表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/78

夢と運命の分岐[後編]

「蹴り飛ばせって……」

 俺が蹴人だからですか、なんて馬鹿なことを聞けるほど、余裕は無かった。意味が分からないのだ。もしこれが映画なら、あの氷の道を渡る途中に二人は命を落とす、だから渡ってはいけないのです、なんて言われたりすることがあると思う。

 しかし、いくらなんでもこの場合、トンチンカンすぎる。

 氷の道を渡ったら帰れます、だけど帰らないでください、って。

 俺は境界の壁の中の、氷の道を指差す。


「でも、帰れるんでしょう?」

 通販番組でよく見る、お高いんでしょう? と同じイントネーションで問いかけた。

「はい」

「ええ……」

 俺は困ってしまった。

「質問は受け付けます」

「はい、あの、何で今日帰らないでほしいんですか?」

「何で? 何でって、なんて言えばいいんだろう。あ、そうだ。決められた運命の通りに進むと、貴方振られます、なので……」

「はっ、はああ? そんな嘘、えっ、絶対今思いついて言っただけですよね? 取って付けたような理由。えっ、俺振られ……?」

 俺の心は揺れに揺れた。

 占い師の言い方は、あまり真剣なようではなく、おそらく本当の理由を隠しているだろうことはすぐに分かった。しかし、今朝の夢の内容も手伝って。いよいよ俺は振られるような気がしてくる。


「振られたくなかったら、運命を変えてください」

「ちょっと……」

 いきなり漫画みたいな設定になってくる。運命を変えるために躍起になる男って、そんなの、タイミングが遅いと思う。その宿命を負わせるのなら、この魔法世界にきてすぐじゃないと、何かおかしい。なんかおかしくない?

「それ、何で今言うんですか? 運命がどうとか、初対面の時に言うべき気がするんですけど」

「いや、だって昨日の夜気付いたんですよ。運命変えた方がいいな、って。こっちだって、毎日人の適職ばっか占わされててんやわんや、これならまだリーマン時代の方が楽って話だからな!」

 急に口調が変わって、占い師は言った。

「あ、ああっ?」

「おっと、失礼しました」

「待って。分かりましたよ。貴方は、俺達と同じ、向こうの世界から来た人でしょう。だってリーマンなんてこっちにないし。それで、本当は一緒に帰りたいんでしょう!? 由布梨と俺だけが帰ろうとしているのが気に食わなくて、帰るなって言ってるんじゃないですか」

「違います」

 俺の推理は占い師の一言できっぱりと否定された。

「あの氷の道って何人乗れますかね?」

「二人で限界でしょう」

「ほら、やっぱり定員オーバーで一緒に帰れないのが嫌なんじゃないですか」

「違います」

 あからさまに占い師はむすっとした。

「いや、でも……」

 それ以外に考えられない、と俺は食って掛かった。

 すると、

「この魔法世界に元からいた人間じゃないことは認めます。だけど、貴方たちと同じ世界の出身者でもありません」

 占い師が淡々と言った。

「じゃあ、境界世界出身?」

「いえ、貴方の知らない場所ですよ」

「じゃあ、どこなんですかね」

「……貴方は、世界が数えられるだけしかないと思ってるんですね」

「数えられる、だけ? 元の世界、境界世界、魔法世界、あと由布梨は花札の中に行ったらしいから、その世界も足して四つ。そうですね、数えられますけど」

 俺は自然と指を四つ立てていた。

 何だかその仕草が間抜けだな、と自分で思った。


「まぁ、いいでしょう。ただ、最低でもあと一つ足して頂かないと」

「はいはい、占い師さんの出身世界ですね」

 俺は素直に指をもう一つ立てて、五本指をぱあっと開いてみせた。これでいいんでしょう、と投げやりに笑って。

「……ええ」

「あの、今日帰っちゃいけないってことは、奇跡の雫とかを探しだして、それに頼ってくれってことですか? 俺と由布梨以外の人も、その方法なら一緒に帰ったりもできるから……? もっと視野を広げてみて、という?」

「あー……詳しい解釈は任せます。ただ、今日帰るのは止めといてくれませんかね」

 質問を受け付けると言ったくせに、急に面倒そうに占い師は言った。


「俺が振られるってのは、適当に言ってるんですよね?」

「さあ。でもまぁ、その程度で自信無くすようなら、遅かれ早かれ振られるんじゃないですかね」

 辛らつな言葉とは対照的に、占い師は楽しそうに笑った。

「え、それは、うわー……」

 俺は心をえぐられた。何て的確な言葉だろうと思った。

「それで、どうしますか」

「……俺、帰りません。運命を蹴り飛ばさせてもらいます。俺にとっては由布梨が一番だから」

 俺はじっと占い師を見据えて言った。

「まぁ、私は由布梨じゃないんで全然嬉しくないですけど」

 イラッとして俺は訊いた。

「結局、本当の理由って何ですか。俺に、違う運命を進んでほしい理由」

 しばらく占い師は意味深な間を置いてから、

「え、そっちの方が面白そうだから」

 と答えた。

 俺はがくっと肩を落とした。何なんだコイツ、というのが正直な感想だった。


「そうだ、一つだけ良いことを教えておきましょう」

「何ですか」

「貴方が由布梨と初めて言葉を交わしたときのことを、よく振り返っておくと良いですよ」

「へえ、そうなんですか?」

「始まりと終わりは、同じですから」

 占い師は真剣な顔つきで言った。

「確かに」

 俺の脳内には、山手線の線路図がばーんと思い浮かんでいた。


 占い師と別れた後、俺は再び境界の壁へと向かった。

 そして、ためらうこともなく、そこにある氷の道を、端から叩き落として、割った。

 宿屋に戻り、俺は遺跡への出発の時間まで、少し不思議な気持ちで過ごした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ