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064 放浪編4 地球人難民の今後

 神澤社長となぜか僕が行政府に呼ばれた。

アノイ要塞司令コマンダー・サンダースの代表執務室に通される。


「よく来てくれた。さあ掛けてくれ」


 いつものだみ声でコマンダー・サンダースが着席を勧める。


「今日来てもらったのは他でもない。地球人難民のこれからのことを相談したいと思ってな」


 コマンダー・サンダースの言葉に僕も神澤社長も首をかしげる。


「私は地球人の代表でもなんでもない、一介のビジネスマンにすぎませんが?」

「僕もただの高校生だぞ」

「ハハハ、またまた」


 何を誤解しているんだろうか?

コマンダー・サンダースが切り出す。


「難民として支援を受け続けるだけの生活も、そろそろ飽きて来ただろう?

今後は地球奪還も視野に入れて戦っていかなければならない。

そのためにも、そろそろ装備の充実や自由になる金を得るために戦いに出る気はないかね?」

「強制か?」


 神澤社長の目が光る。


「いや、任意だ。難民としての生活で満足ならば、それでもいい。ただリアル・プレイ希望者が居れば支援するつもりだ」


 コマンダー・サンダースがSFO専門用語を使ったことに驚く。

リアル・プレイとは敵勢力との直接戦闘を意味する。

逆に仮想空間で行われる模擬戦をバーチャル・プレイと言う。


「それなら聞いてみよう。その前に、この星系のことをレクチャーしてくれる人材を派遣して欲しい。返事はその後だ」

「そうだな。闇雲に戦えと言うより現状を知ってもらった方が近道かもしれないな。わかった。人を派遣しよう」

「なら女性でお願いします!」


 僕のナイスアシストに神澤社長は密かに親指を立ててくれた。



************************************



 SFOプレイヤーには2種類の人がいる。

仮想空間での艦隊戦ゲーム、所謂(いわゆる)模擬戦を楽しむヴァーチャル・プレイヤーと、実戦で戦いお金を稼ぎたいリアル・プレイヤーだ。

前者の戦場は仮想空間で怪我や生死に影響はない。

後者の戦場はリアル空間で文字通りの命がけの戦場だ。

僕も何気なく戦場に出てしまっていたが、現実感もなくゲームの延長という感覚だった。

だがそこには確実に死の現実が潜んでいる。

それを難民になってから改めて認識することになった。


 今回、アノイ行政府からリアル・プレイヤーに対して、お仕事をしないかというお誘いがあったということだ。

神澤社長は我々のグループに情報を回し、興味のある人を事務所の大会議室に集めていた。

集まったのは187人中40人ほど。自称自治会? 知らんがな。

興味がある個人、とりあえず情報が欲しかった人、空気を読んで艦隊の代表1人で来た人などなど。


「お集まりいただき感謝します。今回はアノイ行政府より依頼のあった仕事の件の説明と、アノイ要塞を取り巻く現状のレクチャーを目的として集まっていただきました。講師はアノイ行政府から派遣された……お名前なんでしたっけ?」

「私はアノイ行政府より派遣されたサポートAIの有機端末です。名前はありません」

「それは困ったな。うーん、AIだから愛さんでいいかな? LOVEの愛ね」

「社長、それ安直。他人のこと言えないけどさ……」


 僕はRIOの命名を思い出して顔を赤くした。


「登録しました。これより固有名をアイと認識します」

「あ、登録しちゃったみたいだ……」


 まず愛さんより仕事の件が話された。


「アノイ行政府では、地球と同様に敵勢力と戦っていただける艦船(ふね)を募集しております。

条件は地球と全く同じです。一定の支援があり、回収物の権利、税金等の取り決めも同じです。

それにより現在制限されている商業区への出入りも自由になります。収益で存分に経済活動を行ってください」

「おおーっ」

「なお、参加しないからと言って見捨てることはありません。参加不参加の隔て無く全員そのまま難民として支援させていただきます」


 酒を制限されていた荒くれ者から歓声があがる。商業区の飲み屋に繰り出したいのだろう。

彼らはステーションに住み込んでいたリアル・プレイヤーだ。

所謂(いわゆる)バリバリの傭兵だな。彼らは率先して参加するだろう。

愛さんが続ける。


模擬戦(ヴァーチャル・プレイ)中心でご存知無い方もおられるかもしれないので説明いたします。

緊急転送という救済手段があり、艦が致命的な損傷を受けるとプレイヤー(ゲーマー)の身は転送で保護されます。

100%安全ではありませんが、直接CICに損傷を受けなければほぼ100%助かります。

我々帝国はプレイヤーの方の命を再優先に考えています」

「え? そうなの? 知らないで戦っていた僕っていったい……」


 うん、僕が知らないことは読者さんにも話せないんだな。

(はっ! 読者さんって何?)


「次に、この惑星アノイの位置付けをご説明いたします。

帝国中心部より離れた辺境の惑星で、地球と同様の所謂(いわゆる)最前線です。

次元転移門ゲートを介して地球の隣の星系になります。

これは物理的な隣ではありません。物理距離では光学観測も不能な星系です。

同じ銀河かどうかも定かではありません。

なぜこのような事になっているかというと、次元跳躍門(ゲート)には繋がり易い固有の場所があるとだけ覚えておいてください」

「今、地球はどうなっているんだ?」


 傭兵(リアル・プレイヤー)のおっちゃんが質問する。


「プリンス様が上げられた情報ですので、これは未確認情報扱いです。

次元跳躍門(ゲート)は繋がっているので偵察艦が強行偵察を試みましたが、全て撃沈されているそうです。

おそらく地球圏は敵の手に落ちたと思われるとのことです。

帝国は地球奪還作戦を計画しています。しかし時間がかかってしまいます。

あなた方地球人はそれまで戦力を増強し蓄え奪還作戦に備えてください」

「地球の人達はどのように扱われているんだ?」


 若い艦隊リーダーが質問する。

僕も思った。侵略軍だとしたら地球人がどう扱われるかわかったもんじゃない。


「われわれ帝国も敵勢力の目的意図を正確に把握しているわけではありません。

ですが、過去に奪還した惑星の前例を見ますと楽観視は出来ないものがあります」

「具体的には?」

(え、それ聞く? 濁したってことは察しろってことでしょ?)

「行方不明者が出ています。自主的か強制的か、生きているのか亡くなっているのかは不明です」

「くっ! 俺は戦うぞ!」


 おそらく地球に家族を残しているんだろう。そりゃ心配になって当然だ。

聞かないでいられないのも理解できる。

だけどそれで焦って戦場に出るというのもいかがなものか。


「戦闘の頻度はどのぐらいだ? 敵が攻めてきて迎撃するというパターンで良いのか?」

「敵勢力の攻撃頻度や艦隊規模は地球よりは少ないと思います。

また近隣星系が襲われている所へ援護に向かうという任務もあります。

援護は任意のクエスト扱いになりますので、参加不参加はご自身でお決めください」

「つまり次元跳躍に時間のかからない戦場がいくつかあるということだな」


 傭兵のおっちゃんが納得顔で頷く。

彼らは稼ぎたいから戦場が多い方がいいのだろう。


「戦場に出るのは地球人とアノイ人か?」

「アノイ人という人種は存在しません。少数の調査団と帝国領よりアノイに駐留している軍隊がいるだけです。

駐留軍はその出身領地により3軍に分かれます。

カプリース領より猫族軍、グラウル領より犬族軍、その他小領地混成軍の3軍です。

一つ注意です。ケモミミの方々を獣人と呼んではいけません。蔑称になります」

「3軍は協調的なのか?」

「犬族軍と猫族軍は仲が悪いです。巻き込まれないように注意してください」


 しまった。僕らブラッシュリップス関係者は犬族寄り確定だ。

コマンダー・サンダースと近すぎる。猫族が面倒くさくありませんように。

猫族のミーナは良い人だったから、派閥の論理だけで争いたくはないな。


「一応、説明すべき所は説明出来たと思いますが、ご質問はありますか?」


 愛さんが僕達を見回し質問を促す。今のところ質問は無いようだ。


「私は、()()に常駐しますので、ご質問のある方はお気軽にお越しください」

「え? 事務所(ここ)に?」

「はい」


 愛さんが事務所に住み着いた。

2018年5月24日一部改稿しました。

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