神殿に辿り着くまで
飛行船から降り、およそ十数分歩いた場所、そこには不毛の台地が広がっていた。
「ここが遺跡の入り口か」
と誰かが口にするや否や、異変が起きた。
遺跡の方からこちらに黒いものが群れを成して襲い掛かってきたのだ。
「うわ、あああ」
視界は一気に黒く染まり、何も見ることが出来ない。
呼吸さえもしづらくなり、地面に叩きつけられる。
「前に来た時と、モンスターのレベルが違う!」
雷針が叫んでいたが、その内その声も遠く聞こえなくなった。
みんな、それぞれはぐれてしまった。
しばらくして、モンスターの群れが通り過ぎた後、目を開けた久高はふと、足首を何かに掴まれた。
モンスターに掴まれたのかと思い、焦っていると、
「そこにいるのは、誰?」
という声がした。その声の方に視線を下げていくと、そこには由布梨がいた。
「由布梨、大丈夫か」
「いや、動けなくて……」
由布梨はモンスターに拘束され、手以外は自由に動かせなくなっていた。モンスターは蛇状で、地面に張り付いている由布梨の手足に絡みついていた。
早くその蛇のようなモンスターを打ちのめさないと、由布梨がパニックになるかもしれないと思い、久高は暗器を取り出した。
足に巻き付く蛇に向けて由布梨の肌を傷つけないように、素早く慎重に暗器を振り下ろす。しかし、蛇モンスターの弾力が予想以上で、暗器が跳ね返ってくる。
かなり苦労しながら、そのモンスターに対処しようとしている時、久高は気付いた。
「悪い! この体勢は不可抗力で」
まるで由布梨を地面に押し倒しているような姿勢になっていることに、久高は焦る。
「ひゃあ!」
すると、手首を這うモンスターの姿に由布梨が小さな悲鳴を口から漏らす。
「大丈夫だ、すぐに外す……」
「う、ん」
「怖いか?」
「大丈夫……でも」
「何だ」
「目、見てても良い……?」
由布梨が涙目で久高の目をじっと見る。
「信じてるから怖くない」
由布梨は自分に言い聞かせるように言った。
久高は由布梨に手かせのようにまとわりついているモンスターを、ようやく打ち砕いた。パラパラ、と音を立てながら、モンスターの体内から零れ落ちた歯車だ
「由布梨」
ほっとして気が抜けたような表情の由布梨に声を掛ける。
「あ、ありがとう」
「いや……」
久高は顔を伏せる。
信じている。
そんな言葉の美しさに響いている自分に驚きを隠せない。
戸惑いながらも他の仲間と合流するために、久高たちは歩き出す。
「ほら、いくぞ」
「あ、うん」
「――手、払った方が良い」
久高は由布梨の袖の砂埃で出来た汚れを指差す。
「どこ?」
「ここだって……」
やり取りがまどろっこしくなり、久高は由布梨の袖を左右に振って砂を払った。
「ねえ、ありがとう」
「――分かったって。それ、さっきも聞いたから、もういい」
歩いていると背後で由布梨の足音が止まったのに気付く。
「……どうした?」
「信じさせてくれて、ありがとう」
由布梨が笑った。
「はあ?!」
予想できなかった台詞の出現に、久高は目を開いて驚く。
「絶対に命を賭けるって久高に言うなって約束させたよね、さっき」
「おお」
「私ちゃんと久高が危険な時は、さっき私にしてくれたように助けるよ」
「……俺に危険な状況の時なんてあるか、バーカ。お前は……俺を助けなくていい。俺がお前を守ってやる」
久高はそう言い、由布梨の頭をくしゃりと撫でた。
「あっ」
由布梨が前方に目を止めて声を上げた。そこには、魔糸を鞭のようにしてモンスターを倒している風磨がいた。
「由布梨、無事で良かった。あんまり見られたくない場面だったけど」
風磨が魔糸で宙に八の字を描きながら、モンスターを撃ち落として言った。
「そんなこと言ってる場合か」
久高はそう言って、暗器でモンスターを倒すのを手伝った。
攻撃をするたびに、モンスターの体内から歯車が飛び出す。
そうして徐々に弱体化していくモンスターにとどめをさした。
「どうする、何か作戦でも立てる?」
風磨が訊いた。
「手あたり次第でいいんじゃないか」
「それでいっか。結局作戦立てても、途中でメチャクチャになっちゃいそうだし」
「ねぇ、あれって?」
由布梨が遠くを指差して訊いた。
由布梨が差した方向に視線を移動させていくと、そこには砂煙に包み込まれた荘厳な神殿が見えていた。




