050 アイドル編26 中衛戦顛末
緊急招集による防衛戦が終了した。
『ふぁんねる』を回収し、帰還の隊列を組む。
中心に鹵獲戦艦、その右舷にくっついた僕の専用艦。その右に鹵獲ステルス艦。
鹵獲戦艦の左舷側にアヤメ艦。その左を推力を失った鹵獲巡洋艦がアヤメ艦の左腕に掴まれて曳航されている。
僕の艦隊は戦艦1巡洋艦1ステルス艦1を鹵獲し、巡洋艦1駆逐艦2の撃墜権を確保した。
これでおそらく僕の借金は完済出来ることだろう。
問題は僕の専用艦の損傷修理と鹵獲戦艦との癒着状態の解消費用だ。
同じ方向を向いていたなら双胴艦扱いで運用する道もあるのだが、僕の専用艦と鹵獲戦艦は前後逆の反航する形で癒着している。
「どうしてこうなった!」
僕の専用艦と鹵獲戦艦が、このような状態になった原因と思われるのは2点。
僕の専用艦の右舷が損傷していたことと、鹵獲戦艦の右舷に侵食弾が着弾侵食中であったこと、これが関わっていると予想している。
敵戦艦に侵食弾を撃ち込んだ時に通常より侵食が遅く、僕は危機に陥った。
その原因は戦艦の分厚い装甲にあったのではないかと思う。
現在癒着している鹵獲戦艦の装甲部分は、どうやら侵食で繋いだデータリンクの主たる経路ではないようだ。
主に繋がっているのは『ふぁんねる』が、鹵獲戦艦の艦橋に撃ち込んだ侵食弾からの経路だ。
戦艦の電子・量子機器が集中している艦橋に侵食弾を撃ち込んだことが、侵食を加速させた要因だと思われる。
それと侵食弾を過信してはいけないという教訓を得た。
侵食弾は敵艦内のネットワークを侵し支配することで敵艦の制御系を無力化する。
制御系からの指令を遮断する効果しかなく、敵戦艦の電脳は生きたままだ。
敵戦艦の電脳は、こちらが敵戦艦のデータを吸い上げようとした経路を使って、侵食弾の支配を打ち破り僕の専用艦の電脳にハッキングして来た。
さすが戦艦の電脳は性能が違うといったところか。
今後は侵食弾を撃つ箇所を考え、上位の電脳には躊躇わずにナーブクラックをかける必要があるだろう。
話を戻すが、その厚い装甲に撃ってしまった侵食弾の、中途半端な侵食が僕の専用艦にも影響して、今の癒着状態になっているのだと思う。
僕の専用艦は鹵獲戦艦に引きづられる形でステーションまで帰って来た。
後ろ向きで運ばれる姿は恥ずかしいものがある。
その横を鹵獲ステルス艦が遮蔽フィールドを解除して付いて来る。
アヤメ艦も鹵獲巡洋艦を左腕で掴んで引っ張って来ている。
ステーション手前の警戒宙域に停止すると臨検の艦を待つ。
ステーションから発進した戦艦が2艦、僕達を交差するような位置取りをする。
2艦の射線がお互いにかからないようにし、ステーションへの進行を阻害するような位置だ。
戦艦の大口径レールガンとビーム砲が僕達をロックオンする。
ロックオン警報がCICに響く。煩いので切る。
『アキラさん! なんですかそれは!』
仮想画面の端に通信用の小画面が開きプリンスの声が響く。
「やあ、プリンス。また鹵獲しちゃったよ」
プリンスが画面の中であんぐりと口を開いている。
『臨検します。接触しているアキラ艦も対象です!』
「了解」
まあ、臨検はお約束だから我慢しましょう。
まずアヤメ艦が拿捕している鹵獲巡洋艦に臨検担当の戦艦がデータリンクする。
電脳と各種兵装へエネルギーを分配するエネルギー分配器破損の確認がとれる。
外部からセンサービームが当てられ自立型ミサイルの存在が否定され無害化が認められた。
鹵獲巡洋艦は行政府との契約で、そのまま引き渡されタグボートで運ばれる。
それと同時にアヤメ艦は開放される。
「分配とかの件もあるし、反省会も含めて会おう。連絡する」
「うん、わかった。それじゃ晶羅、後で会おうね」
アヤメ艦が格納庫へ帰還していく。
続けて問題の僕の方。
鹵獲ステルス艦が調べられ、電脳の服従を確認。ナーブクラックの支配下にあると無害化が認められた。
逆にあっさりしていて気持ちが悪い。
鹵獲戦艦も同様に調べられ、無害化が認められる。
そして、鹵獲戦艦と癒着している僕の専用艦も敵からの汚染がないかと調べられてしまった。
『どうやら大丈夫なようですね。帰還を認めます』
「いや、でもこれじゃ格納庫に入れないし」
『ドック入りしてください。ステルス艦はこちらで引き取り、規定通りに分配します』
「僕の方は、そろそろ完済じゃないの?」
『ドックでの修理費次第ですね』
そうだった。修理費がいくらかかるか頭の痛い所だ。
「でも、この戦艦を売れば余裕だよね?」
『売れればですけどね……』
プリンスは何か含むところがあるようだ。
こうして僕の専用艦はドック入り1ヶ月となってしまった。
とりあえず『RIO』で活動するしかないな。
アイドル活動のアバターは大丈夫だろうか?