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頼りになるルリ

 俺は朔真さんに話し掛けられた。

 ごく小さな声で、囁くように。

「ゴメン、氷の(つむ)も奇跡の雫も、見つけられなかった。隠し部屋にあると思ったんだけど」

「いや、朔真さんがあやまることじゃないですよ」

 俺はそう返した。

「モンスターも沈静化したし、何もやることないよねー」

 柚葉が言った。確かにな、と思った。

 このまま帰っても、ほとんどの面子は何一つとして困らないのだ。

 もともとの目的は達成した以上、長居する意味がない。

 帰るような空気感になっていることを俺は感じ取っていた。

 しかし、俺自身はまだ帰るわけにはいかなかった。朔真さんから、元の世界に帰ることのできるアイテムがここにある、という情報を教えてもらったのだ。自分でも、気がすむまで探し回らないと気がすまない。


「あ、そうだ」

 ルリに頼ればいいのだと俺は気付いた。

 ルリ、氷の錘か奇跡の雫を探して、と言えばいいのだ。

 俺は部屋から出ようとした。

 すると、

「あー疲れた~」

 誰かのそんな声がした。何故かみんな、俺に続いて部屋から出てくる。

 おそらく、帰りますよーという合図だと思ったのだろう。

「早く帰りたいものです。玉兎様も城にお戻りになってくださいね」

「結局、モンスターは沈静化してしまったし、不死の妙薬を盗んだでろう人間もいないし、無駄足、か」

「ほくろで気絶するわ、急にモンスターが大人しくなるわ、変な場所だぜ」

 玉兎と佐月と草乃丞が会話した。

 完全に帰る空気になっている。俺は焦った。今から、この遺跡に残って捜索をしようとするのなら、確実に怪しまれるだろう。

 特に玉兎には今からの計画を見られたくない。

 由布梨を攫うくらいだ。俺が由布梨と一緒に元の世界に変えるために画策しているとばれたら、しかもその計画に、境界世界側の朔真さんが手を貸しているのだ。


(どうしようかな……)


 俺は少し考えてから、

「由布梨、氷の錘をルリに探してもらってくる、俺。一人で行くから、待ってて」

 俺は由布梨にだけ聞こえる小さい声で言った。

「分かった」

 由布梨は頷いた。

 神殿の入り口、階段の方へ向かって行く面々と別れて、俺はあの部屋へと戻っていった。

 やはりと言うべきか、

「どこ行くの?」

「方向が逆だぞ」

「どうした、色取」

 とみんなに声をかけられてしまう。

「ちょ、ちょっと忘れ物」

 俺は走り出した。

 すると、

「色取君、何を忘れたの?」

「仕方ねえな、一緒について行ってやるよ」

「間抜けな奴だ」

 と言われる。俺は意気消沈しながら、戻ると発言した手前、部屋に戻った。

 ルリは無表情でそこに立ち尽くしていて、部屋にはモンスターが何匹がいた。


「忘れ物。……は、気のせいだった」

 俺は言った。あまりのわざとらしい声色に自分でびっくりした。

「はあ?」

「疲れてるんじゃないの~?」

「あ、そうかも。俺疲れてるんだな……」

 俺は迷った。

 どうすれば、怪しまれずに氷の錘などを探せる?

 もう白状した方がいいのだろうか。

 玉兎は、由布梨が元の世界に帰るとなったら、どう反応するのだろう。

 俺にはよく分からなかった。しかし、もし打ち明けて、色取の捜索を妨害されることは避けたい。

 ルリに今すぐでも訊きたい。それが出来ない。


(まさか本当に帰るしかなくなったんじゃないか……!?)


 俺は愕然とした。

 もしかすると、この遺跡のどこかに元の世界に帰るためのアイテムがあるかもしれないのに、みすみす帰るのか。

 日を改めるか? いや、どっちにしたって、怪しまれることには変わりない。

 色取どこに行くんだ? って周りの人にすぐ聞かれてしまうだろう。


(どうする? えっ、どうするんだ、これ)


 部屋の中で俺が右往左往していると、他の面々に不審そうな目線を向けられる。

 今の時点でもう怪しまれている。俺は冷汗をだらだらと流した。

「君を愛している」

 部屋の隅で手紙モンスターが言った。

 皆の視線がそこに集まった。しかしすぐに、あぁ、と言うような表情に変わって皆すぐに関心を失った。

 それもそのはず、手紙モンスターは感情でその発言をしているわけではないのだから。

 ルリのおかげでモンスターは沈静化したため、ちょっと情の湧いてしまったあの手紙モンスターを、倒すべきか、それとも生かしておくべきかなどど、迷う必要もなくなっている。


 しかし、俺は妙にそのモンスターが気にかかった。心に引っかかるものがある。

 次の瞬間、部屋に入ってきた由布梨がつかつかとルリの前に立った。


(まさか、俺がへたれてるから、自分でやる! と奮起してしまったのだろうか)


 俺がヒヤッとしていると由布梨は、

「ルリ。あの手紙の中の『君』を探して!」

 と言った。

 由布梨が指を差した先には、手紙モンスターが正座していた。

 ルリはしばらくしてから、

「すみません。分かりません」

 と言った。

 由布梨はがっくりと肩を落とした。一方で俺はほっとしていた。てっきり、由布梨が氷の(つむ)を探してくれ、とルリに言うと思ったのだ。

「由布梨様、手紙の宛先人を探したいのですか?」

 朔真さんが訊いた。

「ルリに訊けば分かるんじゃないかって、期待しちゃった」

 由布梨は切なそうに笑った。

 その様子を見て、俺はピンと来た。

「由布梨、『君』探しをするか」

 俺は言った。

「……する!」

 由布梨は目を開いて言った。俺はよし、と心の中でガッツポーズをした。これで、この遺跡に居残る理由が見つけられた、と安心してしまったのだ。


 しかし、他の面々が、

「え、よく分かんないけど私手伝うよ~」

「我も手伝ってやろう」

「仕方ねえなあ、で、何をすればいいんだ?」

 とみんなノリノリだった。

 俺はまた困った。手伝ってあげる、と言われたことが意外だった。もうみんな疲れているようだし、帰ろうというムードになっていたし。


(いや、でもそれぞれに役割を与えて分断すれば、どうにか……)


 俺は思いつきを口にした。

「それじゃ、みんな。別々に手紙モンスターを探してきて。こういう風に喋るモンスターのことな。一か所に集めましょう」

 了解した、とばかりに他の面々は頷いた。

 しばらくすると、部屋から出て行ったお陰で、俺は一人になった。

 

 すかさず、ルリに話し掛ける。

「ルリ、遺跡の中から氷の錘か奇跡の雫を探して!」

「はい。よく分かりません」

 俺は床に膝から崩れ落ちた。


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