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シャーベット橋は渡れない

 朔真は目を剥いて驚いた。

 境界の中に色取がいたからだ。不思議と、彼は真っ直ぐ立てないはずの川の上、つまり”水面”にぐらりぐらり、と大きく体を揺らしながら立っていた。

 水面はいつもと違い、氷がところどころに張り付いていて、川全体が透明な氷菓子のように見えていた。

 次の瞬間、色取は体勢を崩し、中途半端に凍ったその川へと落ちそうになった。

 朔真は彼の手を掴み、遷光速移動で流れの穏やかな上流の滝の方まで連れていった。

 滝の部分で境界の壁の部分は終わる。


「何をしていたんですか?」

 玉兎ごと出払っている城の前、洞穴の傍らの岩に腰かけて朔真は色取に問いかけた。

 境界内はゆっくり話せるような場所もそう多くはないので、岩の座りり心地が悪いことは、目をつむるほかないだろう。

 出来ればもう少しちゃんとした場所で話を聞いてあげたかったが、仕方ないな、と朔真は思った。

 流石に玉兎に許可を得ずに城の客間へ、色取を通すわけにもいかないだろう。

「俺、川を凍らせようと思ったんです」

 朔真の質問に色取が答えた。

「あぁなるほど」

 朔真は笑いを内包しながら言った。

「分かったんですか?」

 目を開く色取君に、

「分かるよ。向こうの、元の世界に変える方法を模索してるんだろ」

 と朔真は言った。


「そうです。それで蹴鞠を氷魔法に特化した物に作り直して、挑戦してみたんですけどシャーベット状になっただけでした……完全に凍らせるのは無謀なことだと思いますか?」

「絶対に無理とは僕は思わないけどね。とりあえず、凍らせるのは凄く骨が折れる作業だ

ということは確実だね」

「朔真さんは力を使えばあっちに行けるんですか?」

「難しい」朔真は控えめに微笑んだ。「壁の手前までは必死になれば行けるんだけど、その壁を超えようとすると力が足りない」

「風のせい?」

「川の向きに影響を受けて、壁の手前は強風が吹いている」

 朔真は言った。 

「確かに、風が凄いのはよく分かりました」

 顔を顰める色取に、

「大丈夫、僕も一緒に帰る方法を探してあげるから」

 朔真は言った。


「……ありがとうございます。あの朔真さんは由布梨のこと……?」

 色取が訊いた。

 朔真は左右に首を振る。

「それは違うよ」

 朔真は由布梨や色取を連れてきてしまったことに負い目を感じているだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 朔真の話を聞いていたのかいなかったのか、色取は訊いた。

「朔真さんから見て、俺って男として何点ですか?」

 朔真は真顔でそれを聞いてくる色取におかしそうに笑うと、

「満点」

 太鼓判を押してあげた。

 

 ――自信持て。格好良くて少し悔しくなるくらいだよ色取君。

 

 朔真は笑って、色取を境界の壁の外側まで、しっかりと送り届けてあげた。

 


 由布梨はまだ鳳凰の背に乗っていた。

 てっきり鳳凰が、本当に城の方まで行ってしまうつもりなのかと思っていたが、あっさりと由布梨の予想は裏切られた。

 驚いたことに、鳳凰は境界の壁を越えてもなお真っ直ぐ、つまり由布梨が生まれ育った元の世界の方角へと、ためらわずに突き進んで行ったのだ。


「話が違うじゃないですか!」

 佐月が言った。

 鳳凰は、一定方向にしか流れない川が作り出す強風に、押されながらも真っ直ぐ進んで行った。

 しかし限界はすぐに来た。

 由布梨のバイト現場の方にあった境界の壁に、辿り着くことは無く、鳳凰はべろんとひっくり返った。

 由布梨達は上下逆さまの状態になってしまった。

 並みのジェットコースターよりも、圧倒的な恐怖を感じられた。


「うわあああ」

 そのままの状態で、由布梨たちは魔法世界へと踵を返した。

 鳳凰は満足げに笑んで消え、由布梨たちは地面に座りこんだ。

 みんな、鳳凰の背に乗る前よりもずっと焦燥しきっているように見えた。

 かくいう由布梨も心臓がドキドキしっぱなしだった。

 もしかして、元の世界にこのまま帰ることになるのか、という緊張と、途中で鳳凰が力尽きるのではないかという不安がせめぎあっていたのだ。

 結局鳳凰はひっくり返り、風に押されて魔法世界へと逆行してしまったので、後者の予感が正しかったということになる。

 由布梨達はげっそりしながら解散した。


 そして由布梨は宿屋に戻って色取の帰りを待った。

 由布梨が部屋の前で障子戸を開いたまま待っていると、すぐに色取と出くわした。

「色取君!」

「ゆ、由布梨」

「今日、何してたの?」

「あー、ちょっと」

 色取は言いづらそうにしていた。

「境界の壁の中、言ったでしょ」

 由布梨は詰め寄った。何を隠しているのかが、どうしても気になった。

「何でそれ知ってるんだ!?」

 色取は分かりやすく驚いた。

「鳳凰の上から見てたから」

「その話も気になるけど……まぁいいや。俺さ風磨に作ってもらった氷属性に特化した鞠を持って、境界の川に行ってた」

「やっぱり、それはどうして?」

「川を凍らせようと思って、さ」

「凍らせる?」

「俺さ。この世界に来るとき、気絶してたから川見てなかったんだよ。初めて見たのは、由布梨を奪還しに城に行った時で」

「あぁ、そっか」

「その時思ったんだ、川凍らせればあっちに渡れるのかな、って……」

「そうだったんだ」

「だけど、思い付きだけじゃ言ってもしょうがないよなと思って、ある程度形にしてから言おうと思って黙ってた、ゴメン」

「それはいいけど……さっき、なんで一瞬で消えたの?」

「朔真さんが瞬間移動で城の近くまで連れてってくれて、そこで色々話したんだ」

「なに話したの?」

「朔真さんが手伝ってくれるって」

「へえ……?」

「由布梨、もし俺がもっと強くなって、どこまでも川を凍らせることが出来たら着いてきてくれるか?」

「……もし、もしだけど。あともう少し魔力があれば元の世界に帰れるのなら、アレルギーが少し辛くても、私魔法使って手伝うから、絶対に」

 由布梨がそう言うと、

「サンキュ」

 色取が歯を見せて笑った。



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