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067 放浪編7 PK

 社長の艦が撃たれた。

撃ったのは自称自治会(NPO)代表の佐藤だ。

彼は不祥事により自宅軟禁状態になっていたが、逃げて戦場に出て来たのだ。

彼の乗艦は僕と模擬戦をした、あの雷鳴艦隊の戦艦だった。

異常な活動家に戦艦。最悪の組み合わせだった。


 僕は次元格納庫から外部兵装の長砲身40cmレールガンを取り出し、艦の右腕に装備する。

長砲身40cmレールガンは全長100mほどの巨大兵器だ。

本来なら戦艦に装備される兵器のため、僕の全長250mの専用艦では持て余す。

そのため宇宙空間に浮遊させて、ほんの一部を腕で掴む形で装備する。

エネルギーは腕の手首から伝導チューブが出ていてレールガン本体に接続する。

発射の反動はレールガン本体の重力アンカーで吸収されるので、ひ弱な細い腕でも保持出来るのだ。


 射撃補正装置の長距離射撃モードを起動し佐藤艦を狙う。

向こうがエネルギーをチャージする間に、僕の専用艦がエネルギーを急速チャージする。

外部反応炉の有り余る出力のおかげだ。

撃たれる前に撃たなければならない。

だが僕は人殺しの忌避感で撃つことを躊躇してしまった。

佐藤艦が先にレールガンを発射する。

躊躇した一瞬で先手を取られてしまった。

この弾が誰かを傷つけることになってしまうかもしれない。

僕は気持ちを切り替えてレールガンを発射する。


 佐藤艦のレールガンの弾を僕のレールガンの弾が撃ち落とす。

口径は僕の専用艦の方が上のようだ。

エネルギーを再チャージする。

外部反応炉による急速チャージで僕の発射準備が整う。

今度は躊躇しない。精密射撃モードで撃つ!


 僕のレールガンの弾が佐藤艦のレールガンを直撃する。

電磁誘導路のレールが破壊され、佐藤艦は大口径レールガンが発射出来なくなる。

僕はこの隙にアノイ要塞に通信を繋ぐ。


『コマンダー・サンダース! レッド()認定でいいか? 撃沈許可を求む!』


 返事がない。


『グハハ! 死ね! 死ね! 死ねー!!』


 狂った叫びと共に佐藤艦から無差別に大口径ビームが発射される。

地球人の艦どころか小領地混成軍の艦にまで被害が出る。

幸い射程外なので威力が減衰して大きな被害にはなっていない。


『コマンダー!!』

『待たせたな。反逆罪。味方に対する攻撃。有罪だ。撃沈を許可する。やれるのか?』

『やるさ』


 コマンダー・サンダースから撃沈許可が出る。

佐藤艦は急速に近づいて来る。

そのうちビーム砲の射程内に入る僚艦が出てくるだろう。

早いうちに叩かなければならない。

今有効打を与えられる砲を持っているのは僕ぐらいのものだ。

僕は長砲身40cmレールガンの照準を合わせる。

(人殺しか……。まあ敵艦にも人が乗っていたかもしれないから今更か……)

レールガンを撃つ。

その巨大な弾は佐藤艦に向かって行き、武装の集中している上部構造物を破壊した。

(いや、当てるつもりだったんだよ? 無意識の結果こうなってしまった)


「僕ってメンタル弱いな……。ふぁんねる! エネルギー分配器をざっくりやって来い!」


 ふぁんねるに装備した対艦刀を有意義に使うことにした。

日本人に殺人はハードルが高いんだと身に沁みた。



 だが、そんな甘い結果にはならなかった。

アノイ要塞からの追っ手が無数のレールガンを佐藤艦に撃ち込む。

佐藤艦は爆散した。

佐藤は地球人の戦死者第一号になった。

神澤社長は……。

専用艦が破壊され、緊急収容でCICから転送されたため怪我もなく無事だった。


「無事じゃねーよ! 俺の専用艦が大破してるじゃないか!」


 神澤艦はドック入りとなった。

当分戦うことは出来ないし、修理費が大変なことになりそうだった。


 防衛戦はカプリース領軍とグラウル領軍が競うように迎撃し、小領地混成軍の所にはほとんど敵艦が来なかった。

カプリース領軍とグラウル領軍はかなり勇猛なようだ。

佐藤のPKのせいで艦を損傷した傭兵さんが大暴れしたぐらいが地球軍の戦果だった。

それでも全く稼げなかったそうだ。



*************************************



 アノイ要塞初の迎撃任務も終わり、僕達は事務所に戻っていた。


「社長、大赤字だね」

「あの似非活動家め! 絶対損害賠償を請求してやる!」

「いや、佐藤は死んだってよ。アノイ要塞側で転送しなかったら艦と運命を共にして終了だよ」

「そうか……。おのれ最後まで迷惑かけやがって!」


 怒り続ける社長を避けて。僕はサポートAIの有機端末である愛さんに質問をする。


「社長の艦の修理費って、どのぐらいかかると思う?」

「500m級のポケット戦艦が大破なので、安くとも30億Gぐらいだと思われます」

「うわ。地球の戦闘機よりは安いが、個人で払える額じゃねーだろ!」


 それを聞いた神澤社長が焦る。


「社長、落ち着いて。愛さん、何か安くする方法は?」

「ドックよりも時間がかかりますが、破損した部品を集めて融合すれば、艦の修復力で()()はずです」

「僕の所に部品はある。艦をドックに置いておくだけでも凄いお金がかかるよ。早く格納庫に引き上げよう」

「そうだな。融合で()()()。稼ぎに出れないのは困るが……」

「それならRIOを貸そうか? 安くしとくよ」

「おまえシビアだな……」

「部品代を言わないだけ優しいでしょ?」

「何その漫才……」


 綾姫(あやめ)が呆れている。

僕が社長に大盤振る舞いしているのは、高校にも帝国にも借金を完済しており、元々お金に執着していたわけではないからだ。

僕は地球では姉貴以外に親しい人間がいない。

だから親しく接してくれる他人とは極端に仲良くしたいという欲求が激しい。

まあ両親死亡後にあったバッシングの後遺症みたいなもんだ。

地球から離れたこの地で一生帰れないとしたら、僕と縁のある人間は社長とメンバーとマネージャーだけだ。

僕にとっていま大切な人は、この人達なのだ。ぼっちは嫌なんだな。

僕はまた愛さんと知的遊びを始める。


「ところで愛さん、敵って何なんだ?」

「帝国の領土を侵す敵性勢力です」

「人なの?」

「それは禁則事項になっており、お答え出来ません」

「(え? これも?)じゃあ、敵艦の仕様が帝国と互換性があるのはなぜ?」

「それは禁則事項になっており、お答え出来ません」

「(まあそうなるか)融合って何なの?」

「艦がDNAを取得し成長する現象です」

「(え? 何それ?)その取得するDNAって?」

「艦は搭乗者のDNAにより様々な装備を得ることが出来ます。

外部から持ち込んだ装備のDNAを取得することでも同様の成長が見られます。それが融合です」

「つまり敵艦には搭乗者のDNAがあるってことだね」

「はい。そのとおりです」

「ふーん(おいおい、遠回しにDNAを持っている何かが乗っていることを認めたぞ)」


 やっぱり僕は知らないうちに知的生命体を殺しているのかもしれない。

そういえば次元格納庫に入れた損傷艦からは生物は分離されなかったな。

もしかすると帝国と同等の乗組員救助装置があるのかもしれない。

不明なのは鹵獲後直ぐにステーションに持って行かれた艦のみか。

これは愛さんに聞いても絶対に答えてもらえないな。

「地球人に殺人は~」の件を「日本人に殺人は~」に修正しました。

地球人には殺人を厭わない民族性の人達もいるんですよね……。


転移前までは、あまり親しいとも思えない社長に大盤振る舞いをしている理由を加筆しました。

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