051 アイドル編27 分配
いわゆる説明回です。
鹵獲戦艦と専用艦をドック入りさせた後、綾姫と事務所で会うことにした。
専用艦のドック入りの話を社長ともしないといけないからね。
事務所につき社長室を目指す。
「やあ、待っていたよ。晶羅ちゃん」
ドアがオープンになっている社長室に入ると神澤社長が抱きつこうとしてくる。
僕は咄嗟に避ける。
一応、話はしたいとアポはとっていたけど、なんでこんなノリなのかわからない。
「戦艦を鹵獲したんだって?」
神澤社長が椅子に腰掛けながら言う。目が¥マークになっている。
おそらく前回艦載機を手に入れたことで、やる気を出しているのだろう。
僕もソファーに腰掛けてから直ぐに断わる。
「鹵獲したけど、やらんぞ。借金返済が第一だからな」
「何かあったら相談にのるからな。 行政府との交渉は、この俺にまかせておけ」
「いや、交渉の末に全部持って行かれたら赤字だから……」
神澤社長のプッシュに僕は腰が引けながらお断りをする。
そもそも、そのために神澤社長と話そうとしていたわけではない。
「実は、今後のアイドル活動に問題が発生したんで相談しに来たんだ」
僕のその一言に神澤社長の表情が曇る。
「何があったんだ」
一瞬で社長が優秀なビジネスマンモードになった。
僕もそこは真剣に事情を話す。
「僕の専用艦が損傷してドック入りした。アイドル活動に使うことが出来ない」
神澤社長はその言葉に椅子に深く腰掛け身体を預け、安堵のため息を漏らす。
「それなら大丈夫だ。専用艦が存在する限り、模擬戦はデータで参加出来る。なんのための仮想空間だ」
「そうだった。仮想空間の便利さを忘れてた!」
僕は目から鱗が落ちた気分だった。
真剣な話も終わり僕と神澤社長は雑談モードに入った。
「今回、3艦も鹵獲したんだって?」
「戦艦とステルス艦は電脳をダメにしてしまったから半値以下だろうな」
「そりゃ残念だな」
ナーブクラックのことは神澤社長には濁しておく。
「巡洋艦をエネルギー分配器の無力化で鹵獲したんだ。こいつは丸々売却できる。これの売上で僕は借金完済だと思う」
「すると今後はアイドル活動に専念するつもりか?」
「いや、綾姫の借金返済までは艦隊を組んだ責任として付き合うよ。僕は文字通りプロゲーマーとして金を稼ぐ」
「俺も綾姫にはできるだけ早く実戦からは引いて欲しいと思っている。よろしく頼む」
神澤社長が頭を下げる。
入ったばかりのアイドルにそこまで肩入れするとは、社長も悪い人ではないんだよな。
僕の実戦はいいのかという思いはあったけど、僕の能力に信頼を置いてくれているのだろうと思うことにした。
ブラッシュリップスの今後のことやらを話していると綾姫が社長室に顔を出した。
「こんにちわ。晶羅来てますか?」
「いるよー」
振り向いて答える。
神澤社長は立ち上がって綾姫に抱きつこうとしている。
すかさず綾姫が避ける。
懲りないおっさんだ。
「社長、会議室借りるね」
「お、おう」
僕は立ち上がるとそのまま綾姫の腕を取って会議室に向かった。
会議室はあの新人アイドルの面接会場になった場所だ。
今は中心に長机が置かれ、黒い背もたれの高い高級事務椅子っぽい椅子が取り囲んでいる。
僕と綾姫は長机の端で隣り合う椅子に腰掛けた。
部屋が広すぎるが、一応お金の話なので当事者だけで話すためには仕方がない。
「第一回分配会議を始めます。はい、拍手。パチパチパチ」
「パチパチパチ」
僕に釣られて綾姫も拍手をする。
「今回の収穫は戦艦1巡洋艦1ステルス艦1の鹵獲と巡洋艦1駆逐艦2の撃墜権です」
「はい」
「まずは巡洋艦の鹵獲と戦艦とステルス艦の鹵獲の違いを説明したいと思います」
「どうぞ」
僕のノリに綾姫も付き合ってくれている。やりやすくてありがたい。
「巡洋艦はエネルギー分配器を破壊して武装解除のうえ鹵獲しました。これにより電脳の書き換えと簡単な修理で巡洋艦が丸々手に入ります。ステーションではこの鹵獲を完品とみなします」
「はい、わかります」
「次に戦艦とステルス艦ですが、危機的状況だったため、僕がナーブクラックを使ってしまいました。これによりこの2艦の電脳は僕に服従してリセット出来なくなってしまいました。これにより2艦は部品取り扱いで半値以下になります。ごめんなさい」
「いえいえ、その2艦を仕留めたのは晶羅ひとりだよ。私に謝る必要なんかないよ」
綾姫が困ったような表情をする。
僕は綾姫が良い子だと確信を持った。
「そう言ってもらえると助かる。次に行政府にしている借金の返済方法なんだけど、売ってからお金で返すと税金分だけ損をするんだ。そこで行政府は物納を推奨している」
「物納ですか?」
「そう。だから巡洋艦は丸々物納しようと思う。取り分は僕と綾姫で半々。安くても1人1億Gは行くと思う」
「え、そんなに?」
「うん。僕が買うことになってしまったレンタル艦は30m級の汎用艦だったけど1億Gしたんだ。それと比べたら200m級の戦闘艦ならそれぐらい軽く行くはずだ」
綾姫が目を丸くしている。あと何艦鹵獲すれば借金完済か頭で計算していることだろう。
「僕は前回に150m級のステルス艦を鹵獲しているんだけど、ナーブクラックで電脳周りの基幹部品の買取を拒否されて半値以下になってしまったんだ。だけどそれでも借金は半分近くまで減っているんだ。150m級が完品なら1億G以上だったはずだ」
「今回もステルス艦を鹵獲してるね」
「うん、たぶん同じぐらいの売値になるから、それも折半しよう」
だが僕の言葉に綾姫が首を振る。
「だめだよ。ステルス艦と戦艦は晶羅個人が命を張って鹵獲したものだよ。私は一切関わってないしもらうわけにはいかないよ」
「だが艦隊の収入は折半が常識だから」
「だめ! 私は自分の力で稼ぎたい。艦隊に入ったからって活躍に応じた分配にして欲しい。私は巡洋艦の分配が折半だというのも納得してない。だいたい私の任務の護衛任務を全うできなかった!」
僕は綾姫の勢いに圧倒されてしまった。
「じゃあ、巡洋艦と撃墜権の分配だけでも貰って欲しい。ステルス艦の方はブラッシュリップス艦隊の強化に使おう」
「うん。わかった。ありがとう」
さて、戦艦の取り分が浮いてしまったぞ。どうしよう。
そう思案していると腕輪に通信が入った。
通信画面を空中にVR表示する。プリンスの顔が映る。
『やあ、晶羅さん、困ったことが起きたので至急専用艦のドックまで来て欲しい』
「直ぐに行きます! 綾姫ごめん、緊急事態みたいだ」
通信を切ると綾姫に断って部屋を出た。
ドック区。ステーションの底面に位置する艦船の修理建造をする区画だ。
その修理用ドックに鹵獲戦艦と癒着してしまった僕の専用艦が入っている。
僕はプリンスからの連絡でそのドックに急いだ。
中央広場の転送ポートを使いドックへ向かう。
ドックに着くとドック脇の待機室に向かう。
その中ではプリンスとドックの関係者が窓の外を見ている。
僕は挨拶をすると窓の外を見た。
「何ですかこれは!」
僕はプリンスに問いかけざると得なかった。
そこには繭で包まれた塊があった。
その繭は鹵獲戦艦と専用艦を合わせて包んだたような大きさだった。
プリンスが答える。
「分離作業を始めようとしたところ、晶羅さんの専用艦と鹵獲戦艦が融合を始めてしまいました」
「なんだってーーーーーーーーーーーーー!!」
僕はまた頭を抱えることになった。