033 アイドル編9 合格者きらら
良い話と悪い話がある。
Gバレットを使用した影響はとんでもなかった。
模擬戦トーナメントビギナークラス3艦の部決勝の映像がリアルタイム配信されていて目聡い人達が食いついていた。
その映像が話題となりオンデマンド配信の閲覧数も鰻登りだった。
映像の視聴料は雷鳴艦隊と折半で入って来る。
これはかなりの金額になる。
それが良い話だ。
もう一つ良い話。
僕の専用艦がレベルアップした。模擬戦でも艦は成長するらしい。
レベルアップと言っても地味に装備が良くなるだけだそうだ。
レールガンの特殊弾がもう一種類増えた。
侵食弾だそうだ。
これも撃ってみないと不明な弾だが、撃ったことで騒動が起こるのは勘弁して欲しい。
そう、騒動。これが悪い話だ。
まず何を使ったのかという”問い合わせ”という名の詰問メールが大量に来ていた。
大量のメールはいちいち確認したわけではない。
AIによって内容毎に仕分けされていたので判ったのだ。
この世界では個人が使用するAIには通信の自由という概念は存在しない。
個人の一部として捉えられ、勝手に私信を開封しても問題はない。
1つ読んだだけで辟易した。無視する。AIを信じて他のメールは読まずにゴミ箱へ。
艦隊への勧誘メールも凄い。
戦力になるとわかればそうなるのも頷けるけど、あれだけ拒否されたのに今更寄ってくるなんて、手のひら返しも甚だしい。
だが、模擬戦でGバレットを使うのは今後控えていきたい。
当然彼らはGバレットの使用を強要するだろう。
それだけが目的なんだから当然だろう。
断りの定型文を一斉送信しておこう。
次に個別デュエルの申し込みが後をたたなかった。
それも賭け試合ばっかり。
僕の艦隊が小さく弱いうちにボコボコにして、Gバレットを奪おうという賤しい魂胆な奴らばっかりだった。
こいつらはGバレットの存在を知っている連中だ。
当然無視だ。捨てる。
今後、嫌がらせで模擬戦トーナメントに出にくくなる可能性は頭の隅に置いておこう。
アキラ艦隊の各艦の諸元は非公開だ。
どのような装備を持っているのか、どうような艦種がいるのかは配信映像が唯一の情報源になる。
唯一公開されているのはリーダーがGNアキラであること。
GNが判れば直メール可能という有難迷惑な仕様のため、こんな事態になっているわけだ。
迷惑メール設定や着信拒否も出来るが、その結果村八分にされる可能性がある。
そういったわけもあり、見るべきメールは見なければならない。
AIに仕分けされたメールをチェックしていく。
最重要タグのついたメールを開く。
行政府からの業務連絡だ。
目を通すと緊急呼集に関するマニュアルだった。
いよいよ借金返済の御奉公が始まるようだ。
そして最後に、知り合い設定のメールが一つ。
あのアイドル艦隊オーディションの神澤社長からメール。
『おめでとうございます。あなたは最終オーディションに合格いたしました。
つきましては当事務所「神澤プロモーションSFO支所」まで来所いただけますようお願いします』
「えーと、僕は断わったよね?」
こういったことは内容証明郵便でも使って証拠が残る形で断わるか、顔を合わせてきちんと断わるべきだな。
仕方ない。事務所まで行って断わるか。
僕はアポを取って芸能事務所「神澤プロモーションSFO支所」に向かうことにした。
神澤プロモーションはグラドル系の仕事を主にやっていて、そのグラドルをアイドルデビューさせ、何組かそこそこ売れたアイドルを輩出していた。
だが最近は某国民的アイドルの席巻により苦戦を強いられていた。
特にブラッシュリップスは実力ルックス共に評価が高いのにTV出演等で不遇を強いられていた。
グラビア業にも某国民的アイドルが進出し、グラドル達は手弁当で撮影に赴きギャラはゼロ、雑誌に載せてもらってありがたいと思えなんて状況になっていた。
そこで隙間産業を狙うが如く、SFO上でプロモーションをする通称アイドル艦隊を神澤社長が立ち上げたということらしい。
神澤プロモーションSFO支所に着いた。
会議室に案内されると菜穂、紗綾、美優のブラッシュリップスメンバー3人が勢揃いしていた。
美人しかも現役アイドルが目の前にいて焦り、挙動不信になる僕。
そこに神澤社長が両手を広げて今にもハグしそうな雰囲気で寄ってきた。
「やあ、晶羅ちゃん、待ってたよ」
躱す。全力で躱す。
「あはは、つれないな」
先制攻撃を食らってしまったが、ここはきっちり断わる場面だ。
「先日も伝えたと思うんだけど、僕は「ちょっと待って!」」
神澤社長が僕の言葉を遮る。
「とりあえず自己紹介させるから」
神澤社長はアイドル3人に自己紹介をさせた。
舞い上がっている僕は断りの言葉を飲み込んでしまった。
「こんにちわ♡ リーダーやってます、菜穂です♡」
「笑顔担当、紗綾で~す」
「無口担当、美優……」
「「「せーの。3人揃ってブラッシュリップスです♡ よろしく♡(……)」」」
「あ、どうも晶羅です」
話の腰を折られたまま神澤社長に主導権を握られてしまう。
「いま、模擬戦の影響で大変らしいじゃないか」
「確かにそうだけど、それとこれとは話が「違わないんだな」」
「こちらには対策の用意がある。それは……」
神澤社長の話によると、アイドルになって別人のふりをして活動すればいいということだった。
メイクして芸名を名乗れば同一人物だと思われないと。
「そんなこと、本当に出来るんですか?」
僕は適当な事を言っているとふんで詰め寄った。
「それじゃあ、彼女を見て」
神澤社長は菜穂さんを右手で示す。
僕が菜穂さんを見つめると、菜穂さんは後ろを向き少しメイクを直している。
眼鏡をかけ、長い髪を一つにまとめて顔をこちらに向けた。
そこにはタンポポさん(ちょっと美メイク)がいた。
彼女の名誉のために言うが、メイクを落として素顔になったのではなく、素顔に近い美人メイクに地味メイクを加えたのだ。
「タ、タンポポさんじゃないですか!」
「そうよ。これぐらい化けられるのよ♡」
「お見逸れしました……」
アイドルになれば、たとえ今日と同じようなメール突撃をされても、ストーカーと同じなので簡単に対処できると説得される。
アイドルにとってはいつものことらしい。
むしろ間に事務所が入る分だけ安全だとか。
追い掛け回されるアキラより艦隊活動が容易になると。
だが、何としても断ろうとしている僕は芸名活動の問題を指摘する。
「でも、行政府が芸名なんて許さないでしょ? そもそもGNがそれに当たるんだし」
「大丈夫。芸名はアイドル活動に必須だと説得して、行政府から許可ももらい済みだ」
外堀は埋まっていた。僕は言葉に詰まってしまった。
話は勝手に進んでいく。
「芸名は晶羅のあて読みで『きらら』でどうだ?」
「それは(女っぽすぎて)困ります」難色を示す。
「じゃあ『きらり』では?」
(なんで伝説のアイドル名が!! ミ◯メイやラ◯カを名乗らせるぐらい危険だろ)
「それ名乗ったらヲタに殺されます! それだけは勘弁してください!」僕は泣きついた。
仕方なく『きらら』に決定。
これがあのキラキラネームってやつか。
有耶無耶のうちにアイドルデビューが決定していた。
早速菜穂さんが公式SNSに「合格者きらら」の速報を流している。
「ちょっと待って! みんな気付いてないみたいだから敢えて言うけど、僕は男だよ?」
「は?」「え?」「クスクス」「……」
前途多難だった。
これがたぶん最悪な話。
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