071 放浪編11 嫁二人
「なんで馬車? なんで嫁? なんで二人? 僕の意志は?」
「嫁入りには馬車を使うというのが貴族の慣習になっています。
有能な艦の主には貴族がこぞって娘を嫁がせ取り込もうとするものです。
帝国では一夫多妻が認められています。
貴族からの婚姻の申し出は強引に行われるのが普通です」
僕の呟きに、いつのまにか付いて来ていたサポートAIの有機端末である愛さんが真面目に答える。
「愛さん、断わる方法は?」
なぜか愛さんが目を逸らす。
そこは禁則事項と言うところじゃないのか?
とりあえず事務所内で話を聞くしかないようだ。
猫族と犬族の仲が悪すぎて別々の部屋に待機してもらう。
「何が何だかわからないので説明してもらえないかな?」
会議室の一室に待機してもらっていたカプリース男爵令嬢キャロライナ嬢に話を聞く。
「私はカプリース男爵家の娘として晶羅さんと縁を結ぶため嫁いで参りました♡」
「カプリース男爵家と友好を結ぶのであれば、喜んで結ぼう。だが嫁は必要ないよ」
僕がそう言うとキャロライナ嬢の表情が曇る。今にも泣きそうな顔になる。
「私では、お嫌なのですか?」
嫌なわけじゃない。キャロライナ嬢は身長160cm16歳。
白い髪を肩でそろえ、頭には白い毛の三角の猫耳が生えている。
スタイルはスレンダーだが、しなやかな体躯で出る所は出ている紛れも無い美少女だ。
「嫌じゃないけど。僕はまだ15歳だし」
「なら帝国では成人ですから結婚出来ます」
そうなのか。断わる口実が一つ無くなった。
「うーん。でもまだ結婚は考えてないんだ。僕達まだ会ったばかりだし」
「それならば、子種だけでもいただきたいのです♡」
「はいぃ?」
「優れた艦の持ち主は優れたDNAの持ち主なのです。
その優れたDNAを一族にもたらすのは貴族の娘の責務です。
未婚のシングルマザーでもかまわないので子種だけはください♡」
キャロライナ嬢がとんでもないことを言い出す。
ここまで譲歩されて断ったら猫族を敵に回すことになるのかな?
「考えさせてくれ……」
僕は退室して隣の会議室へ向かった。
こちらはグラウル男爵令嬢のマリアンナ嬢だ。
マリアンナ嬢は身長155cm15歳。
茶色いふわふわの髪を背中まで伸ばし、頭の両脇に大きな耳が垂れている。
スタイルは痩せているでもなく太っているでもない、まさに理想的な体躯で胸が大きい紛れも無い美少女だ。
「私はグラウル男爵家の娘として晶羅さんと永久に結ばれに参りました♡」
「グラウル男爵家と友好を結ぶのであれば、喜んで結ぼう。だが嫁は必要ないよ」
僕がそう言うとマリアンナ嬢の表情が曇る。今にも泣きそうな顔になる。
「私では、お嫌なのですか?」
「嫌じゃないけど。僕はまだ15歳だし」
「なら帝国では成人ですから結婚出来ます」
やっぱり駄目か。
「でもまだ結婚は考えてないんだ。僕達まだ会ったばかりだし」
「それならば……」
マリアンナ嬢は口ごもり、意を決したように続けた。
「子種だけでもください……♡
未婚のシングルマザーでもかまわないので子種をください♡」
完全にデジャヴだった。
さて困ったぞ。どっちか片方を受け入れるのは論外だ。片方の種族と険悪になる。
かと言って結婚するなんて、若い僕にはこれっぽっちも頭にない。
だがアノイ要塞のニ大勢力に囲まれた状況で、そのニ大勢力からの嫁を断わる事が出来るのだろうか?
ここは日本人お得意のあれで行くしか無いか。
僕は二人を呼び出して告げた。
「猫族と犬族が険悪な状況で二人を嫁にするわけにはいかないよ。
嫁とその実家同士が争うのを僕は耐えられないからね。
かと言ってどちらかを選んで肩入れすることは出来ないだろ?
なので嫁候補として受け入れて、今後に期待することにしたいんだ。
二人共仲良くやって欲しい。
仲良く出来ないならば、どちらも受け入れられないよ。僕の結論は以上だ」
「「わかりました……」」
僕と嫁候補二人は共同生活をすることになった。
僕の住居は1DKなので改築することになる。
倉庫部分に部屋を拡張して個室を増やす。
嫁入り前の娘さんと同じ部屋で寝るわけにはいかないからね。
それまでしばらく待ってもらう。
これぞ日本人伝統技、結論の先延ばしである。
どうせ猫族と犬族が仲良くなんてできっこない。
二人は馬車で帰って行った。
その時、顔をひきつらせながら見送った僕の前に、もう一台の馬車が走り込んで来た。
「もう一人来やがった……」