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宝探しの末路

 色取に、どうしても氷の錘が見つからないと言われ、そっか、と由布梨は返した。

「これでもう、全部かな」

 由布梨は神殿の奥の部屋に手紙モンスターを並べた。

 計十体、それぞれ手分けして連れて来たモンスターだった。

 どれも大人しく、由布梨に整列させられていた。

 それぞれ十人十色の発言をする。

「君を愛してる」

「この手紙は届いてるのかな」

「心配しないでね、いつかきっと会えるよ」

 など。

「歯車を埋めておいて」

 と発言する手紙モンスターが口を開くと、由布梨は条件反射的にその口を塞いでしまう。

 もうその言葉は一生聞きたくないな、と思った。

 由布梨たちは辛抱強く、一体一体が発言する言葉に耳を傾けた。

 すると、時折手紙の中に記してあったであろう、

「君の長い黒髪が」とか「綺麗な横顔が」とか、人の特徴を言うことがあるのだ。

 しかし流石にこれでは断片的すぎてダメだ。

 

 由布梨たちが諦めかけたその時、

「アイリーンへ。君と出会ったのはファクトリーだったね」

 と手紙モンスターの一体が言った。

 そいつは、「歯車埋めておいて」と同一モンスターだった。

 由布梨はのけ反った。

 このアイリーンを探し出すと、同時に歯車を埋めておいて、の謎が解けてしまうのではないか、と心臓がバクバクした。


「アイリーン、か。大分珍しい名前だよな。俺はこの人、見つかると思うが」

 久高が言った。

「珍しいんだ。そっか」

 由布梨は納得した。元の世界だと珍しいわけではないが、どうやら魔法世界ではあまりないらしい。

 他の九体よりずっと明確なヒントだった。この魔法世界に来ている、アイリーンを探せ。他のモンスターは待てど暮らせど、具体的なヒントを一つもくれなかった。

 諦めてぼんやりとした頭で由布梨はルリに訊いた。

「ねぇルリ。他の手紙モンスターは、どうしたらいい?」

 分かりません。そう返されるのが関の山だろうと思っていると、

「はい、他のモンスターと通信します」

「え?」

「通信の結果、”返信”が欲しいと、言っています」

「返信?」

 疑問に思いながらも、由布梨は他の手紙モンスターに返信を書くことにした。

 隠し部屋に散らばっていた紙の上に、袖口に入りこんだ、砂で汚れた小枝で文字を書いた。


 返信、と言っても何を書けばいいのか迷った。

 自分が貰ったわけではない手紙に、返信。

 こんな奇妙なことがあるだろうか、と思いながらも手紙を書いた。

 弥一郎の札から清少納言でも呼べば、すごく出来のいい文章が出来上がるのだろうけど、それは止めた。

 遺跡に来た全員が手紙を一通ずつ書いてくれた。

 その様子を、手紙モンスターは機嫌よさそうにして眺めているように由布梨には見えた。

 もしかすると、ルリの言う通り、本当にこの返信が欲しかったのかもしれないな、と思う。モンスターにそれぞれ、手紙を渡す。

 モンスターがそれを胸に抱きよせると、異変が起きた。

 モンスターと渡した手紙は両方とも姿を変えた。

 それぞれ一つの翼、一つの瞳を持つ鳥になり、二つで一つ、というように互いを支え合いながら飛びあがり、神殿に穴を穿ちながら星空へと踊り出た。


「何これ? 嘘おお!」

 次の瞬間、その穴から神殿は壊れだした。

 由布梨は全員に対して移動魔法を唱えてそこから脱出した。

 どうするべきか分からなかったが、ルリにも移動魔法をかけた。

「げっほん、ごほ」

 移動魔法の影響が少しだけ、身体に出た。

 いつも通り、喉がイガイガして気分が悪かった。

 そんな苦労を要しながら、外に脱出した由布梨は、一つの目しか持たない鳥と目があった。

 由布梨にはその瞳が満足げに微笑んでいるように見えた。ただ、そう思いたいだけなのかもしれないが。

 二つで一つ、そうやって体を寄せ合った鳥たちはすべて夜空へと紛れて、姿を消した。


「消えた……」

 由布梨は唖然とした。今まで、モンスターが消滅するときは、攻撃を加えた時だけだった。こんなやり方でモンスターが消えたことなどない。

 由布梨たちのそばにはあの、歯車埋めておいて発言をするモンスタ―だけが残った。

 みんな、空を仰いで見ていた。

 現実をまだ上手く飲みこめていない様子だった。

 皆ぽかんと口をあけて何も言葉を発さない。

 神殿が砂浜の上に崩れきった。

 舞い上がる砂埃をそっと鎮めるかのように、音もなく星が降り注いだ。

 流星群――それはふたご座流星群のようだった。


 まさか、手紙モンスターは返信の文と一緒に星になってしまったのだろうか。

 何て不思議な光景だろう、何て不可解なことなんだろう。

 由布梨は呆けて空を眺めつづけた。その時、

「あれ」

 夜空に天の川のようなものがあった。

「由布梨、アマノガワって言うんだよ、あれ」

 柚葉が言った。

 由布梨は目を見開いて驚いた。

 元の世界でも、魔法世界でも、同じ天の川。由布梨は思った。


 ――あぁ、ずれが今消え去ったんだ、と。


 都会に生まれ育ち、満天の星空を見ることが出来るのは写真か、歌の中だけだった。由布梨がアーティストを好きになるかどうかは、歌の中で綺麗な星空を見せてくれるかどうかだけだった。

 憧れ続けた星空。それが今頭上に広がっている。

 全員がしたためた手紙が繋いだ奇跡だった。

 ひまわり色の星が一層綺麗だ、と由布梨は思った。


 ――そうか、これを宝物というのかな。


 由布梨は目の前の光景をかみしめた。

 あの日、遺跡発掘のバイトに参加して、『ただで宝探しをするようなものじゃないか』と、今より少し幼い由布梨は考えていた。

 そして今、由布梨は理解した。

 長い宝探しは終わった。


 ――私の宝物はみんなと、この星空だ。


 由布梨は思った。由布梨の携帯が歯車をモンスターに埋め込んだ、その迷惑な原因を話さなかった。そして、由布梨は話すことを止めた。

 どうせみんな許してくれるからじゃない。そうではなく、もう許されなくてもいいと思った。

 色々な、本当に色々なことが、今日にいたるまでに重なりすぎている。

 携帯のせいかも、さかのぼれば、そもそも都市伝説につられてこの世界にうっかり来てしまっている自分のせいかも。

 歯車モンスターも、私をかばって入院した色取君のこととか。

 ごめん、みんな、私のせいなの。

 そう言ってしまえば楽にもなるだろう。だけど、もういい、と由布梨は思った。楽になろうとなんて、私はしないから、と由布梨は正面を見つめた。

 大事な人がいなくなって、手紙を書いた。だけどその手紙は届かない。

 そんな切ない真実のそばで、楽になろうとすることが、嫌だった。


 ――長い宝探しが終わる、か。


 宝を見つけた旅人は、宝物を抱えて帰っていくのだろう。

 どこへ?

 由布梨の心はすでに決まっていた。

 

 由布梨は何げなく砂の地面を掘りだした。

 バイトの現場で実現できなかった、携帯で音楽を流しながらの発掘作業をするために。

「ルリ、プレイリストの曲を流して」

「はい」

 ルリがあの歌を歌いだす。

 スコップと軍手のセットなんてないので、由布梨は砂を素手で掘り続けた。

 掘る、掘る、掘る、エンドレス、掘る。

 乾いた砂の中から出て来たのは二つの頭蓋骨だった。

 由布梨はあまりの驚きで、悲鳴を上げることもできず、口を覆って後退した。


「きゃああ、骨だわ!」

 柚葉が頬に手を添えて、お手本通りの絶叫をして見せた。

 すると、何事かとみんなも集まってくる。

「もう、これはかなり古い物だろう」

「この遺跡の民じゃないか?」

「二つ……きっと恋人同士よ! おっかなくなんかないわ! きゃあ……」

 その横で、久高が砂を掘るとまた別の部位の骨が出て来た。

 その骨の手には不死の妙薬の空き瓶が握られていた。

 

 ――不死の妙薬は咫独が半分だけ、飲んだはず。残りの半分は誰が、一体?


 由布梨はおそるおそる地面に視線を落とした。

 二つの頭蓋、そこからどんな人間だったのか、性別はどちらか、そんなことも何も分かりはしない。境界世界から遥か昔にそれらを盗んで持ち出し、不死の妙薬もきらし、砂の中に眠っている人。

 由布梨は頭蓋骨の、小さな方に自然と視線を落として考えた。

 

 ――咫独さん。貴女はここ、自分の帝国で宝を見つけられたの?

 

 そう考えてもいいのよね、と由布梨は心の中でそっと問いかけた。

 砂は答えを与えはしなかった。


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