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時計モンスターとの出会い


 色取から衝撃の告白を受け、由布梨はその後の記憶がなかった。

 あの後何と言って別れたのか、何を食べたかとか、何時に寝たのかとか、そういう類のことがすべて頭から抜け落ちているのだ。

 憧れの人から告げられた思いに対し、由布梨の中では純粋な嬉しさよりも安心が勝っていた。

 

 ――良かった、この世界で私は絶対的な味方を手に入れたんだ。

 

 由布梨は心底ほっとしていたのだった。

 私も色取君が好きだよ、付き合おう、という単純な展開にはならなかった。恋人になったわけでもなく、今までと同じ、元の世界に変える方法を一緒に模索していこうね、という約束で繋がっている仲だ。


 お昼時、モンスターがわらわら出た、と街中が騒然とする中、由布梨と色取は宿屋から走って出て来た。

 いつものように二人が微笑みを交わし合って、境界の壁の前に来た時。

 柚葉とばったり再会した。

「あ、由布梨来てたんだ」

「あ、うん……」


 話を続けられず、由布梨は境界の前のモンスターに視線を移す。

 境界の壁の前、出現したモンスターは(ぬえ)――(さる)の顔と(たぬき)の胴体を持つ物の怪――に似ていた。地面に手足をつけて歩いてくるが、胸元には大きな丸い時計がついていた。

 しかし、その時計には長針しかなく、一時間ごとの区切りを示している黒い目盛りを、どのモンスターもばらばらに指している。

 目盛りは十二個、つまり元の世界と時間の体制は同じなのである。


「……あのモンスターの針が指してる数、見てみろ」

 久高が言った。

「一時、二時、三時……あぁ、みんな違うんだね」

「その数に応じて攻撃を加えないと、倒せないんだ」


 単純に一時を指している時計を持つモンスターは一回、二時を指している時計を持つモンスターは二回攻撃で倒せるということらしい。

 由布梨と色取は不慣れなこともあって、一撃で倒せるモンスターを探して倒していくことにした。

 ぐるりと辺りを見回すと、柚葉が視界の端に映り込んだ。

 彼女が色取に告白して以来、由布梨は彼女にどうやって接したらいいのかが分からず、日に日に距離が開いていく気がしていた。


 ――私がもっと器用だったらよかったのに。


 由布梨は常々そんなことを考えていた。

 ふと、由布梨が柚葉を見つめる視線の先に、色取が挟まった。

「あれ、何時を指してるか見える?」

 色取君はモンスターを指差して由布梨に訊いた。

「えっと、一時だね」

「よっしゃ、俺行くわ」


 色取が顔の前でこぶしを握った。

 由布梨が頷くと、彼は膝で鞠を蹴り上げ、次いで足の甲を鞠の山吹色の部分にぶつけた。すると、空中に稲妻がほとばしり、一時のモンスターを貫いた。


「よっしゃ!」

 攻撃がクリーンヒットしたモンスターは、古時計の打つ音に似た音を鳴らしながら黒い煙のようになって宙へと消えた。

 私も続かなきゃ、と由布梨は思った。

 一時モンスターを目で捉えると、

「テオウシ・バクタイカ!」

 と魔呪文を握りしめて由布梨は唱えた。

 前と同じように火で攻撃を受けたモンスターは宙へと瞬時に消え去った。

「よし、じゃあ次あれは?」

 色取がまた別のモンスターを指差して訊いた。

「う~ん、文字が遠くて見えないなあ……」


 由布梨も色取も目を凝らして見ようとするのだが、少し距離が離れていて針が指している数字を読み取ることが出来なかった。とりあえず、攻撃をしてみればいいか、と由布梨は考え、再び呪文を唱えた。


「ロウエ・バクタイミ!」

 水の魔法攻撃、しかしそのモンスターは一向に倒れそうな気配がなかった。

「あれ、一時じゃないんだ……」

「十二時だな」

 久高が言った。

「十二時?」

「つまりは十二回の攻撃がないと、倒せない」

「えーっ……」


 てっきり、針が一番真上を指す時は関係ないのかと、由布梨は思っていた。十二時って零時と同じことだから、と脳が勝手に楽な方向に勘違いしていた。


「――おーい、順番に攻撃して早く終わらせようよ」

 弥一郎が由布梨たちをちょいちょいと手でこまねく。

 どういう作戦をするのかが分からず、首を傾げている間に他の面子も集まって来て、自然と縦に一列に並ぶ。弥一郎、佳代、色取、由布梨、柚葉。

 久高だけはその列に加わらなかった。

「これはまさか……」

 これから行われる作戦の全貌を、由布梨はなんとなく察した。

「行くよ!」

 弥一郎の声を皮切りに、列の先頭から順々にモンスターへの攻撃が始まる。攻撃を終えた人は最後尾に並ぶ。やはり、由布梨の予想した通りだった。

 

 由布梨はここに来て初めて、弥一郎と佳代の使う技を見た。

 花札のようなものから、魔物やら魔人やらを召喚して攻撃している。

 その横で、この列に混じらず一人で十二時モンスターに断続的に攻撃を加えている久高の手には、入れ代わり立ち代わり鋭利な武器が現れる。

 いわゆる、暗器使いと言うような立場らしい。魔法を使うとなると、一つ一つの魔法の間に隙が生じてしまうために、こうやって縦に並んで無駄をなくしているのだが、暗器は手から離れない限りずっと攻撃が行えるのが利点というところだろう。


「へぇえ……」

 感心していると後ろから肩を叩かれ、由布梨はぱっと振り返る。

「柚葉――」

「あの、この前のことで少し気まずいかもしれないんだけど……まだ友達でいてくれる?」

「もちろん、もちろん、いいに決まって……あぁ、ゴメン順番が!」


 由布梨は前へ向き直り、再び魔呪文を唱える。

 いつも通り、何もないところから現れた火がキラキラを纏って、モンスターにぶつかる。

 攻撃を確認すると由布梨は列の最後尾に回った。

 すると、その由布梨の後ろに攻撃を終えた柚葉が並ぶ。


「良かった、ずっと由布梨と距離が開いたままだったらどうしようって……」

「うん、私も……あぁゴメン、順番」 

 そして、何回かこの作業を繰り返したのち、何体かの十二時モンスターを倒すことが出来た。



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