ネックレスモンスターとの出会い
江瑠戸西に到着した由布梨は、飛行船乗り場から、景臣の家まで走った。
そして、景臣の家の前で、由布梨はビタっと立ち止まった。
そこには、色取が立って待っていたのだ。
「色取君、治ったの!」
「あぁ、由布梨。帰ってくるの早かったな」
由布梨はまず創作の地での出来事――風磨という少年に従事したこと、指定領域の勉強をしたので、また魔法使いに戻れるようになったことを説明した。その後、あの石のことを話した。
すると、その石を境界に置きに行こうと、色取も同意してくれた。
そして由布梨たちは境界の壁へと行った。
すると、タイミング悪く境界の壁からモンスターが出現していた。
「あー、まただ」
しかし、創作の地でモンスターと出くわしてしまった時ほど、衝撃はない。
周りも、モンスターを撃退する手練手管、というわけで安心感もある。
壁から出現したモンスターは少し奇妙だった。
モンスター全員が一つの紐のようなもので繋がれ、ネックレスのようになっていた。
そのモンスターネックレスは、ぐるぐる回転しながらこちらに飛んでくる。
「きゃー」
と鳴き声を上げながら。
未確認飛行物体もここまで来ちゃおしまいだなあ、と由布梨は肩をすくめた。
「テオウシ……」
由布梨が火系統の呪文を唱えようとしたところ、そのモンスターが連なったネックレスは、宙に浮きあがりながら、由布梨たちの方へ黒い稲妻を落とした。
「あああ!」
「うわああ!」
まさかそんな風に牙を剥かれるとは思わなかった。
モンスターの団体攻撃は初めての体験だった。
「頭伏せろ!」
久高の声が聞こえてきて、由布梨と色取が急いで身を伏せると、後方から暗器が飛んできた。その暗器は、ネックレスの一部と化したモンスターをぶち抜いた。
「やった!」
「まだまだ、何匹もいるぜ」
続けざまに他のモンスターも倒そうと、暗器を携えた久高に、モンスターネックレスは高速で回転しながら近付いた。
「やばい、やばい、やばい」
動く的に矢を射るのが至難の技であるように、動くモンスターに攻撃を与えるのは難しい。それが、しかも集団で回転行動をしているのだから、かなり退治には骨を折りそうだ。
久高は顔色一つ変えず、後退しながら暗器を繰り出してはモンスターの頭部にぶつけていた。
そのたびに、紐からモンスターが一体一体剥がれ落ち、地面に叩きつけられる。
「きゃー」「きゃー」
地面に倒れ込んだモンスターがのろのろ手足を動かしながら、上体を起こし、きょろきょろと目を動かす。そして、その視線が由布梨たちの誰かと合うと。
「きゃー!」
襲い掛かってくる。
こうなると、いつも通りの手順を踏める。
「テオウシ・バクタイカ!」
由布梨が呪文を唱え、モンスターの体内に範囲指定すると、モンスターが消滅する。
その横で色取が鞠を蹴っ飛ばす。
見事なコントロールで、モンスターの顎を突き上げ、モンスターは消滅した。
「よっしゃ、あと一体だ!」
色取の目を見て、それから彼の指先に視線を合わせる。
そこにはモンスターネックレスを構成していた紐に、たった一体取り残された寂しきモンスターが「きゃ」と言った。
久高がその紐をぐんと引っ張って、モンスターに顔を寄せると、
「覚悟しろよ」と言った。
その瞬間、モンスターは首を揺らし、
「由布梨……待ってる……ずっと」と呟いた。
「は……?」
久高が目を開いてあっけにとられる。
そのすきに、モンスターは口から稲妻を吐き出し、久高に攻撃する。
「ぐわっ」
胴体からくの字に曲がり、久高の体が地面に叩きつけられる。
「由布梨……」
「あああああ、まただ!」
由布梨は頭を抱え込んで叫んだ。
普段は大きな声なんてめったに発さないのだが、思わず叫んでいた。
「どうなってるんだよ、これ……」
「由布梨どうする……」
周りの誰もが、そのモンスターを倒そうとしない。
その場にいるみんなが明らかに由布梨の名を呼ぶモンスターにひるんでしまっている。
――私が殺らないといけないのかもしれない。
だけど、身体が動かない。脳裏をよぎる嫌な疑問がどうしても打ち消せないのだった。
「ねぇ、色取君」
「どうした!?」
「あのモンスター、まさか私の知り合いじゃないよね」
由布梨はとうとうその疑問を口にした。
なぜ、魔糸紡ぎの工房にいる時も、今この瞬間も、自分の名を呼ぶモンスターと出くわすのか、それは分からない。だけど、絶対に違うとは言い切れない可能性がある。
モンスターは私たちと同じ、境界の壁に迷い込んだ人間なのかもしれない。
「それは……」
色取は言いよどんだ。
次の瞬間、目前にすごい勢いで映り込んだ人影があった。
「えっ?」
その人影は、息をつく間もなくモンスターの首を取った。
「早い」
瞬殺だった。
「何手こずってんだか……」
その人物は、手の中からモンスターの首が消失するのを確認すると、呟いた。
「雷針、だっけ」
由布梨は記憶の糸を手繰り寄せる。確か、穀物代所を止める羽目になった根本的な原因の人が、今目の前にいる。
おそらく、由布梨たちがモンスターにまごついていたのを見て、助け船を出してくれたのだろう。由布梨は内心、かなりほっとしていた。
雷針でも何でもいい、この事態に終止符を打ってくれて、本当に助かった。
「あり、ありがとうございます」
由布梨は緊張した舌で礼を述べる。
すると、雷針は由布梨を睨み付けるように見て、
「――殺るか殺られるか、だろ。何ひるんでんだ、テメェ」
と言った。
「はい、これからは気を付け」
「待って。俺が殺るべきだった。次から気を付けるのは俺だ」
色取が由布梨の言葉を遮って言った。
モンスターは由布梨の名を呼んだ。由布梨が倒すのはやりづらいだろう、と色取が慮ってくれたようだ。
「知るかよ、勝手にしとけ」
雷針はそう言い放って背中を向けた。
「待って! ……ありがとうございました!」
「ふん」
雷針は、それっきり振り返らずに去っていった。
「大丈夫か?」
由布梨たちは久高に駆け寄る。
「――ちっ、油断したな」
久高が舌を打った。
腹部に、雷の攻撃を受けたからか脇のあたりが黒く焦げ付いていた。
由布梨は魔呪文本を取り出して、回復魔法を探した。
もしかして、今の自分ならできるかもしれない、と思ったのだ。
「景臣先生に見せた方が良いんじゃ……」
柚葉の言葉を制止して、由布梨は久高の脇に触れると呪文を唱える。
「レンガ・バクタエガ!」
指定範囲は、久高の体内にして魔法を発動させる。
「……? 痛みが消えた」
久高が目を開いて立ち上がった。
「良かった……」
ほっと胸をなでおろした次の瞬間、由布梨は膝から崩れ落ちた。
「由布梨!」
色取がさっと手を差し伸べて、由布梨の腰に手を回した。
(そうだ、回復魔法は体力消耗が激しいって先生言ってたんだ)
由布梨はそこで意識を手放した。




