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魔法世界への帰還

 ぼろぼろの境界人を置いて、由布梨たちは帰ることになった。由布梨の心の中に渦巻く複雑な心境。境界の世界で、立派な城があっても人は大勢いない。あの魔法世界の賑わいと比べると、遥かに寂しい空間だろう。そこに、玉兎を置いていく。

 由布梨は何故か後ろ髪引かれる思いだった。

 由布梨は振り返らず、背を向けて城を去る。


「由布梨、いつもいきなりいなくなるよね」

 風磨が由布梨の前に立つと言った。

「風磨、もしかして心配して?」

 由布梨は目を開いて訊いた。

「そうだよ、悪い? ……あの時だってモンスターを出現させたことに責任何か感じる必要なかったのに、いなくなるし。まぁ、今回は不可抗力だから仕方ない……けど」

「ごめん、ありがと」

 由布梨がしおらしくいうと、風磨は由布梨の頭を撫でた。

 魔糸紡ぎ師として勉強したときは、一応目上の人だったけど、子ども扱いは止めてよね、といつもの調子なら言えたのだが、由布梨にはその言葉が出なかった。

 ただ、玉兎たちに対して何も言うことができない、そのもどかしさが苦しかった。由布梨は苦労して迎えに来てくれた仲間たちに、ありがとう、と重ね重ね言った。他に何も例の言葉が浮かばなかった。


 外に出ると、風磨が懐から糸玉を取り出して言った。

「道を作って帰ろう」

 糸玉から糸を引きだし、それで川の上に道をあっという間に形成した。

「あれ、景臣先生がいない」

 一緒に城の外に出てきていたはずだった先生の姿が見えなかった。

「先生……?」

 由布梨はキョロキョロと周りを見渡した。



 ようやく帰れるのか、と景臣は少しげっそりしながらも、由布梨を心配していた。

 傷ついた境界人達を見て、由布梨は泣きそうな顔をしていた。

 情がうつったのだろうか。しかし、由布梨は言わなかった。治してあげてほしい、なんて景臣は頼まれなかった。

 

 ――あいつの性格じゃ、まぁ絶対に言わねえだろうな。

 

 仲間たちが自分を助けるために来てくれたことを、絶対にないがしろにはしたくない。

 由布梨はそう思ってるはず、と景臣は推測した。

「ありがとう」

 由布梨はみんなに、その言葉を涙目でしきりに呟いた。

 その言葉も本音だろう。

 でも景臣には分かっていた。由布梨は、おそらくこの境界世界の人が、自業自得とはいえ、ボロボロになっているのを見ていられないのだろう、と。

 由布梨の複雑な胸中を察し、みんなが出払ったのを確認した後、景臣はこっそり境界人の元へと駆け寄っていった。


「何だ――?」

 戸惑う境界人たちに景臣は、

「こっちは引っ張り出されたのに出番なしで、回復魔法をここ、境界の中でもちゃんと使えるかっていうのが気になってたんだ。お前らは実験台だ。親切じゃねえ」

 と言った。

「……そうか」

「――すまない」


(ったく……まだ若いな、玉兎とか言う王は)


 景臣はそこに居る全員に、負傷の程度に応じて回復魔法を使ってやった。玉兎に対し、回復魔法を使ってやった時、景臣は気付いた。

「お前、身体ボロボロじゃねえか」

「そうだな。我は色取にコテンパンにされたぞ」

「違えよ、そっちじゃねえ」景臣が首を振ると言う。「内臓、悪くしてんなって話だよ」

「そんなことまで分かるのか」

 玉兎が目を見開いて驚いた。

「俺は魔法使いっていうより、どちらかといえば医者だ。で、何でこんな悪くなってんだよ?」

「知らんな」

「意外とストレス溜めてるんだな、お前。これからは気を付けろよ」

 景臣は玉兎の内臓の不調も回復魔法で治してやった。

「まさか、外傷以外も治してくれたのか?」

「言ったろ。親切じゃねえ、ただ境界人の性質に興味があっただけだ」

「そうか」

「由布梨への伝言あれば、聞いてやるけど?」

 景臣は訊いた。

「それでは嫌な思いをさせて悪かった、とだけ」

「それ、多分大丈夫じゃねえかな。おっと、俺はもう帰るぜ、じゃあな」

 ぽかんと口を開けている玉兎に背を向けて景臣は歩き出した。

 景臣は城の外に出て、由布梨たちと合流した。

 すでに外には行きと同じで、白い線路が整備された後だった。


「よし、さっさと帰るぞ」

「景臣先生、どこに行ってたんですか?」

「あぁ? 疲れて歩くスピードが遅くなってんだよ。ったく、こんな危険な仕事は最初で最後にするからな」

 そんな言葉で景臣は説明を濁した。


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