063 放浪編3 NPO?
本日2話目です。
前話は用語解説・宇宙戦艦装備編です。
読んでいただくと不明点が少し解消されます。
アノイ要塞に来てから20日が経つ。
帝国からの配給で生きる毎日だが、地球人区画に変化が起きた。
活動的な人達が自治組織を作ったらしい。
勝手にやってくれと放って置いたら、本当に勝手に事を進めていた。
勝手に地球人代表になって勝手に食料配給を手伝っていた。
システマチックに動いていたところに余計な手が入ったおかげで最近配給が毎回遅れている。
彼らはNPOを自称しているらしい。
『ピンポーン♪』
僕達が事務所に集まっていると、突然事務所のインターフォンが鳴らされた。
「はい、何でしょうか?」
一守さんがインターフォンのカメラ映像を覗き込み返事をする。
『自治会の者ですが、折り入ってご相談があって伺いました』
「はい? どうぞ」
一守さんが自称自治会員他を事務所に入れてしまう。
社長室に集まっていた僕達の所へ30後半の男がズカズカと入って来た。
インターフォンの画像に映っていた人当たりが良かった人を押しのけてだ。
「自治会長の佐藤だ。避難生活で皆疲れている。ここは芸能人の君達に慰問をしてもらおうと思ってやって来た」
なんだか上から目線で嫌な感じだ。
「それは仕事の契約ということでしょうか?」
「はぁ? みんなのためにボランティアに決まってるだろ。ステージで一曲歌えばいいんだよ」
神澤社長が眉間に皺を寄せて聞くと、佐藤は当たり前だと言わんばかりに吐き捨てた。
「私達はプロです。金銭の発生しない仕事は責任を持てませんし、いたしません」
「おい! 我々難民に対してふざけるなよ!」
(出た! 難民様様だ!)
難民様様とは難民という立場を手に入れたことで、自分達は偉いと思い込み何でも要求が通ると、常軌を逸した要求をするようになる困った人達のことだ。
難民だからと何でも強請って、あまつさえ他者の権利を踏みにじってはならないのだ。
他の真っ当な方々の迷惑になる恥さらしな連中だ。
「私どもも難民ですが? そのようなお話ならお引き取りください」
神澤社長が威圧のスキルを使う。
(え? 社長、そんなこと出来るの?)
「くっ……。覚えてろよ!」
自称自治会長はテンプレの捨て台詞を吐いて手下と共に去って行った。
「なんだったのあれ?」
「さあな。少なくとも関わってはいけない連中だ」
僕達だって言い方によっては協力したかもしれないのにね。
その後、僕達の所への配給が止まった。
まさか、あの食料備蓄が今頃役に立つとは思わなかった。
「さて、売られた喧嘩は買うんでしょ?」
「当たり前だ! 配給を止めるなんて帝国の仕業ではない。アノイ要塞の行政府に乗り込むぞ!」
神澤社長がキレていた。
行政府へ向かう社長に僕も付いて行った。
「我々への配給が横領されている。横領しているのは行政府なのか伺いに来た。トップと合わせてもらおう」
アノイ行政府塔に着くと神澤社長は行政府のトップとの面会を要求した。
「少々お待ちください!」
イヌミミの受付嬢が上司に連絡を入れる。
「お会いするそうです。案内が来ますのでお待ちください」
受付嬢さんは神澤社長の剣幕を恐れてイヌミミを伏せて言った。
案内が来るまで針のむしろだろう。
しばらく待つと軍服の兵士が現れた。
神澤社長と僕は拘束されるのかと身構えた。
だが彼は武器も何も持っておらず、そのまま代表執務室まで案内してくれた。
兵士が代表執務室のドアをノックする。
「入れ!」
だみ声に近いしゃがれた声が入室を促す。
「面会者二名をお連れしました」
「ん、ご苦労」
兵士は直立不動で報告すると踵を返して去って行った。
目の前の執務机には軍服の高級将校が座っていた。
彼が立ち上がり握手を求めて来る。
「このアノイ要塞司令のコマンダー・サンダースだ。何があったか教えてくれ」
コマンダー・サンダースはブルドッグ系の犬型宇宙人だった。
(惜しい! 中佐じゃなく大佐ならばw)
「とりあえず、そこへ座れ」
僕達は応接セットのソファーを勧められた。
「今回お伺いしたのは我々への配給が止まった理由を知りたいがためです」
「地球人への配給が止まっているのか?」
「おそらく全員ではなく一部の人間だけだと思われます」
「自治会か」
コマンダー・サンダースにも心当たりがあるようだ。
「私と利害がぶつかった途端でしたから、おそらく……」
「うーーん。胡散臭いとは思っていたんだが、やっぱりか」
「そもそも、私どもは自治会への所属を承認しておりません。彼らを代表だとも認めていません」
「なんだと! それは申請書類に虚偽があったということか! ゆるせん」
コマンダー・サンダースが供述調書を作成する。
社長と僕に内容確認を求めサインを要求する。
内容は自治会への所属を表明していないこと、佐藤氏の代表就任を認めた覚えがないこと、それに間違いがないというものだった。
神澤社長をチラリと見ると頷いて返してくれた。
サインしても良いという合図だ。
神澤社長、続けて僕と供述調書にサインをする。
「ふむ、間違いないな」
コマンダー・サンダースが、いつのまにか申請書類を手にしていた。
それは僕達が佐藤の代表就任を認めたという申請書類だった。
コマンダー・サンダースは、そのサインを目の前の供述調書のサインと見比べていた。
それにより明らかな虚偽文書であると確定したわけだ。
「申し訳なかった。地球人のサインは我々には見慣れぬもので、真偽の判定が疎かになっていたようだ」
コマンダー・サンダースは深々と頭を下げた。
だが、その目にはメラメラと燃え上がる怒りの炎が宿っていた。
当然そのターゲットは自治会だ。
あれよあれよとう間に、憲兵が集められ自治会に家宅捜索が入った。
自治会長達中心人物10人は捕縛され余罪が調べられていった。
佐藤は地球人全員の承諾書を偽造、勝手に地球人代表になっていた。
他にも自分達の手間賃として配給物を抜いていたらしい。
非営利組織が手間賃?
彼らのような偽物が、どれだけ本物の方達の活動を妨害するのか考えて欲しいものだ。
志の低い奴らが安易にNPOを詐称しないでもらいたい。
これを知った人達が怒り地球人区画は勢力が二分された。
地球人の総数は256人。そのうち187人が離脱した。
というか所属していたことすら知らなかったので元に戻った。
不思議なことにまだ自治会に所属したい人がいるようだ。もしかして優遇されてた?
当然僕達は反自治会派だ。
配給も彼らの手から取り戻しスムーズに対応してくれる行政府に委ねた。
僕達はとりあえずの普通の生活と強力な知り合いを得た。
佐藤ら10人は微罪のため厳重注意のうえ責任ある立場への就任が禁止された。
69人の何にも関われない自称自治組織が残った。
この件が後に訳の分からない事態を招くことになった。
コマンダー・サンダースの家宅捜索開始が短絡的すぎるため、証拠を押さえてから出動したという描写を加えました。
昨今のヘイトスピーチ問題に鑑み自称自治会が偽NPOであることを強調する文を加筆しました。
けして本物の方々を叩く目的ではないことをここに記します。