065 放浪編5 共同戦線1
遅れてすみません。
三人称の習作短編を書いていたらノッてしまって本編に影響してしまいました。
063のコマンダー・サンダースの行動を少し修正しました。
以前の描写だと証拠もなく動く脳筋に見えてしまうので……。
僕達がアノイ要塞に到着してからというもの、僕は毎日事務所に入り浸っていた。
ブラッシュリップス艦隊関係者で纏まった区画を便宜してもらったので、自宅から徒歩2分で事務所に来れるという便利な立地だからだ。
緊急出動があった場合に事務所の地下から格納庫に行った方が速いという理由もある。
メンバーもちょくちょく顔を出すので、ひとりぼっちより人と触れ合いたいという悲しい理由もあるが……。
ちなみにぼっち好きの美優は呼ばないと来ない。
呼ばないとご飯も食べないから積極的に呼んでいるぐらいだ。
まあ、そんな毎日を退屈に過ごしている事務所に、サポートAIの有機端末である愛さんが住み込み始めた。
僕は様々な事を質問して退屈しのぎをしている。
「愛さん、どうして僕達と帝国の人達は直接会話が出来るの?」
「実は直接会話はしていません。帝国人の一部が翻訳機を装備しているため、そのサポートで会話しているように見えているだけです。
翻訳機により帝国人には地球人が帝国標準語を話しているように聞こえます。
また帝国人が話した帝国標準語は声が放たれる先から翻訳されて相手に聞こえます」
「つまり翻訳機を持っていない人とは会話出来ないということ?」
「はい、帝国人は、その支配領に至るまで帝国標準語を話しています。それを翻訳機で地球語に変換しているので、翻訳機がなければ会話不能です」
「地球語って。僕達は日本人だから日本語だよね? もしかしてアメリカ人なら英語になっているの?」
「その通りです。我々帝国が地球人と接触してから200年以上が経っています。その間に地球の主要言語は翻訳可能になっています。
ちなみに私はいま日本語を話しています」
「そういえば、先日の供述調書は日本語だったよ? あれも翻訳されて見えているの?」
「あれは日本語の書類です。書類に別の内容を映すと欺瞞行為が可能なので、証拠物として通用しなくなりますから」
「ふーん。そうなんだ」
愛さんは、このような当たり障りの無いことは余すところ無く教えてくれる。
だが、ちょっと政治的な話になるとこうなる。
「帝国って、どのぐらいの戦力を持っているの?」
「それは禁則事項になっており、お答え出来ません」
「じゃあ帝国って、どのぐらいの領土を持っているの?」
「それは禁則事項になっており、お答え出来ません」
「そうなんだ。悪かったね。また変なことを聞くかもしれないから許してね」
「問題ありません。答えられないだけですので」
答えられない事は答えられない。
最近このレッドラインがどこにあるのかを探るのが楽しくなっている僕だった。
「帝国って帝政なんだよね? 皇帝が存在するってことでいいの?」
「はい、皇帝陛下があらせられます」
「(まあ、これぐらいは当たり前だからな)すると皇位の継承とか面倒なことにならないの?」
「それは禁則事項になっており、お答え出来ません」
「(駄目か)じゃあ皇位継承権を持っている皇子っているんでしょ?」
「はい、皇位継承権を持つ皇子がいらっしゃいます」
「(これならいいのか)何人いるんだい?」
「最近1人増えて16人いらっしゃいます」
「ふーん。世継ぎが生まれたんだ」
「いいえ、皇位継承の権利者が最近現れたということです」
「(なんだそれ?)皇位継承の権利って何をどうやって得られるの?」
「それは禁則事項になっており、お答え出来ません」
「じゃあ、地球行政府のプリンスって皇子なの?」
「それは禁則事項になっており、お答え出来ません」
「ふーん(突っ込みすぎたか)」
まあまあ突っ込んだ話が聞けたぞ。
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コマンダー・サンダースより呼び出しがあった。
リアル・プレイを一緒に戦ってくれる人達を集めて欲しいとのことだった。
神澤社長が182人の地球人(残り7人は僕達だ)に参加の有無を確認し、参加者は行政府に集まるように案内をした。
ちなみにブラッシュリップス関係者で参加するのは社長と僕と行政府に借金のある綾姫の3人だ。
自称自治会? 知らんがな。
参加表明は141人。傭兵の人達が74人とリアル・プレイ経験者の6人艦隊が7、ヴァーチャル・プレイ組の5人艦隊が5だった。
個人参加より艦隊参加の方がハードルが低かったのだろう。
後で聞いたら不参加の穴を埋めるように再編して6人艦隊と5人艦隊にまとめたんだそうだ。
それに僕達3人を含めて合計144人。
僕達は行政府へ向かった。
行政府に着くと大会議室に通された。
僕達は思い思いに(主に艦隊単位で)纏まって所在なげに立つ。
そこへ騒がしい連中がやって来た。
あの自称自治会の連中だ。
「俺達を呼びつけてなんだって言うんだ!」
(いや、呼んでないって)
佐藤がギャーギャー煩いが無視しておく。
「皆さん集まったかな?」
正面の演壇にコマンダー・サンダースと3人の士官が現れた。
おそらく3領軍の指揮官だろう。
「今日は実戦で一緒に戦うことになる3軍のトップと顔合わせをしようと思ってな」
コマンダー・サンダースが全員の顔をゆっくり見て回る。
そして3軍のトップを紹介する。
「まず向かって左から、カプリース領軍司令のノアだ」
ノアは猫族。黒髪だからノアールのノアで覚えよう。
「続いて中央が、小領地混成軍のジョンだ」
ジョンはケモミミだけど何人かよくわからないな。
身元不明のジョン・スミスで覚えよう。
「右が、グラウル領軍司令のハンター」
ハンターは犬族。猟犬でハンターかな。直接猟犬なんて言ったら怒られるな。
「地球人は小領地混成軍の指揮下に入ってもらう」
その時バカが叫んだ。
「俺達に獣人の下に入れと言うのか!」
佐藤だ。一瞬で空気が凍る。獣人が蔑称だって聞いてないのかよ!
そうだった。奴は愛さんと話してないんだった。
「黙れ佐藤! お前は不祥事で何の代表にもなれない約束で保釈された身だ。今から刑に服するか!」
神澤社長が佐藤を一喝する。お約束のスキル「威圧」を使っている。
佐藤が黙ったところで神澤社長が謝罪する。
「申し訳ありません。あいつは犯罪者で、このような場所に来て発言して良いような者ではありません。
侮辱の言葉、地球人として恥ずかしく思い、お詫び申し上げます」
「こやつのことは俺が良くわかっている。地球人の謝罪を受け入れよう。これは地球人による差別発言ではない。犯罪者の暴走だ。それでいいな」
コマンダー・サンダースの言葉に3人の領軍司令は頷き謝罪を受け入れた。
佐藤は警備兵に両腕を固められると大会議室から引きずり出されて行った。
「さて、邪魔が入ったが仕切り直そう。
地球人の所属は小領地混成軍だ。その中の地球軍ということになる。
一応ジョンが上官になるが、指揮権は地球軍が独立して持っていると思って貰って構わない。
今後、敵勢力と戦闘になった際に助成していただきたい。
我々は退席するが、しばらくジョンと今後の事を詰めておいてくれ」
コマンダー・サンダース、ハンター、しばらく空けてノアが退室した。
犬族と猫族が仲が悪いというのは本当のようだ。
「ここからの話は全員でしなくてもいいよね?」
僕の発言にみんなが同意する。
「それなら誰が代表して話すと言うんだ?」
神澤社長の発言に僕達全員が神澤社長を指差す。
「俺?」
「うん。全員一致で決まり」
「ったく。しょうがねーな」
細かいことは神澤社長に任せて僕は事務所に帰った。
書類の翻訳に関する記述を追加しました。