ」

 色取が言った。


 アイリーンは無意識に彼をギョロっと睨んだ。

「駄目よ、それを実行しようとしては」


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