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欠けていた境界昔話

「朔真、どうしたの?」

 由布梨と色取が宿屋の方に戻ってくると、そこに朔真が立っていた。

「実は、欠けていた境界昔話を見つけたんだ」

「えっ、本当に」

 由布梨は前のめりに訊き返した。

「あぁ、それで、その話が二人が元の世界に帰れるヒントになるかもしれない。聞いて欲しい」

「じゃ、外で話すのも寒いですし、中に入って行きますか?」

 色取が訊いた。

「少しだけ、仕事に穴をあけてきてしまっているから、急いで話そう」

 三人とも宿屋の、色取の部屋にあがって、畳の上に座りこんだ。


「境界昔話は由布梨から聞いた?」

 朔真が色取に訊いた。

「はい、多分だいたいは」

「城の最奥の書庫を漁って、欠けていた昔話を見つけた。その昔話の内容は、由布梨たちの世界から来た男について、だ」

「それって……」

 もしかすると元の世界に帰るための方法、由布梨が境界世界で探し回り、欲しがった情報があるのでは、と期待を胸に抱いた。

 由布梨と色取は自然に目を合わせた。

 朔真が語った境界昔話はこんな内容だった。


 およそ千五百年前、由布梨たちの世界から境界世界へ来てしまった、銀絽(ぎんろ)という男がいた。

 何と銀絽は、紆余曲折あって境界世界で王にまで成り上がってしまう。

 そして銀絽は境界世界で、とある女性、咫独(あたどく)と恋に落ち、結婚をした。

 

 しかし数年後、幸せに暮らしていた銀絽と咫独に問題が起きた。

 銀絽が元の世界に残して来ていた昔の恋人、金鯱(きんこ)が、川にの流れに乗って、境界世界へ現れたのだ。

 金鯱はふとしたきっかけで境界の壁に足を踏み入れてしまったため、元の世界に帰りたい、と毎日むせび泣いた。

 そんな金鯱を可哀想に思った銀絽は、奇跡の雫を使って川を逆向きにして、一緒に元の世界に帰ろう、と密約してしまった。

 

 数日後、その約束が咫独にばれてしまう。

 怒り狂った咫独は、境界世界の城における金銀財宝を持ちだして出て行ってやることを決意した。真っ先に持ち出すと決めたものは、銀絽と金鯱が元の世界に戻るために必要になりそうな品だった。

 一つ目、奇跡の雫、これは雫を一滴垂らすだけで川が逆向きになってしまうので、咫独が持ち出した。

 二つ目、氷の錘、これを川に沈めると、川が凍ってしまい、その上を歩けるようになるので、咫独が持ちだした。

 三つめ、大量の歯車、薄い歯車を数百枚も重ねて川の底に沈めると、川の向きが逆になるので、咫独は頑張って持ち出した。

 他にも咫独は不死の妙薬を持ちだした。銀絽と金鯱が永遠の命を手に入れて、仲良く暮らすのが怖かったのだ。

 

 境界世界から出て行った咫独は、魔法世界の江瑠戸東に向かった。

 そこで女王として強靭な帝国を築き上げることに成功した。

 その帝国にある日、銀絽がやってきて、咫独に二人でやり直したいと言った。

 咫独は、愛の証として不死の妙薬を半分ずつ分けるのならよい、と銀絽に言った。

 逆心中――二人で死ぬのではなくて、二人で途方もなく長い年月を生きるという約束を交わしたのだ。

 そうしてもいいが、それなら全ての品を持って境界の城に帰ってこなくてはダメだ、と銀絽は言った。咫独は同意して、不死の妙薬の瓶に口を付けた。

 しかし、咫独が半分飲んだのを見て、銀絽は恐怖に駆られた。

 残り半分の不死の妙薬、それを飲もうとしない銀絽に対して咫独は再び怒り狂った。

 

 命からがら帝国から逃げ出した銀絽は、金鯱とともに安住の地に身をひそめた。

 しかしすぐに咫独見つけ出され、二人とも殺されてしまう。

 咫独は不死の命を抱いて、自らの帝国へと戻って行った。

 一方、境界世界では兎宮という男が王位についた。

 

 朔真が語ったのは、そこまで長い話ではなかった。

 しかし、由布梨と色取は途方もなく長い映画を見たような気分になった。

「そして今は、その帝国は遺跡と化しモンスターのアジトになっている。おそらく奇跡の雫も氷の(つむ)も持ち出されていないまま、そこにあるはずだ」

 朔真は締めくくった。

「それなら、モンスター討伐は、モンスターを一網打尽(いちもうだじん)に出来る上に、元の世界に戻るための品も手に入る……一石二鳥、ってことですよね」

 色取が言った。

「僕も手伝うから、上手くやろう」

「朔真、私たちに、何でこんなに親身になってくれるの?」

 由布梨には不思議だった。朔真にとって、由布梨たちが元の世界に帰っても、帰れなくても、あまり関係が無いような気がするのだ。


「それは……」朔真は言いよどむ。「何でだろうな、自分でもよく分からない。だけど、君たちを元の世界に帰らせることが出来たら、何かが変わる気がするんだ」

「何かが、変わる?」

「ただ、そんな気がするだけなんだけど」

 朔真はそう言い残し、仕事があるから、と足早に宿屋を去って行った。



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