045 アイドル編21 アヤメ加入
前話の晶羅によるレールガン>アヤメかのような主人公らしからぬ行動に見えてしまう描写を修正しました。
僕達ブラッシュリップス艦隊に足りないのは攻撃力、つまり前衛だと理解はしていた。
だが、模擬戦を続けるだけならば、条件の緩いトーナメントを行う限り、補充はまだ先のことだと社長も僕達メンバーも思っていた。
今回のような危うい個別デュエルは、沙也加さんのミスが無ければ実現するはずがなかった。
遅かれ早かれ攻撃力不足は知られることになっていただろうけど、その時期はずっと先だったはずだ。
でもまさかたった2戦目で弱点が白日の下に晒されるとは思ってもみなかった。
そこへ有能な前衛+アイドル候補が現れたなら勧誘するに決っている。
いま僕達はSFO支所の社長室でアヤメと面談していた。
「いやー、よく来てくれたね。アヤメさん」
怪しい色黒業界人がハグしようと迫って来て、アヤメは警戒の色を目に浮かべる。
「こら社長! アヤメが怖がってる。詐欺師に騙された後で、社長みたいな怪しい人物と遭遇したら警戒されるに決まってるだろ!」
「これでも、バルチャー艦隊の代表にブラック契約を破棄させた立役者なのに……」
神澤社長が落ち込む。
アヤメもそこは負い目に感じているのか慌てて否定する。
「いえいえ、怪しいだなんて、そんなことありません。社長さん、感謝しています」
「だろ? それで今後のことなんだけど、うちに来る気はないか? あんなブラックと契約してしまうぐらいだから、何か事情があるんだろ?」
神澤社長、変わり身が早すぎる。でも、そこまで考えてたのか。
「実は父親の会社の業績が急に傾いてしまって、どうしても纏まったお金が必要だったんです」
アヤメが悔しそうに言う。
「父は騙されただけなんです」
「借金か。どのくらいの額が必要なんだ? しかし、業績の悪化した企業は経営の立て直しをしないと、いくらお金を注ぎ込んでも無駄に終わるぞ」
「立て直しは必要じゃないんです。会社は潰しましたから。それでもまだ借金があって……」
アヤメが鬱屈した表情を浮かべる。自分でも納得がいかないという表情と父親を誇りに思う表情が混ざっているようだった。
「いや、倒産したなら債務整理で借金を残さないだろ。なんでまたまだ借金があるんだ」
「父が取引先に迷惑をかけられないと会社の借金を個人で被ってしまったんです」
「それは悪手だな。人が良いにも程がある。それで娘を苦しませたら本末転倒だろうに」
アヤメもそれはわかっていたのだろう。
わかっている上でどうにもならない気持ちを抱えているように見えた。
「でもSFOでプロ活動出来たら、そのぐらい簡単に返せるはずだから」
「だが現実は違ったと」
「はい、最初に入ったのはSFCで知り合った人の艦隊だったんですが、実際はナンパ目的で誘っていたんです。そこを辞めたら他に行く所がみつからなくて、バルチャー艦隊が好待遇で誘ってくれたので加入しました」
アヤメが悔しそうな表情をする。
「初仕事として任された契約を結んで帰ったら、その契約がアイドル事務所を騙すものだってわかって……」
「ああ、そこで騙されたのが、うちの沙也加ちゃんなのね」
アヤメが沙也加さんの方を見て、頭を下げる。
「私、何もわかってなくて……。本当にすみません」
沙也加さんが苦笑いしている。
彼女の方にも重大なミスがあったのでアヤメだけを責められないのだ。
「それで契約を破棄しようとしたら、私自身もブラックな契約に縛られていて、どうにもならなかったんです。親子二代、他人に騙されて滑稽ですよね」
僕達は慰めの言葉もかけられなかった。
人はどうして善良な人ほど騙されてしまうんだろう。
アヤメがブラッシュリップスのメンバーに入ってくれたらいいな。
「まあ、過ぎた事はいいよ。それで今後だが、借金を返すなら艦隊に所属するのが一番なのは理解しているよね? うちに入ればブラッシュリップス艦隊に入れる。さらに新人合格の賞金が出る」
(神澤社長! 借金を抱えた者に対してまたその手を使うのか!)
「一応ブラッシュリップスは模擬戦専門でやっていくが、リアル空間での艦隊戦に出たいなら、そこの晶羅の艦隊で稼げばいい」
神澤社長が僕を指さして言う。
(え? 僕のところ?)
「うちにはタンポポとアキラがいる。知らない仲じゃないんだろ?」
アヤメはしばし俯き考えていたが、おもむろに顔を上げてキッパリと言った。
「よろしくお願いします!」
また賞金に釣られたアイドルが誕生してしまった。
「良かったね。アヤメちゃん!」
タンポポこと菜穂さんがアヤメに抱きつく。
僕もついでに行っとこう。
今は晶羅モードだし、たぶんまだ女だと思われてるし。