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色取のゆずれない勝負

「由布梨……?」

 敵が香水瓶のようなものを開いた後、通り過ぎた旋風によって、俺の手の中から由布梨がいなくなった。

 その後、久高と雷針もいなくなっていることに気付いた。

 みんな散り散りになってしまったのかと思ったが、柚葉と風磨と先生だけは、近くで見つけることが出来た。

 俺たちは風によって、ほとんど移動させられていないようだった。

 割れた水槽のすぐ横に俺はいた。


「ちょっとこっちに」

 柚葉と風磨と景臣先生を誘導して、狭い廊下に押し込む。

「事が終わるまでじっとしておいて下さい」

 と言った。

 三人とも大人しく頷いて見せた。

 ここは由布梨が割ったらしい水槽の破片が、床にごろごろと転がっている。

 そして、廊下から出て、元の場所に戻ると、目前にいたのは従者たちが玉兎と呼び従っていた人物だった。


「玉兎、由布梨はどこだ?」

 俺はきっと睨み付けて訊いた。

 さっき、風磨たちを隠そうとしていたのを黙認したところをみると、積極的に争うつもりはないように思えた。

 ただ、力づくで由布梨を奪い返そうとするのなら、相手になる、といったところだろうか。

「城のどこか。縛っても閉じ込めてもいない。そうせずとも、由布梨は逃げないだろうからな」

 玉兎は言った。

「分かった口聞くんじゃねえ!」

 俺は鞠を玉兎の頭上を狙って蹴りあげた。

 その瞬間、玉兎が腕を払う仕草をしようとした。予想が確信に変わった。

 玉兎は後ろに反って避けるようなことはしない。

 また刀で切り捨てる気だ。

 そして予想の通り、玉兎は刀を抜き一気に、火を吐く鞠を弾き返そうとした。

 その時、鞠は一瞬で玉兎の背後に回り込んだ。


「よっしゃ!」

「――ふん」

 玉兎は鼻を鳴らすと、後ろ手に刀を持ち替え、鞠を押し返した。

「まじか、後ろにも目があるタイプだ」

 鞠から一本引きだしておいた魔糸を引っ張って、鞠を手元に戻す。

「由布梨を諦める気になったか」

 玉兎は俺に訊いた。

「……諦めるわけないだろ、こっちは異世界にまで追いかけに来てんだぞ!」

 俺は手元の鞠に、衝撃で入ってしまった亀裂を見る。

「お前の事情など知らん」

 それもそうか、と思いながら亀裂に手を突っ込んで、ばりばりと魔糸を剥がしていく。

「何をするつもりだ」

「教えられないよ、それは……」

 床に幾重も魔糸が落ちて、鞠の中央にあった種子の部分が外れた。

 俺はその種子の部分を投げた。久高と雷針が敵と刃を交えた衝撃で穴が開いてしまった壁の外、庭の方へと。

 種子は庭の、こんもりと盛り上がった土の上に転がっていった。


 その時、風磨たちを押し込んだ廊下の方から、

「こんなの楽勝よー!」

 と柚葉の快活な声が聞こえる。


(どうやら柚葉がうまく敵をいなしてるらしいな)


 俺はほっと胸を撫で下ろした。

 すると、俺が油断しているように見えたのか、

「こないのならば、こちらからいくぞ」

 玉兎が刀を水平に持ち、斜に構えた体勢で俺を睨み付けた。

 俺は床に散った魔糸を拾い上げ、ぴしっと真っ直ぐに伸ばす。

 玉兎が目にも止まらぬ速さで、俺の前まで距離を詰めると、刀を振り下ろした。

 俺はそれを魔糸で受ける。刀身が緑の糸の中央にこすれた。

 すると、衝撃を受けた魔糸から魔法が発動し、緑の棘が雨となって玉兎を襲う。

 玉兎はそれを刀で軽やかに切り捨てる。

 相当な早さだったので、銀の刃の軌道がクロスマークになって脳裏に焼き付いた。


「早い!」

「防戦一方ではないか」

 玉兎に嫌味を言われる。

「今から攻めに切り替えるところだったんだ!」

 俺は重ねた青色の魔糸を鞭のように地面に叩きつけてから、振り上げる。

 すると糸は氷魔法を吐き出しながら加速して、玉兎へと弧を描いていく。

 糸とかち合った刃先に氷が張り付き、糸はそのまま氷の上にぐるりと巻き付いた。

 ぐっと糸をひっぱると、玉兎の刃先が下がった。

 好機、と思い隙を狙って相手の懐に一気に体重をかけて飛び込む。

 しかし、まるで大木のように玉兎は一歩も動かされる気配がない。


「くっそ……」

 懐から突き放され、よろよろと後ずさってしまう。

 その間に、玉兎は剣を壁にぶつけて氷を全て砕いた。

「由布梨を諦めるというのなら、命まで奪う気はない」

 玉兎が言った。

「話聞いてたのかよ。俺は世界を越えて由布梨に会いに来たんだ! お前に由布梨預けて帰ると思うなよ!」

「由布梨が心を許したわけがようやく分かったぞ」

 玉兎は納得したような表情を浮かべたが、すぐにそれを消して驚いた。

「――何だ?」

 俺と玉兎は同時に庭へと目をやった。


 土の上に、なにかが急速に芽を開いている。その芽は双葉を咲かせ、やがて花をつけ、実をつけた。その実は鞠だった。庭には大量に鞠の実がなって、風に揺れていた。

 俺はウサギのように機敏に動いて庭に出ると、その鞠を一個一個蹴っていった。的確に狙って。

 水槽が割れたことによって、床にできた水たまりをめがけて鞠を蹴る。

 魔法が溶け出した水たまりだ。

 ただの鞠はそこを通過し、魔法を纏って、カーブをみせながら跳ね上がっていく。

 狙い通り、鞠によって水から押し出された魔法が玉兎を襲う。


(これなら余裕ではいられないだろ……!)


 普通に魔法を召喚するよりもずっと、いとまなく火や氷や雷が敵の前に躍り出る。

 鞠は火の衣をまとったり、雷にコーティングされながら飛んだ。

 攻撃を刀で防ぎきれなかった玉兎がばたりと後ろに倒れ込んだ。

 俺はかなり体力を失ってしまった体を引き摺り、肩で息をしながら風磨たちのところまで戻る。


「色取、大丈夫?」

「平気だ。早く由布梨を探しに行こう……」

「き、きつかったらすぐに言ってね」

「回復魔法もあるぞ」

「うん、分かったよ。景臣先生、ありがとうございます……」

「おう」

「敵は? さっきいたみたいだけど」

 俺はきょろきょろと周りを見渡して柚葉に訊いた。

「ぜ、全然大丈夫だった。楽勝ね!」

「そっか、なら良かった」俺達は由布梨を探しに城の中を歩き出した。

「――さっきのは黙ってるの?」

「良いんだよ、いちいち全部言わないでも。変な奴に絡まれたって、説明しだすと手間かかりそうじゃねえか」

 風磨と景臣先生が小声で何かをしきりに話していた。俺はそれを、頭に疑問符を浮かべながらこっそり聞いていた。


(何の話してるんだろ……)


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