087 放浪編27 決戦
ここに最大の決戦が幕を開ける。
はずだった。
「どうしてこうなった?」
話は少し戻り決戦前。5000対3200+アノイ要塞。
アノイ要塞の戦闘力を加えて若干有利という状況であるが、戦えばお互いに多大な犠牲を強いることになるという、まさに膠着状態。
プリンスは戦わずして勝つつもりだったようだ。
戦う気ならばステーションを参加させていたはずだが、晶羅が死んだと思っているプリンスはすっかり油断していた。
僕は専用艦で出撃するために戦術兵器統合制御システムをフル稼働させ戦場を把握しようとした。
その瞬間に湧き上がる悪寒、何かが逆ハックをかけて来ている。
僕はデータリンクを電脳空間として仮想画面に視覚化する。
迫り来る強大な力。ああ、これは戦艦に逆ハックされたのと同じパターンだ。
侵食弾で支配した回路を力尽くで奪い返されて遡られた。
つまり戦艦以上の高性能電脳の仕業。
思い当たるのは一つ。
「野良宇宙艦の巣か!」
僕は電脳空間をアバターで潜る。
敵の障壁をアバターの武装で撃つ。電脳空間はイメージの世界だ。
破壊のイメージが障壁を壊す。
追加の侵食弾でデータリンクを再支配していく。
敵の攻性防壁がビームのように降り注いでくる。
僕はGバレットのイメージでレールガンを撃つ。
敵の防壁が破壊され曇り空が晴れるように回廊が開く。
目の前には生体脳のイメージ。野良宇宙艦の巣の中枢だ。
突然頭にテレパシーのように言葉が届く。
『その力、汝は何者か?』
「僕? 僕は八重樫晶羅。高校生だ」
『何ゆえ我を侵食する』
「それは力が欲しいからかな?」
『汝はその資格があるのか?』
「それはどうなんだろう?」
『資格を示せ』
「んー。『提督コマンド、我に従え!』(適当)でいいかな?」
『おおお……。まさに正当なる後継者に間違いない。お待ちしておりました。貴方様に喜んで従おう!』
「え?」
『え?』
僕は野良宇宙艦の巣を従えたようだ。
『力が必要なのだろう?』
「そうだね。今ちょっとピンチかな?」
『ならば直ぐに馳せ参じよう!』
晶羅が逆ハックで動けないでいる間に決戦の前哨戦は動き始めていた。
『どうした獣人の諸君。私に従えば幸せが待っているぞ?』
その一言にラーテルがキレた。
『お前の「獣人」という単語には嘲りが含まれているんだよ!』
ラーテルは戦闘部族だ。例え相手が強大な敵でも食って掛かり一歩も引かない、それがラーテルだ。
無謀な戦いを挑み堂々と勝つ。それこそがラーテルだ。
今回もご多分に漏れずラーテル族は突貫した。
『バカな! なぜ戦う。アキラ亡き後戦う理由など無いだろ!』
『バカはお前だ! 俺達の矜持を踏みにじっておいて戦う理由が無いとは片腹痛いわ!』
プリンスが動揺する中、ラーテル率いる小領地混成軍1000艦が突っ込む。
脅しで展開していたプリンス軍5000は動けず混戦となった。
『お前ら、獣人の嫁がどうなってもいいのか!』
プリンスが焦って悪手を選ぶ。これに猫族犬族が反応する。
『『嫁を人質だとしか思わないから、お前には人が付いて来ないんだよ!!』』
グラウル領軍1000艦とカプリース領軍1000艦も突貫する。
晶羅を待つこと無く戦端は開いていた。
「晶羅、始まっちまったぞ!」
神澤社長から通信が入る。
僕は電脳世界から現実世界に引き戻される。
「社長、ごめん。取り込んでた」
僕は満を持して出撃する。
『『『『うぎゃー! なんだこれは!!』』』』
『助けて! 神様!!』
『この世の終わりだ……』
その時全艦隊からパニックの通信が入った。
騒然とする宇宙空間。
アノイ宙域に野良宇宙艦の巣が次元跳躍して来たのだ。
『来ちゃった♡』
『来ちゃった♡じゃねーよ!!』
僕は渾身のツッコミを入れた。
ワープアウトと同時に飛び出す数万の野良宇宙艦達。
僕は慌てて野良宇宙艦の識別を青に変えて戦術兵器統合制御システムを介してデータをアップデートする。
当然、プリンス艦隊にも識別信号赤として伝わったろう。
その数5万。一気に戦力比10倍である。
『僕の味方は撃つなよ?』
『任せておけ』
僕は野良宇宙艦に念押しする。敵味方識別信号が理解出来ればいいんだけど。
そして僕は次元通信でGOサインを出す。
亜空間側からアノイ宙域の次元跳躍門を閉めてロックしたのだ。
これでプリンスは逃げられなくなった。
(さあ、どうするプリンス?)
『もう決着は着いたと思うんだけど、降伏しないか? プリンス?』
僕は降伏を勧告した。
まあ、それに乗って来るようなプリンスでないことは理解している。
『な、アキラ! 生きていたのか!!』
『生きていたよ。あんたの罠はお見通しだったからね。それよりこれ、どうするつもり?』
『くっ。殺せ!』
『わかった。それで終わるならそうしよう』
僕は長砲身5cmレールガンでプリンス艦を狙う。
派手な装飾をあしらった専用艦なので直ぐにプリンス艦だとわかった。
僕はためらわずに引き金(脳波コントロールなので比喩です)を引いた。
Gバレットがプリンス艦へと一直線に飛んで行く。直撃。
ダメージはあるが撃沈ではない。
僕はもう一発Gバレットを撃ち込む。
その時、次元跳躍門が開き1艦の専用艦が突入して来た。
その艦はGバレットを発射、僕のGバレットに当て相殺した。
巨大なエネルギーのぶつかり合いで閃光が走る。
その光が消えた時、プリンス艦と謎の専用艦は姿を消していた。
追撃しようにもご丁寧に次元跳躍門は閉じられていた。
残存艦5000は降伏。鹵獲された。
うち有人艦は100。プリンス勢は思ったより人材が乏しかった。
最大の決戦だと思っていたのに思った以上にショボかった。
彼らの処遇は後日決めよう。
プリンスを逃したということは、戦いはまだ続くということ。
奴にはステーションがまだ残っている。
面倒くさい奴だ。
この時点でとっくに帰っていたはずの帝国正規軍艦隊を、物語上帰すことを忘れてました。
076で近々帰る予定であると加筆させていただきました。