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衝撃の真実と出会う

「久しぶりだ。まさかここに由布梨が来ることになるとは全然予想がつかなかったな……」

 由布梨は朔真に対しぐっと距離を詰めて問いかける。

「石、石を私が貰って行ったの覚えてますか!?」

「あ、うん」

 朔真は頷いた。

 由布梨は懐を漁って石を取り出すと、

「この石からモンスターが出て来たんですよ!」

 この話を聞いている人がいないにもかかわらず小声で言った。

 朔真は目を開いて、

「本当に? まさか、まさかそんなことって……」

 しきりに呟きながら視線を泳がせていた。

「思い当たることがあるんですか?」

「――それ、境界昔話か」

 朔真がふと由布梨が手にしている本を見て言った。

 歯車が零れ落ちてきた事に気をとられ、棚に戻すのをすっかり忘れていた。


「そうです。境界世界の成り立ちと、あと川の流れを逆に出来るアイテムの話を草乃丞と佐月さんから聞いて……」

「ちょうどよかった。……俺が続きを引き継ごう。その石がどういうものか、その説明にもなる」

「お願いします」

 朔真は頷いて語りだす。


「二つの世界をつなげる境界の壁は人知を超えている。あの壁は……特に由布梨たちが生まれ育った世界の方にある壁は、未知の力を持っている。魔法かどうかさえ定かじゃないものだ」

「人知を超えている……」

「由布梨が元いた世界の方にある、あの境界の壁を超えると、全ての物は変換を受ける」

 由布梨はその変換という言葉が気にかかった。

 川のところで初めて朔真に会った時にも言われた言葉。そして占い師も、服が変換された、なんて口にしていた。

 やはり壁を越えた瞬間に、色々なことが変わってしまっていたようだ。

 魔法が使えるようになる、という能力的な部分も含めて。

 道理で勉強もせず、べらべらと異世界言葉を喋ることができたわけだ、と由布梨は納得した。


「変換によって、魔法を使えるようになるものもいれば、変わらないままの者もいる。そこに規則性は無い」

 朔真が言った。

「そう、だったんだ……」

「ここからは核心に入る。変換のもっと深い話だ」

 由布梨は朔真と目を合わせて頷いた。

「人間は変換で魔法使いになったり、別の才能を開花させることもある。……だが壁を透過したのが”生物以外の無機物”だった場合はどうなるのか……」

「どう、なるの?」

「――変換によって全て。モンスターと呼ばれる異形のものに変わる」

 由布梨は目を開いて驚いた。

 

 ――生物以外の無機物は全部、モンスターに?

 

 あながち柚葉が言っていた『モンスターは由布梨たちの世界から来てると思ってた』という認識が間違っていなかったことに由布梨はショックを受けた。

 人間がモンスター化されないだけかなりマシな法則に思えるが、由布梨達の世界から壁に侵入した何かが、モンスターになって川を渡り、そして魔法世界で迷惑をかけているのだ。


「何でそんなこと、境界の壁って何? 変換って意味わかんないよ……」

「由布梨、これは昔話だ。そこには整合性があるとは限らないし、理解が及ばないところもある」

「……ねぇ、人間以外って何?」

 冷静に話を進める朔真にたまらず訊くと、朔真は由布梨の前に手のひらを見せた。

「由布梨、ここからは現実の出来事だ。目を閉じて」

 どうして、と訊く由布梨に、すぐ分かるから、と朔真は返した。

 由布梨は目を閉じた。すると、その瞼の上にそっと朔真の手が置かれる。

 しばらくすると不思議なことに、境界の外の風景――由布梨のバイト先の発掘現場が見えてくるのだ。


「見える……ここが私の最後の……」

 バイト現場のもっと奥、マイスナー通路の上を一台の車が走っているのが見える。

「ゲートが開いている!?」

 あの場所はゲートの開かない、観賞用の道路ではなかったのだろうか。メンテナンスか何か、という可能性もあるが、一体何が起きているのだろうか。


「何をしてるの……」

 目を強く閉じると、より色濃く場面が見えてくる。

 通路を走っていた車は、通路の上に点々と何かを置き残して走って行った。

 そして、車が見えなくなった頃、通路は不可解な動きを見せた。

 境界の壁がある方向へ、ありえないほどに道路は傾き出し、上に乗っていた物を振り投げた。

 それは放物線を描いて、境界の壁に突入し、そして吸い込まれるようにその中へ入っていった。

 由布梨はその時、ようやくわかった。

 道路から投げ出されたものはゴミなのだ。

 由布梨達の生活から零れ落ちたがらくたの山。

 瞼の裏に見える景色――境界の壁を透過したがらくたは、一瞬で黒いモンスターへと次から次へと変わっていく。

 モンスターは川をざぶざぶと泳ぎ、対岸――魔法世界の入り口を目指していた。

 由布梨は朔真の手を掴んで降ろさせた。

 数回瞬きし、朔真をじっと見つめる。


「何て言ったらいいのか……」

 上手く言葉を紡げない由布梨に朔真が言った。

「石を、何も考えずに由布梨に持たせてしまったことを悔やんでいる」

「あれは、私が持っていくって言ったから」

「それでも、早く気付くべきだったんだ。――その石が、境界の壁の破片だって」

「破片?」由布梨は石をおそるおそる見る。「これは壁の一部なの?」

「おそらく。モンスターが出てきたと言っていたよね」

「そう、色取君の手紙が入って、それで」

 由布梨は自分で口にした言葉にハッとする。

 手紙は境界の壁の破片だというこの石に入り込み、そしてモンスターに変換されてしまった。

 だからあのモンスターは呼ぶのだ、由布梨、と。

 それが手紙に記してあった言葉だから。


「その石を早く手放した方がいい」

「そうだよね……」

 由布梨はこくこくと頷いてその言葉に同意した。

 一刻も早く、自分の身から、この境界の壁の破片を離したかった。

「俺が川にでも捨ててくるよ」

 朔真が複雑そうな表情で、由布梨から石を取った。

 由布梨は正直、ほっとした。川に落としておけばどうとでもなるだろう。

 由布梨はもう一つ、浮かんできた疑問を口にした。


「色取君の手紙には、由布梨へ、って書いてあったから石に変換されてモンスターは私の名前を呼んじゃった。……けど、境界の壁から出て来たモンスターが何体も、私の名を呼んだのはどうしてか、分かる?」

「それ、は……」

 朔真がためらいがちに告げる。

「由布梨の家族や友人が、いなくなった由布梨宛てに書いた手紙が、偶然境界の壁に入って、それで……」

「あぁ、あぁ」

 由布梨は腑に落ち、本と歯車を地面に落とすと、手で額を覆った。


「お母さん?」

 もしかすると、お母さんが自分を心配して書いた手紙を、境界の壁付近に置いたのかもしれない。

 もしかすると、お父さんかもしれない。友達の誰かかもしれない。

 自分の名前を呼ぶ不気味なモンスターは、全て愛の結果だったのかもしれない。

 由布梨は向こうの世界で私を心配しているであろう人たちに思いを馳せた。

 そうすると、固い枕で寝たときのように、頭の後ろがどんどん固まって上手く思考が出来なくなってくる気がした。


「奇跡の雫があればな……」

 そう呟く由布梨を、朔真は切なそうな表情で見つめていた。



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