061 放浪編2 惑星アノイ
ほんの一瞬だけ日間宇宙〔SF〕ランキング1位になりました。
これも皆様のご支持の賜物です。ありがとうございました。
亜空間の旅は外を見れるわけでもないので退屈なものだった。
僕達ブラッシュリップスメンバーは専用艦を降りて事務所に集まっていた。
こんな状況では模擬戦をやっている場合じゃないからね。
幸いなことに内部の転送ポートは稼働していたため集まることが出来た。
腕輪の転移機能はダウンしている。
まあ、転移先の地球が遥か次元の彼方なわけだ。
下手に稼働していて次元の間に取り残されても嫌だしむしろ好都合だった。
艦隊内通信は復旧している。亜空間は関係ないようだ。
やっぱり通信を妨害していたのはステーション側だ。なんのつもりなんだろう。
僕達、といってもブラッシュリップスメンバーに神澤社長とマネージャーの一守さんを含めた7人なんだけどね。
その僕達は社長室に集まっている。
「次元跳躍門を抜けた先で何があるかわからないから、僕達はなるべく一緒に行動した方がいい」
「だな」「そうよね」「そだねー」「ん」「そうね」「はい」
僕が切り出すとみんなが頷いてくれた。
「おそらくステーションは修理で帝国中心部に行くだろう。俺達はたぶん途中で降ろされる」
「僕もそうだと思う。持ち出せるものは船倉にしまっておいたほうがいい。大物は僕の専用格納庫まで運べば専用艦の次元格納庫に入れられるよ。僕も倉庫の中身は全て移しておいた」
神澤社長と僕に続けて、一守さんが不安げに言う。
「食料供給は安心していいって言われたけど、少し備蓄した方がいいかもしれないと思うんです」
「確かに。行政府を全面的に信用しない方がいいかもな。保険として確保しておこう」
社長命令で保存食が調達されることになった。
取り越し苦労になったらなったでいいし。
ただ過剰に確保するとパニックを誘発する。そこは気をつけるべきだ。
諸々の作業をしていると随分と時間が潰せた。
作業を終え僕達が事務所でまったりとしていると、また次元跳躍の違和感がした。
どうやら次元跳躍門を出たらしい。
ステーション内は密室なので、外の情報が全くない。
格納庫のハッチも開かないし、行政府の情報だけが頼りだ。
『行政府のプリンスです』
艦内放送が始まった。
僕達は艦を離れていたため腕輪から音声が流れている。
「あ、腕輪から仮想スクリーンが立ち上がって映像が出た」
綾姫の言葉に腕輪を見ると仮想スクリーンが立ち上がり、白い軍服のプリンスが映っている。
『惑星アノイに到着しました。皆様にはアノイ要塞へ移動していただきます。
要塞という名前ですが、ステーションの同型艦です。
そのアノイ要塞に地球人区画が設けられます。
そこへ皆様には移っていただくことになります。
惑星アノイは帝国直轄領の惑星で、地上には帝国からの僅かな植民者しか住んでいません。
基本的にはアノイ要塞の人員が、この星系のほぼ全ての住人です』
『アノイ要塞の地球人区画とこのステーションを、直通出来るように繋げますので、引っ越しをお願いします。
引っ越し期間は1週間を予定しております。
引っ越しが終了するまで、ステーションは動きませんので御安心ください。
住居と格納庫の割り振りは、艦隊単位で纏まれるように便宜を図りますのでご相談ください。
腕輪のデータをアノイ要塞の電脳に渡しましたので、腕輪による申請その他が機能しております。
残念ながら転移は使用出来ませんが、各種情報も上げておりますので閲覧ください』
『地球の方々の立場は所謂難民になります。帝国も援助を惜しみません。
引っ越し完了後、行政府の者とステーションは修理のために帝国本星に移動します。
必ず戻って来ます。その時は一緒に地球を奪還しましょう』
プリンスがグッと拳を握って放送が終わった。
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僕達はブラッシュリップス艦隊+事務所で住居と格納庫を確保した。
神澤プロモーション・アノイ支所と僕達の住居で大き目の区画がもらえた。
アノイ要塞に住所が出来たら、後の荷物は宇宙黒猫さんが運んでくれた。
まさか、こんな場所にまで宇宙黒猫さんがいるとは思わなかった。
作業員さんがネコミミ宇宙人だったのはもっと驚いた。
アノイ要塞はケモミミ率が高いらしい。
ちなみに宇宙密林さんも頼んでみたら即日配達された。
あとは宇宙ピザでも……。やりすぎでした。来ませんでした。
引っ越しも滞り無く済み、いよいよ各自の専用艦をアノイ要塞に移すことになった。
僕はステーションの専用格納庫へ行き、専用艦のCICに入りパイロットシートに座る。
管制塔とコンタクトを取ると外部通信が回復していて発進許可が出た。
ハッチを開け専用艦を前進させる。
続けて戦術兵器統合制御システムでRIOにデータリンクを繋げてコントロールし発進させる。
管制官から細かくコースの指示が出た。口調が強い。
『発進したらその場で直ぐに反転。ステーションの下を通ってアノイ要塞に向かえ』
なんだかステーションの被害を見せたくないようだ。
僕は次元格納庫からふぁんねるをこっそり出してステルスモードで移動させる。
ふぁんねるの目でステーションを見てやろう。
これは怪しげな行動を取るプリンスに対する悪戯心なのかもしれない。
僕は管制官の指示通りに専用艦をゆっくり動かす。
その間にふぁんねるを操ってステーション上面に出す。
「ん? どこを破損したんだ? まさかこんな完璧な応急修理が出来るのか?」
疑問を持ちつつも見る所は見たのでふぁんねるを帰還させる。
ふぁんねるが干渉域内に入ると直ぐに次元格納庫にしまう。
そのまま何食わぬ顔でアノイ要塞の格納庫に入った。
「宇宙人のことだ。外観ぐらいは簡単に直せる技術があるんだろう。
"十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない"らしいからね」
僕は疑問を無理やり納得させて、みんなと合流した。
このことをみんなに相談しておけば良かったと後悔したのはずっと後のことだった。
今度の格納庫は艦隊で格納するため巨大な格納庫となっている。
僕らの事務所関係は本人達の専用艦+RIOで合計8艦を格納する。
格納庫は円柱形で左舷を壁の方に向けて艦を泊める。
そこへチューブが繋がり乗り降りすることになる。
ただ、壁の全周を使っても場所が足りない。
そのため中央から桟橋が柱のように出ていて、そこにも停泊するようになっている。
社長のポケット戦艦はそっちに泊まってもらった。
広さは1km級戦艦が各バースに泊められるぐらいある。
もし今後艦が成長して巨大戦艦になっても泊められる広さを与えられたということだ。
新しい住処としては最高だろう。地球に帰れない以外は……。
2018年5月24日加筆改稿しました。