036 アイドル編12 防衛戦
専用艦CIC内コクピットで仮想スクリーンを開き、外部映像を表示する。
視点はステーションの管制塔から前方の次元跳躍門方向を見るカメラだ。
最前線担当の艦艇が吐く後方噴射の光が流星雨のように次元跳躍門手前の宙域へと向かっていく。
僕はその数の多さに驚愕した。全力出撃なのだろうか?
次元跳躍門とステーションの間にはアステロイドベルトがある。
もし敵が次元跳躍門を超高速で抜けてきた場合に盾とする目的だ。
次元跳躍門から出た途端に目の前に岩塊が迫って来たら、たまったもんじゃないだろう。
だから次元跳躍門から出てくる艦艇は次元跳躍門出口手前の亜空間に一旦停止し、低速で抜けるのが常識となっている。
なので最前線の前衛艦隊は次元跳躍門の手前で待ち伏せ攻撃。
そこを突破して来た敵艦を中衛艦隊がアステロイドベルト内で迎撃戦を行う。
そしてアステロイドベルトを突破して来た艦を我々後衛組とステーションの要塞砲で撃滅する。
僕達後衛艦隊に出撃準備が発令された。
あの数の艦隊でも対処出来ない敵艦が突入してくるという予測なのだろう。
僕は専用艦格納庫の格納扉を開放し出撃に備えた。
「ここからじゃ、作戦状況は把握出来ないな。何か戦場全体を見る手段は無いものか……」
その僕の声に戦術兵器統合制御システムが起動する。
ステーションの戦術電脳に接続、作戦状況を覗き見出来てしまった。
現在、次元跳躍門から侵入して来た敵艦隊と前衛艦隊が交戦中。
外部映像を見ると遥か彼方で爆発の花が無数に咲いていた。
敵艦が沈む光なのか、それとも味方艦の沈む光なのか。
僕は身近な所に忍び寄ってきた死に恐怖した。
「そうか、あそこに居たら死ぬ可能性があったんだな。後方で喜べというのは本当だったんだ」
僕は先のエリアリーダーの言葉を思い出していた。
中衛艦隊に戦闘準備が発令された。
同じくして僕達後衛艦隊に発進命令が出る。
敵味方識別信号確認。識別アイコンが青になっていることを確認する。
僕は専用艦を格納庫から発進させる。緊急発進なので真っぐ発進する。
格納庫の出口がステーション外縁から外側に向かって開いているので、真っ直ぐ進めば衝突の危険は無い。
そのまま担当宙域に進出し待機する。
前衛艦隊を突破してきた敵艦を中衛艦隊が葬っていく。
僕らの任務は中衛艦隊の取りこぼし撃破になる。
どこから来るかわからない敵艦を僕らは適当に漂って待っている。
手持ち無沙汰で待つよりも、どこが手薄なのか予測した方がいいんじゃないだろうか?
中衛艦隊の分布と索敵情報を担当宙域前方限定で収集してみる。
対艦レーダーと戦術兵器統合制御システムが連動し精密な状況図が作られる。
味方艦とリンクすることで岩塊の裏も含む多角情報が積み重なっていく。
そこには穴があった。
僕は専用艦をその穴の正面に移動させる。
まさかとは思うけど、射撃補助装置を起動、遮蔽フィールドにも備える。
あ、そういや敵艦を補足しても撃ち落とす手段が無かった。
Gバレットは命にかかわる場合のみの最後の手段だ。
しかも仮想空間とは違ってチャージ不足で発射不能になっている。
Gバレットは発生させた重力が着弾のエネルギーに変わる。
その重力を発生させるためには発生するエネルギーと同等のエネルギーチャージが必要だった。
まだ1発分もチャージ出来ていなかった。
となると撃てるのはミサイル2発と特殊弾の侵食弾だ。
副砲が欲しいな。
中衛艦隊の迎撃戦がほぼ完了し、作戦終了の合図を待つだけの状況となった。
敵艦はレーダー上から消えていた。
後は遮蔽フィールドで隠れている艦が居ないかを細々と探す残敵掃討に移行する。
僕達後衛艦隊は出番もなく引き上げを待っていた。
作戦終了が宣言される。
僕達は三々五々と引き上げを始めた。
その時、僕の専用艦が重力異常を感知した。
あの迎撃の穴と推定した場所だ。
僕はレールガンで侵食弾を撃ち込んだ。
敵艦の遮蔽フィードが剥がれ、停滞フィールドも抜き、侵食弾が敵艦に命中する。
何も起きない。大きな爆発とか侵食フィールドが発生して装甲を抉るとか、何の効果もない。
このままじゃこっちが良い的だ。慌てて回避運動を専用艦にさせる。
識別信号赤。敵艦に間違いない。だが敵艦が動かない。
「なんだ? 何が起きてる?」
目の前の仮想スクリーンにメッセージが出る。
『侵食完了。データリンク開始。乗っ取りますか?』
僕はYESアイコンを掴んだ。
『ナーブクラック開始。5・4・3・2・1終了しました。敵艦を拿捕しました』
敵艦の識別信号が緑に変わる。僕は慌てて通信を送る。
「そこの敵艦は僕が鹵獲しました。撃たないでください!」
僕の専用艦での初陣は敵艦鹵獲で終わった。
鹵獲といえばRIOに融合している敵艦も鹵獲だったなぁ。
晶羅の初陣勘違いのネタが作者のミスという印象になっているようなので修正しました。
笑いネタのつもりだったんですけどね。