047 アイドル編23 中衛戦1
新学期が始まる1週間前、入学金も納め終わり気の抜けたところで緊急招集をされた。
行政府に借金を肩代わりしてもらった綾姫も対象だ。
僕と綾姫は艦隊を組んでいるので同じ小会議室に呼ばれた。
アブダクションで強制転移させられた場合、もし風呂に入っていたらとか女性は気になるところだけど、そこは地球外知的生命体、タイミングを見計らい勝手にパイロットスーツに着替えさせて転移してくれる。
エリアリーダーが部屋に入ってくる。静まる室内。
彼から作戦内容の説明が始まる。
「次元跳躍門に転移の予兆が現れた。我々には珍しく敵艦打撃任務だ。
担当宙域は抽選でP2-P1-M9。中衛で迎撃だ」
宙域座標はXYZの座標で表現されたエリアの区分だ。Xが横軸、Yが縦軸、Zが奥行きになる。
P2-P1-M9は基本座標である次元跳躍門から右2上1手前9のエリアだ。
「突っ込んで来る敵艦を、我々のエリアを抜けるまで叩けば良い。こっちのエリアから外れたら、それはそちらのエリアの獲物だ。後方にも涎を垂らして獲物を待っている奴らが居る。気兼ねなくスルーしていい」
室内に笑いが起きる。ここの連中も涎を垂らして待っていたくちだ。
「味方の流れ弾でケツを掘られるなよ! 作戦開始まで各自CICで待機。今回は出撃が早い、管制官の指示を聞き逃すなよ!」
全員が席を立ち、簡易転送ポートに向かう。
僕と綾姫も列に並ぶ。
「CICに入ったら、ちょっと連絡するから。出撃まではまだ時間があるから少し作戦を練ろう」
「わかった。待ってる」
緊張気味の綾姫を先に行かせて、僕も格納庫のある区画に移動する。
転送ポートから自分の格納庫までは少し距離がある。この移動もなんとかならないんだろうか?
戦艦なんて全長1kmもあるんだ。幅だって100m超えだ。それが何艦も格納されている区画を横切ったら結構な距離になる。
自分の格納庫前に転送ポートが設置されていなければ、それだけ走ることになる。
ここらへんの位置取りはステーションへの貢献度によるんだろう。
通信を送るタイミングもあるから綾姫の格納庫が転送ポートから遠いのか聞いておけば良かった。
CICに入りパイロットシートに座る。パイロットスーツはアブダクション時に自動換装されている。
艦が目覚めると目の前に仮想スクリーンが開く。
思いつきで戦術兵器統合制御システムを起動、アヤメ艦とデータリンクを繋ぐ。
アヤメ艦の状態が起動になっていることが確認出来た。
通信を送っても大丈夫だな。
「準備出来た?」
「大丈夫です。待ってました」
綾姫の顔が小スクリーンに映って通信が繋がる。僕の顔を向こうに映っているはず。
どうやら綾姫の方が先に到着していたようだ。
「ああ、うちの格納庫は転送ポートから遠くてさ」
「私のところは転送ポートから3つ分ぐらいで100mちょっとだから」
「3つ分で100mちょっと? そうか巡洋艦区画だからか。こっちは戦艦区画だから遠すぎなのか!」
自転車でも置くことにしよう。
「今日の予定なんだけど」
「はい」
「あ、今回の出撃はアキラ艦隊なのでアキラとアヤメのコードネームでよろしく。晶羅とは呼ばないでね」
「そうね。気をつける」
スクリーン内の綾姫が小首を傾げる。カワイイな。
気が強そうな顔が、不安で少し曇っていて、言いようのない可憐さがある。
見とれている場合じゃなかった。
「今回の目標は敵艦の鹵獲になる。僕が侵食弾で敵艦の自由を奪って、アヤメが敵艦のエネルギー分配器を対艦刀で刺して破壊。鹵獲する」
「エネルギー分配器の位置がわからないよ」
綾姫が不安そうな顔をする。
「それは、敵艦を侵食出来たらデータリンクが繋がるから、直ぐにわかる。刺す位置はそっちの画面に的をグラフィック表示する」
「それなら出来そうね」
綾姫がホッとした顔をする。
「任せろ。鹵獲目標が決まるまではアヤメは僕を護衛してくれ。残念ながら僕の専用艦は武装が貧弱なんだ」
「任せて。守ってあげる」
綾姫の表情がコロコロ変わる。頼られて急に強気になったようだ。
「今回は絶対防衛任務じゃないから、敵艦に抜かれそうだと思ったら行かせてしまっていい」
「はい」
「細かいことは僕が指揮するから、あまり張り切らないでね。鹵獲より自分の命が優先だからね」
「わかった。命優先。指揮に従う。護衛する。目標は鹵獲ね」
綾姫が指を折って復唱する。指を折る仕草がなんともカワイイ。
「あと、爆発したミサイルの破片とレールガンの流れ弾には気をつけてね。レーザーをデブリ迎撃モードで立ち上げておくといいよ」
「そうなんだ。ありがとうね」
「あとは出撃まで待機ね。管制塔の指示を聞き逃さないでね。それじゃ宇宙で」
「はい。宇宙で」
通信を切る。あれ? 切る必要あったかな。
まあ間が持たないからいいか。
今回出撃するアキラ艦隊の各艦の諸元は以下。
『AKIRA』
艦種 艦隊指揮艦(艦隊旗艦)
艦体 全長212m 高速巡洋艦型 2腕 拡張格納庫 (艦載機『ふぁんねる』 1)
主機 対消滅反応炉G型 高速推進機D型
兵装 主砲 長砲身5cmレールガン単装1基1門 通常弾 50/50 特殊弾 20/20特殊弾 16/20
副砲 なし
対宙砲 10cmレーザー単装4基4門
ミサイル発射管 D型標準2基2門 最大弾数4×2 ミサイル残弾 8
艦載機用ミサイル D型標準2基×1 最大弾数4×2×1 ミサイル残弾 4
防御 耐ビームコーティング特殊鋼装甲板
耐実体弾耐ビーム盾E型 1
停滞フィールド(バリヤー)D型
電子兵装 対艦レーダーS型 広域通信機S型 戦術兵器統合制御システムS型 サブ電脳D型
空きエネルギースロット 5
状態 良好
『ふぁんねる』
種別 攻撃機 (ステルス)
機体 全長25m
主機 熱核反応炉G型 高速推進機G型
兵装 主砲 短砲身5cmレールガン単装1基1門 通常弾 10/10 特殊弾 2/2
ミサイル D型標準2基搭載可能
防御 耐ビームコーティング特殊鋼装甲板
遮蔽フィールド(隠蔽装置)E型
電子兵装 対艦レーダーF型 通信機F型
空きエネルギースロット 0
状態 良好
『AYAME』
艦種 突撃艦
艦体 全長200m 巡洋艦型 2腕
主機 熱核反応炉C型 高速推進機E型
兵装 主砲 長砲身20cmレールガン単装1基1門 通常弾 80/80
副砲 15cm粒子ビーム砲連装2基4門
対宙砲 10cmレーザー単装4基4門
ミサイル発射管 なし
対艦刀 C型 1
防御 耐ビームコーティング特殊鋼装甲板
耐実体弾耐ビーム盾E型 1
停滞フィールド(バリヤー)E型
電子兵装 対艦レーダーE型 通信機E型
空きエネルギースロット 0
状態 良好
今回はステーション支給のミサイル4発を加えて侵食弾と艦載機用ミサイル以外はフル補給状態。
Gバレットも2発チャージ済み。
『ふぁんねる』も主砲を短砲身5cmレールガンに換装。侵食弾を2発与える。
これで上手く鹵獲できれば借金を一気に返せるはず。
電脳を服従させてない状態の敵艦を2艦も鹵獲すれば綾姫と分けあった後でも確実に借金返済出来る。
『アキラ艦隊、アキラ、アヤメ、発進準備』
管制塔から発進準備が発令される。
僕は格納庫の扉を開き発進に備える。
『アキラ艦隊、アキラ、アヤメ、発進してください』
アヤメと通信を繋げる。
「アヤメ行くよ!」
「はい」
僕達は宇宙に向け発進した。
晶羅がSFOに来てから何日経ったか、特殊弾は何日で何発増えたか年表作りに手間取ってしまいました。
この話のカレンダーを2018年の夏休みに設定したら、夏休みが44日(関東標準)ありました。(^^;
見切り発車で変なことになるところでした。
艦隊内通信は会話と同じ「」で外部通信は『』にしてみました。