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手繰り寄せられると信じていたいのに

 色取が去った後、二人きりになると由布梨は風磨に言った。

「指輪、また作ってくれてありがとう。今度は指輪をほどかなくていいように、安全第一で気を付けます」

「いいよ、指輪なんていくつでも替えがきくし……」

「そう?」

 由布梨は少し考えたのちに言った。

「やっぱり、魔糸ってすごいんだね。あんなこと出来るなんて知らなかった」

「……凄いのは魔糸だけ?」

「いいえ、風磨もすごい。見直しちゃう」

「――ありがと……」

「ふふ」

「ねえこれは知ってるかな。魔糸は僕の意志で遠隔操作出来るんだよ」

「それでこの前も……」

「でも、こういう使い方は知らないでしょ」

 指に嵌まった指輪から銀色の糸が引き出され、ゆっくりその糸の先端が風磨の人差し指に繋がる。


「わっ」

 由布梨が糸の動きに驚いて、鼻先で手をひっくり返して繰り返し見ていると、ふいに風磨の手に捕まえられた。

「びっくりした」

「ごめん、僕はずっと心の準備してたからね」

 そう言いながら由布梨は風磨に指を一本ずつ絡められてしまう。

 きっちりと隙間なく繋がれた手同士が、包み込まれるように魔糸が這ってこそばゆい。

 糸は指輪から幾重も引き出され、二人の手は糸の中で熱を増してく。


「糸はこうやって、絡めとって離さない」

「くも、みたいだね」

 二人の間に漂う空気に戸惑い、そんな色気のない言葉を由布梨は口から発してしまう。

 しかし、風磨は気分を害した様子は一切見せず、

「由布梨、僕の罠にはまってくれるの?」

 と訊いた。

「え……」

「――抵抗しないと、食べられちゃうよ?」

「う、それは困る」

 由布梨はゆっくりと顔を逸らす。


(顔が近い……熱い……)


「分かった。困らせたくないから今はこれで」

 風磨が魔糸と一緒に指をゆっくり絡め直した。次いで風磨は由布梨におでこをくっ付けた。由布梨は緊張して目を開けられず、瞼閉じたままで、風磨の声に耳を傾けていた。

「ねぇ、由布梨。色取が好き?」

 その問いかけに、由布梨は頷く。

 すると、由布梨からゆっくりと風磨の額が離れていった。

「すごいよね、あいつ。元の世界から由布梨が好きなんだって叫んでた。……筋金入りだよね」

「う、うん」

 由布梨には返しに困って顔がこわばってしまう。


「色取と由布梨が想いあってることは知ってる。だけど、僕は由布梨と糸でつながった運命だって信じたい。駄目なのかな、もう。もう、諦める時期に来てるのかなあ」

 風磨が長い睫毛で縁取られた瞳を伏せて言った。

「あ、ありがとう。気持ちは嬉しいけど、その」

 由布梨は言いよどんだ。諦めないで、は絶対に言っちゃいけない言葉だと思うし、かといって諦めなよ、とも言えない。

「僕、言葉だけじゃ諦めないよ。どれだけ離れていようと糸を紡いで、由布梨を手繰り寄せようと努力する。それでも由布梨が振り向いてくれないなら、諦める」

 スパッと風磨は言った。

「努力、って?」

「それは内緒。手を打たれると困るし」

 風磨がそう答えた瞬間、入口に色取が立っているのが見えた。

「お迎えに上がっちゃいました」

「むかつくなあ、もう。ほら、帰った帰った。僕の前でいちゃつかれると面倒だから」

 風磨が由布梨と色取をぶっきらぼうな口調で追い出した。

「あはは、今日はありがとう。あと、ゴメン」

 色取が風磨に言った。

「謝られる覚えは別にないけど?」

「あー、急に頼んじゃってゴメン、みたいな」

「事前に手紙くれてたから急じゃない気がするけど」

「は、ははっ」

 色取がぎこちなく笑った。一体、色取は何に対して謝ろうとしたのか、由布梨には分からなかった。


「それじゃ、由布梨バイバイ」

 風磨が手を振った。

「うん、バイバイ」

「俺は?」

 色取が風磨に訊いた。

「色取はもっとバイバイ」

「ど、どういうこと!?」 

「嘘。……気を付けて帰ってね」

 風磨が笑った。

 

 由布梨たちは飛行船を使って、江瑠戸西へと戻っていった。


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