044 アイドル編20 後始末
『違反だ! ブラッシュリップス艦隊は6艦いるじゃないか! 無効試合だ!』
バルチャー艦隊からクレームが来る。
『ふぁんねる』の存在への物言いだ。
僕はこの事態を予想していたので、行政府の見解を確かめてあった。
『艦載機に関する行政府の見解だ。読んでみろ』
そこにはこう書いてあった。
・艦載機とは自立した無人機であり、母艦の支配コントロール下にあるものを言う。
・母艦とは艦載機を支配或はコントロールする電脳を搭載した艦を言う。
・模擬戦に於いて艦載機は母艦の付属物であり艦数に数えない。
・艦載機はリアル空間に於いても無人運用を認める。
『くっ……。だが、こちらの艦隊にスパイを送り込んで裏切らせただろ! 無効だ!』
このおっさん、まだゴネるのか。
それなら本人に証言させてやる。
『それはスパイと言われたアヤメ本人に証言させればいい。アヤメ正直に話して』
『私はまさか脱ぎルールだなんて知らなくて……。アイドル艦隊とデュエルしたいだけだって言われて交渉したのに……』
『それを知ったのはいつ?』
『模擬戦中にアイドルの人が脱がされちゃって……。それでおかしいと思って動揺してたら歌ってるのがタンポポさんだって気付いて……』
『僕が避けろって言った』
『はい。それで思わず避けたら、後ろから撃たれて私も脱がされちゃって……』
『つまり?』
『私はバルチャー艦隊に最初から騙されていたみたい……』
『違う! 騙してなんか『往生際が悪いぞ!』』
オブザーバーの神澤社長がついに怒って割り込んできた。
『この件は行政府に報告させてもらった。新人に対する詐欺的行為に行政官もお怒りだ! 後でそれ相応の裁きがあると思え!』
『くっ……』
ハゲタカは押し黙った。
それじゃ、さっさと敗戦処理しましょうか。
バルチャー艦隊から装備の一覧表が渡される。
一覧表をざっと見る。「36cmレールガン!」これはお宝だ。
「社長、賭けの報酬はあれでいいよね?」
「おまえもそう思ったか。 俺もだ」
「じゃあ、よろしく」
「おう」
神澤社長が通信画面でニヤリと笑う。さすが社長。解ってらっしゃる。
神澤社長が代表して要求する。
『賭けの報酬だが、装備はいらん。アヤメを寄越せ』
「え? (レールガンじゃないのかよ!)」
僕はアヤメの救出は簡単だと思っていた。
ここは敵の最大戦力を奪って、アヤメにはバルチャー艦隊を自主的に抜けてもらえば、後はどうとでもなると思っていたんだ。
『わかった。アヤメとの契約は破棄する』
後で知ったことだが、アヤメは自由に脱退する権利もないブラックな契約をさせられていたらしい。
それを救うため神澤社長は行政府云々の若干のブラフをかましていたそうだ。
こうしてアヤメが新メンバー候補になった。
神澤社長の思惑はこうだ。
艦隊に所属していない若くて美しく実力のあるSFOゲーマーは希少。
地球でアイドルにSFCをさせてプロ化するのは時間がかかる。
そこにアヤメという逸材が現れた。ギリ脱がされかけたけど下着姿も晒していない。
恩を売って引きこもう。
また神澤社長の黒い部分が出てしまったな。
『ふぁんねる』について、保険だという話はしてあったけど、社長もメンバーも無人艦載機だとは思ってなかったそうだ。
あれは爆薬を抜かれた自立型ミサイルにビーム砲と修理した遮蔽フィールドを搭載したものだ。
それをコントロールしていた電脳を僕の専用艦に搭載してバックアップさせている。
まだ自立行動に対する信用が担保されていないため、自立行動を一部制限してサブ電脳とのデータリンクにより常に監視コントロールするようにしている。
小さく高機動高出力でステルス。機動がもろあれだったので『ふぁんねる』と名づけた。
バルチャー艦隊が狙撃のために前方の重力場を観測していたから、重力場に隠れるように迂回させて敵旗艦後方に配置しておいた。
歌っている時間を上手く利用出来て怪我の功名といったところ。
艦載機の扱いを問い合わせた時に行政府と話したところ、奇襲兵器として自爆より有意義に使えると量産を検討するそうだ。
ただし遮蔽フィールド付きは特殊扱いで数は作れないとか。
つまり、今後は空母という艦種がステーションに発生することになる。
アイデア料はと聞いたら笑ってスルーされた。
借金が減らないのに脅威が増える。
敵に回られたら恐ろしい兵器だ。
晶羅がアヤメよりレールガンを選んで主人公らしからぬ行動をしたと思われてしまう描写を修正しました。バルチャー艦隊を打ち破ってアヤメを救出出来たと思っていたら、ブラック契約で縛られていた。それを知らない晶羅と知ってた神澤社長で対応に差が出たということでした。
主人公として単純にアヤメを救うヒーローにした方が良かったのかもしれません。
R18版の構想では、アヤメさんは敵側により全裸にされてしまいます。
そうなるとアイドルの道は厳しくリアル空間での晶羅のパートナーになるはずでした。