034 アイドル編10 アバターだから問題ない
「僕は男だよ?」
「は?」「え?」「クスクス」「……」
支所内が騒然となる。
神澤社長は考え込み、菜穂さんは頭に???が出ている。
紗綾は成り行きを楽しみ、美優は……何を考えているかわからなかった。
菜穂さんが口火を切る。
「ちょっと待って、アキラちゃんって初心者講習の時に女子チームだったわよね?」
「あれは、3対3に分ける時にたまたま女性側に混ざっただけだ」
「でも、アバターが女性アバターだったじゃない」
「あれはどうしてなんだろうね? 特殊な模擬戦ではネカマになれるってあったから、何かの設定のせいじゃないかな」
「確かにそうね。私もそこらへんは初心者で知らなかったし……」
「ほら、一人称ずっと僕だったでしょ?」
「それはボクっ娘だとばかり……」
菜穂さんは頭を抱えてしまった。
そこへ神澤社長が割って入る。
「それじゃ、なんでアイドルオーディションに参加を?」
「僕は通信担当に応募したんだけど、なぜか変な面接に呼ばれちゃって。これは違うなって解ったから合格もらって直ぐに辞退したんだ」
「ああっ! 通信担当でも募集をかけてたのを忘れてた!」
「「「社長ーーーーーーーーーーーーー!!(ジト目)」」」
みんな頭を抱えてしまった。
しかし百戦錬磨の神澤社長、直ぐに立ち直って詭弁を弄し始める。
「菜穂、もう既に合格の速報は流したんだな?」
「はい。社長」
「なら合格を覆すのは不可能だ。事務所のメンツに関わる」
「おい! 僕の立場は?」
「それに基本はSFO内限定で自分の顔とはいえアバターでの活動だ。
幸い晶羅ちゃんは女の子にしか見えない。菜穂のメイク術があればバレやしない!」
「言い切った! このおっさん言い切ったよ!」
(だが甘い、甘いよ神澤社長。僕にはまだ切り札があるんだ)
「だけど、僕は未成年だよ? 保護者の同意が無ければ契約は結べないぞ。しかも唯一の肉親は行方不明中だ」
(どうだ! 会心の一撃だろ!?)
「ああ、そこはクリアしている。SFOは外国扱いだからね。成人年齢は15歳だ。晶羅ちゃんもプロ契約しただろ?」
「そうだった。でもクーリングオフが……」
「そちらの応募が先だから適用外だし、外国だし」
(大人って怖い。こうやってAVに売られていくんだな……)
「万策尽きた」
「それより合格者には賞金が出るんだが、いらないってことはないよな?」
「え? いくら?」
それは入学金を払ってもお釣りが来る金額だった。
「よろしくお願いします!」
こうして僕は神澤プロモーションのアイドルグループ、ブラッシュリップスの新メンバー晶羅になった。
目立ちすぎた代償を目立つことで解消しようという手は悪くはない。
それにまともな艦隊に所属出来るという利点もある。
露出はどうせ模擬戦のVR空間のみ。
アバターだから問題ない。
早速、そのアバターのアイドル仕様を作ることになった。
アバターをカスタム出来るなんて知らなかった。
菜穂さんにがっつりアイドルメイクをしてもらう。
メイク完成後、基本となる顔情報をアイドルメイクで登録する。
ついでと言ってはなんだけど、宣材写真もそれで撮影。
事務所HPに顔写真が公表された。
次に衣装。オリジナルデザインの衣装を課金で作って着させる。
これは曲毎に別バージョンを用意するそうだ。お金は事務所持ち。当然だ。
これでアイドルアバターは完成、アイドルアバター1で登録する。
アイドルアバター2、3と次々に登録し、ステージ上で切り替えれば早着替えになる。
本人アバターとも簡単に切り替え可能だ。
今後は新曲の歌詞とダンスを覚えて初ステージを待つのみ。
オーディション合格賞金で入学金が払えたのは怪我の功名。
だが、そのお金で縛られたということでもある。
今後もSFOからもアイドルからも逃れられない。
「どうしてこうなった!」
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