086 放浪編26 謀略
「バカな奴だ。調査申請の内容が此方に漏れているとも知らずにノコノコ少数でやって来るとは。
此方が戦力を割かなくても、野良宇宙艦が勝手に始末してくれるとは有難いことだ」
ステーション某所でくつろぐプリンスは上機嫌だった。
目の上のたんこぶであるアキラを野良宇宙艦の巣で葬ることに成功したのだから。
アキラが得た調査許可の内容をハッキングし、野良宇宙艦の巣へは少数の艦しか行けないことを把握。
プリンスの息のかかった勢力にアキラを亜空間で待ち伏せさせていた。
そしてアキラが次元跳躍門を潜った後で次元跳躍門を閉めロックしてやったのだ。
アキラが巣にレールガンを撃ち込んだことも確認した。
そこは野良宇宙艦の巣だ。次元跳躍門を潜って逃げなければ、生きて帰れる訳がない。
プリンスは笑いが止まらなかった。
「あっけない最後だったな、アキラ。
散々罠にかけてやったのに、私に感謝するようなバカだったが悪運が強すぎた。
それさえ無ければ私も好きになれたのに。君の生まれがいけないのだよ」
プリンスの哄笑はいつまでも続いた。
プリンスは一息つくと時計を見た。
「もうこんな時間か。それでは私の下僕を返してもらいに行こうか」
プリンスは自分の専用艦に乗るとアノイ星系を目指した。
プリンスの専用艦は護衛となる5000の艦と共に次元跳躍門をくぐるとアノイ星系に出た。
アノイ要塞前には3000の獣人軍と200の地球軍が展開している。
一応皇子の公式訪問と称しているため、先制攻撃は仕掛けて来ない。
『皆さん、私、第12皇子のプリンスが帰ってまいりました。
撃たないでください。我々が戦う意味なんて無いんです。
偽皇子のアキラは討たれました。あなた方は偽皇子に騙されていたんです。
騙されていた獣人の方々、地球の方々、誤解は誰にでもあります。
騙した偽皇子が悪いのです。ですので今までの罪は問いません。
また共に助け合おうじゃないですか!』
プリンスは笑顔の仮面の下で悪い顔をしていた。
どうせ獣人共など権力に擦り寄る烏合の衆だ。
甘い言葉で誘えばこちらの権力になびいてくる。
これで獣人共も手の内に入り、地球人も良いように使える。
次は戦力を貸したバカな長兄でも攻めようか?
プリンスはトラタヌで、もう次の標的に意識を飛ばしていた。
「どうしました? 私はあなた方の姫を嫁にもらった縁戚ですよ? さあ私の力になりなさい」
プリンスはどこまでも身勝手だった。
ずっと差別用語だった獣人を差別用語のままに使う偽善者に、もう彼らが従うわけがないのに。
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僕は専用艦のCICで、戦術兵器統合制御システムのデータリンクが切れ、仮想画面がダウンするのを見ていた。
野良宇宙艦の巣に派遣した艦は、おびただしい数の野良宇宙艦に攻撃され撃沈されたようだ。
僕がいま居るのは事務所の専用艦格納庫だ。
専用艦のパイロットシートに座り、野良宇宙艦の巣に派遣した艦を、次元通信でデータリンクを繋げて遠隔操作していたのだ。
僕は鹵獲巡洋艦を改造して専用艦のダミー艦を造っていた。
この艦の特徴は長砲身5cmレールガンを装備して特殊弾を撃てるようにしてあることだった。
野良宇宙艦の巣はとても危険な場所だ。数万艦の野良宇宙艦が遊弋し巣を守っているのだ。
そんな危険な場所に、例え偵察でも有人艦を行かせられるわけがない。
しかも僕が野良宇宙艦の巣を調査するという情報は誰かさんの勢力に盗まれていた。
調査許可が少数の艦のみに制限されていることも筒抜けだった。
だから僕は広域通信機と戦術兵器統合制御システムを駆使してダミー艦を制御していたのだ。
当然僚艦も僕の専用艦を介して部下がデータリンクで遠隔操作していた汎用量産艦だ。
ダミー艦の艦隊は、この調査中に情報を盗んだ誰かさんの勢力に襲われた。
直接攻撃を受けると思っていたところ、次元跳躍門を閉じてロックされるという省エネ攻撃を受けた。
野良宇宙艦の巣に置き去りにされたダミー艦艦隊は、野良宇宙艦に袋叩きにあい撃沈された。
僕はその一部始終を仮想スクリーンで疑似体験していた。
「相変わらず小狡い。亜空間では戦闘が出来ないとはいえ、次元跳躍門から出て戦おうという気概はないのかね」
僕はそのセコさに苦笑した。
こちらは侵食弾を撃ち込むことが出来ただけでも作戦成功だ。
どうせ侵食弾を撃ってからは日数を空けるつもりだった。
人的被害がゼロだというのも上出来だ。
さて、僕を葬ったと勘違いした主犯が、ほいほいと出て来てくれるだろうか?
奴のことだ、僕を排除さえすれば安心して前に出てくるに違いない。
目立ちたがりのええかっこしい。そんな奴がこの晴れ舞台を逃すはずがないだろう。
僕は全軍に通信を送る。
『迎撃準備。プリンスを迎え撃つぞ!』
ここに最大の決戦が幕を開ける。
とりあえず、毎日更新を自分のペースでやれるだけやっていきます。
失敗したら加筆修正を入れて改善していきたいと思います。
なので更新は0:00固定ではなく、0:00~7:00の間というアバウトな感じでやっていこうと思います。無理なら無理と1日おくかもしれません。
今後ともよろしくお願いします。