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032 アイドル編8 模擬戦トーナメント4

 レールガン。電磁誘導による質量投射兵器。

電磁誘導の速度と弾の質量により威力が変わる。

いくら弾が大きくても軽ければ威力は減り、弾が小さくても重ければ威力は増える。

弾の見た目の大きさより、弾自体の質量が威力を左右する。


 同様にいくら弾が重くても速度が遅ければ威力は減り、弾が軽くとも速度が速ければ威力は増える。

銃の弾丸は小さく軽くとも火薬による発射速度が速いので殺傷能力がある。

人がその弾丸を投げてもそこまでの威力は出ない。せいぜい痣が少し出来る程度だろう。

だが、人が重い鉄アレイを同じ速度で投げたら当たった人は死んでしまうかもしれない。

宇宙を超高速で飛んで来た小さな隕石が地表に落下し巨大クレーターを作ることも同様の論理で説明出来る。

これが速度と質量による破壊力の相関関係だ。


 レールガンの性能にもこの法則が適用される。

電磁誘導の加速による速度が速ければ、口径が小さくとも威力は大きくなる。

だが同じ速度で発射出来るなら、口径が大きい方が威力は大きくなる。

同じ速度で発射出来るなら、口径よりも弾が重い方が威力は大きくなる。

SFOの世界で使用されているレールガンには砲身の長さ、電磁誘導のパワー、口径、弾種という性能要素がある。


砲身が長い=電磁加速の補助が大きく速度が速い

電磁誘導のパワーがある=電磁加速の加速度が大きく速度が速い

口径が大きい=弾体の質量が大きい

弾種による重い弾=弾体の質量が大きい


 つまり長砲身大パワー大口径で弾種が特に重ければ威力が高いということになる。

戦艦に搭載される大口径レールガンとはまさにそんな究極兵器だった。

弾種の中には弾自体が加速に寄与し威力を増すものもある。

弾がイオン化し電磁的に加速しやすくなるとか、弾自体が加速できる飛翔体だったりとか。

SFOの世界で一般的に使われている弾体がイオン加速式であり、飛翔体方式はミサイルの方が誘導という面で使い勝手が良いので採用されていない。

もう一つ採用されている弾種は質量が重い特殊弾になる。



 模擬戦トーナメントビギナークラス3艦の部決勝。

RIOだけ残弾が減ったが、こちらには全く被害が無い。かなりの好コンディションだ。

相手艦隊は「雷鳴」という名前らしい。


『AKIRA』

艦種 艦隊指揮艦(艦隊旗艦)

艦体 全長212m 高速巡洋艦型 2腕

主機 対消滅反応炉G型 高速推進機D型

兵装 主砲 長砲身5cmレールガン単装1基1門 通常弾 50(残弾)50(最大) 特殊弾(Gバレット) 20(残弾)20(最大)

   副砲 なし

   対宙砲 10cmレーザー単装4基4門

   ミサイル発射管 D型標準2基2門 最大弾数4×2 ミサイル残弾 8

防御 耐ビームコーティング特殊鋼装甲板

   耐実体弾耐ビーム盾E型 1

   停滞フィールド(バリヤー)D型

電子兵装 対艦レーダーS型 広域通信機S型 戦術兵器統合制御システムS型

空きエネルギースロット 6

状態 良好


RIO(リオ)

艦種 突撃艦

艦体 全長230m 巡洋艦型 2腕

主機 熱核反応炉D型 高速推進機F型

兵装 主砲 長砲身20cmレールガン単装1基1門 通常弾 67(残弾)80(最大)

   副砲 15cm粒子ビーム砲連装2基4門

   対宙砲 10cmレーザー単装6基6門

   ミサイル発射管 E型標準4基4門 最大弾数2×4 ミサイル残弾 8

防御 耐ビームコーティング特殊鋼装甲板

   耐実体弾耐ビーム盾D型 1

   停滞フィールド(バリヤー)E型

電子兵装 対艦レーダーE型 通信機E型

空きエネルギースロット 0

状態 良好


『NPC艦D型』

艦種 駆逐艦

艦体 全長100m 駆逐艦型 2腕

主機 熱核反応炉G型 標準推進機B型

兵装 主砲 12cmレールガン単装1基1門 通常弾 40(残弾)40(最大)

   副砲 10cm粒子ビーム砲単装2基2門

   対宙砲 5cmレーザー単装2基2門

   ミサイル発射管 D型標準3基3門 最大弾数4×3 ミサイル残弾 9

防御 耐実体弾特殊鋼装甲板

   耐実体弾耐ビーム盾E型 1

   停滞フィールド(バリヤー)G型

電子兵装 対艦レーダーG型 通信機G型

空きエネルギースロット 0

状態 良好



 決勝。これに勝てば賞金100,000Gがもらえ、艦隊ランクがFに上がる。

目の前のVR画面に表示される参加艦艇選択画面に『AKIRA』『RIO(リオ)』『NPC艦D型』のアイコンを掴んで放り込み確定させる。

戦闘宙域はまた「重力異常宙域」にランダム設定された。

長距離射撃が厳しい宙域だが、準決勝で対策はみつけた。

準備完了。試合時間を待つ。


 目の前に数字が現れカウントダウンが始まる。

カウントゼロで目の前の風景が一変し、宇宙空間が表示される。

格納庫からの発進シーンでも入れればいいのに。

さあ決勝戦開始だ。


 レーダーに火を入れる。


「デカイ!」


 巨大な艦の反応がレーダーに映る。1km級?

慌てて戦術兵器統合制御システムを起動、僚艦とデータリンクを繋ぐ。

刹那、敵巨大艦が発砲!

RIOがたった1発で轟沈した。


「なんで戦艦なんているんだよ!」


 慌てて回避運動をする。人の意識ではパターン化するのでサブ電脳によるランダム回避だ。

合わせて重力異常スポットを盾に利用する。


「ミサイル全弾発射! 目眩ましでいい!」


 少しでも時間を稼ぎたい。

NPC艦D型が3発3連射、合計9発を撃つ。

僕の専用艦も2発4連射、合計8発を撃つ。

こちらのミサイルは次発装填分も全て撃ち尽くした。

ミサイルが雷鳴艦隊に向かう。

雷鳴艦隊の残り2艦が敵戦艦の左右に展開、対宙防御の弾幕を張る。

2艦は防宙専用艦のようだ。


(これじゃ、ミサイルは全弾撃ち落とされるな)


 さて、こちらにはもう敵艦にダメージを与えるような強力な武装はないぞ。

レールガンは豆鉄砲の5cmだし。

とりあえず牽制でレールガンを撃つ。

NPC艦D型だって12cmレールガンだ。

僕の専用艦より頼りになる。


 幸いなことに敵戦艦はレールガンを回避しようとしてくれる。

こちらが豆鉄砲を撃っているなんて気付いてないのだ。

その回避運動によって敵戦艦は照準が付けられない。

こちらのレールガンの残弾がみるみる減っていく。


 その時、不幸が起きた。

僕の専用艦のレールガンが敵戦艦に直撃弾を与えてしまったのだ。

豆鉄砲は敵戦艦の停滞フィールドにダメージすら与えられなかった。

それに気付いた敵戦艦は回避運動をやめた。

敵戦艦は射撃補助装置を使い慎重に照準を合わせる。

レールガンを発射。その大口径弾が僕の専用艦に迫る。


 もうダメかと思った瞬間、NPC艦D型が間に割って入り、僕を庇ってくれた。

NPC艦D型は轟沈。いよいよ僕はひとりぼっちだ。


(ありがとう。NPC艦D型。君のことは忘れないよ。同型艦いっぱいいるから区別つかないけど……)


 大口径レールガンの唯一の弱点は発射エネルギーが大きいということだ。

それを供給するのが戦艦という巨大な艦体にのみ搭載が許される巨大エネルギー炉だ。

だが、戦艦といえども、そんな最上級のエネルギー炉を搭載出来るわけじゃない。

つまり搭載されているエネルギー炉によっては次弾を撃つまでに時間がかかる(タイムラグがある)はず。


(敵戦艦の次弾発射までに考えろ! 僕!)


 敵の弾は大きいく体積がある。

体積があれば重力場の影響圏に入りやすい。

射撃補正装置で絶妙な制御をしている弾は少しのズレで照準を外す。

つまり僕の専用艦の豆鉄砲でも、当たれば敵弾のコースを変えられるかもしれない。

照準は一つ。重力異常スポット横を弾が通過する瞬間に、敵弾のコースをそちらに向けてやればいい。

作戦は決まった。僕は繊細な射撃を行うために艦の回避行動を止めた。


 敵戦艦が大口径レールガンを撃つ。

僕は敵弾のコースを逆算予測して豆鉄砲を撃つ。

迎撃成功。敵弾は重力異常スポットの影響を受けて大きく逸れた。

いいぞ。だが敵への攻撃手段を考えないと手詰まりだ。


 そのような綱渡りの迎撃を続けること数発。

敵戦艦は徐々に重力異常スポットを避ける方向に移動しはじめた。

豆鉄砲が大口径弾のコースを変えるからくりに気づかれたようだ。

僕も敵戦艦との位置を修正して、なるべく重力異常スポットを間に入れるように動く。

このままタイムオーバーなら負け決定だ。

そんな遣り取りを続ける中、ついに僕はレールガンの通常弾を撃ち尽くしてしまった。

終わった。万策尽きた。もうやることがあるとすればダメ元で特殊弾を撃ち込むのみ。

僕は自棄っぱちで用途不明の特殊弾を撃つことにした。


(これでダメなら降伏だな)


 長砲身5cmレールガンの照準を射撃補正装置を使い敵戦艦に合わせる。


「特殊弾発射!」


 レールガンの2条のガイド砲身(レール)が電磁的な力を纏いスパークする。

その2条のガイド砲身(レール)の間で後部をプラズマイオン化した弾体が加速していく。

超高速に加速された小さな弾体は、重力異常スポットの影響を受けつつも一瞬で敵戦艦に辿り着き、そのエネルギーを開放する。

射撃補正装置が検出している重力値が異常に跳ね上がる。

その弾体は(グラビティ)バレット。

弾体は小さくとも一瞬で超質量を顕現する重力弾だった。

速度と質量。その内包するエネルギーが敵戦艦に直撃した。

敵戦艦は盾もろとも中央をぶち抜かれ(ひしゃ)げた。

続いて大爆発。防宙のため接近していた僚艦を巻き込み少なくない被害を出した。

敵艦から緊急通信。


『『こ、降伏します!!』』



『雷鳴艦隊降伏。試合終了。おめでとうございます。アキラ艦隊の優勝です』


 システム音声が響き、目の前の映像がエントリー会場に戻る。


「やべー! 超やべー! 重力弾なんてバカじゃないの!?」


 僕の専用艦の主砲は豆鉄砲なのにバケモノだった。

特殊弾は電脳空間でしか使用できないって言い訳で秘匿しよう。

ていうかもう実戦しかも緊急時以外で使うのをやめよう。


 目の前にギルド職員のアバターが表示される。


「それでは賞金の130,000Gです。腕輪払いです」「ちゃりん♪」と擬音。

「参加費はありません。NPC艦レンタル料は……」

「ええっ!」

「データなのでゼロです」

「脅かさないでよ……」


 何にせよ、これで模擬戦初優勝だ。

この模擬戦映像も配信されてお小遣いが発生する予定。

重力場の影響は質量(重さ)ではなく物体の体積(大きさ)によるものでした。

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