040 アイドル編16 反省会
ブラッシュリップスの新曲発表会並びに新メンバーお披露目会は概ね成功裏に終わった。
翌日、僕達ブラッシュリップスメンバーは神澤プロモーションSFO支所に集まり反省会を行っている。
SFO支所は居住区D-9-301、あの面接会場のフロアにあった。
そういえば社長とメンバーには挨拶をしたけど、あの時会場で受付をしていた女性とは最終合格の時以来会ってないぞ。
歌唱とダンスのレッスンは地球の事務所でやっていたからね。
歌唱トレーナーとダンスの先生は、外部の専門の方だったらしいから、ここには居ない。
その面接会場が反省会会場になっている。
中央にテーブルが置かれ飲み物とオードブル、寿司の桶などが並んでいる。
出席者は6人。神澤社長、ブラッシュリップスの4人、もうひとりの女性。
その女性は、あの面接会場受付の人ではなかった。
神澤社長が、そのもうひとりの女性を紹介する。
「彼女はみんな初顔合わせだよね? ブラッシュリップスのSFOにおけるマネージャーになる一守沙也加さんだ。GNは……何だっけ?」
「……フローズンです……。社長、このGNはあまり大ぴらにはしないで欲しいんですけど……」
「あはは、顔を出さないゲームの中だからと、気持ちが大きくなってつけて後悔しているんだったな」
「社長!」
(あれか、あの氷のあれか! 主役の1人の中の人がってことか!)
「マネージャーってオーディションの受付の人かと思ったよ」
「ああ、あの人は臨時のバイトだ。なんでも艦を損傷して修理費を稼ぎたかったらしいぞ。さすがにSFOプロゲーマーの資格持ちとなると人手不足でね。沙也加さんも地球で採用したSFCゲーマーで、ゲームを進めてプロ化してもらったんだ」
僕達は納得するとお決まりの自己紹介をした。僕追加バージョンだ。
「こんにちわ♡ リーダーやってます、菜穂です♡」
「笑顔担当、紗綾で~す」
「無口担当、美優……」
「新メンバー音響担当、晶羅でーす♡」
「「「「せーの。4人揃ってブラッシュリップスです♡ よろしく♡(……)」」」」
1人無言はお約束だ。
自己紹介も終わり反省会という名の雑談をする。
「やーめーろーよー」
珍しく美優が大きな声を上げたので見ると、菜穂さんが酔っ払って美優に絡んでいた。
頭を撫でて髪の毛をくしゃくしゃにしている。
美優が逃げる。
犠牲者のいなくなった菜穂さんは、続けて社長に絡んでいる。
「社長ー。今回はヲタ艦隊が相手だったからいいけどー。戦力増強しないと普通の人には勝てないぞ♡」
「前にも言ったが、SFO内でのスカウトは無理だ。地球でスカウトして育てるとなると時間がかかる」
「でもー。マネージャーがいるじゃなーい。そこそこカワイイし♡」
「彼女は年齢的にアイドルは無理だ。本人も嫌がっている」
「そうです。私は無理ですー。顔にも自信ないし年だし……」
「でもー。アバターなら問題ないわよ♡」
「嫌ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
沙也加さんが逃げた。
「こらこら、せっかく採用したマネージャーを追い込むんじゃない! 彼女はアイドルにはしない。これは決定事項だ」
どうやら話も一段落したようなので、僕は疑問に思っていたことを神澤社長に聞いた。
「配信映像の反応ってどうだったの? お金を出してまで見てくれた新規の人っているの?」
「ああ、今回の配信はプロモーションだからお金は取っていないんだ。ヲタ艦隊にはブラッシュリップスのスペシャルグッズを与えたから、分配金を放棄してもらっている。それでも大喜びだったぞ」
さすが、社長。抜け目がない。
「配信映像の反応だが、ネットユーザーが盛り上がってくれたおかげで、ワイドショーが取り上げてくれたよ。概ね好意的でeスポーツの説明やらプロ化した選手の高額賞金やらに興味の方向をすり替えられていた感じはあったけどな」
「マスコミはいちいち言い方がオシャレですね。となるとプロゲーマーとしてしっかり勝つ方向じゃないと目立てないんじゃないかな?」
「その方向になるだろうな。沙也加さん、個別デュエルの対戦相手を探しておいてくれ」
この一言が後に僕達に危機と幸運を呼ぶとは、この時はまだ気付いてなかった。